太陽は奪うもの
光が、世界を塗り替えた。
白でも、黒でもない。
新しい色が、空間を侵食していく。
それは、私の選択。
世界を書き換える力。
『構造異常』
目が揺れる。
『維持不可能』
空間が悲鳴を上げる。
崩壊と再構築が同時に進む、不安定な状態。
「……成功してる」
ダニエルが低く呟く。
「だが──」
「まだ終わってない」
クリストフが言う。
剣を構えたまま、周囲を警戒している。
「当然だ」
短い言葉。
だが、その中に覚悟がある。
そのとき。
空間の奥で、別の亀裂が走った。
それは今までのものと違う。
荒々しく。
強引で。
明らかに外からこじ開けられたもの。
「……何?」
嫌な予感がする。
次の瞬間。
轟音と共に、空間が裂けた。
焼けつくような熱。
眩しい光。
そして──
「ははっ、やっぱりここか」
楽しげな声。
振り返る。
そこに立っていたのは。
「……アルベルト」
金色の髪。
琥珀の瞳。
太陽のような存在感。
この異質な空間においてさえ、まったく飲み込まれていない。
むしろ──
空間の方が、彼に侵食されている。
「探したぞ」
ゆっくりと歩いてくる。
その足取りに、迷いは一切ない。
「お前、こんな面白い場所にいたのか」
笑っている。
状況を楽しんでいる。
「……どうしてここに」
思わず問う。
ここは世界の内側。
本来、入れる場所じゃない。
「決まってるだろ」
アルベルトは肩をすくめた。
「お前がいるからだ」
その一言で。
すべてを説明してしまう。
理屈じゃない。
この男は、そういう存在だ。
「殿下」
クリストフが前に出る。
冷たい視線を向ける。
「ここは貴様が踏み込んでいい場所ではない」
「へえ?」
アルベルトが笑う。
面白そうに。
「まだそんなこと言ってるのか」
一歩、近づく。
空気が変わる。
熱と冷気がぶつかる。
「ここはもうお前の国じゃない」
静かに言う。
「俺の獲物がいる場所だ」
その視線が、私に向く。
まっすぐに。
迷いなく。
「……マルール」
名前を呼ばれる。
それだけで、胸がざわつく。
「来い」
手を差し出す。
当然のように。
「……何言ってるの」
「決まってるだろ」
笑う。
いつも通りの、傲慢な笑み。
「連れ帰る」
さらりと。
とんでもないことを言う。
「世界なんてどうでもいい」
その言葉に、空気が凍る。
クリストフの瞳が鋭くなる。
「お前は俺のものだ」
断言。
一切の迷いなし。
「……ふざけないで」
思わず言い返す。
「私は──」
「知ってる」
遮られる。
その瞳は、真剣だった。
「お前は選ぶんだろ?」
心臓が跳ねる。
「なら、俺を選べ」
その言葉は、強引で。
でも──
どこか、切実だった。
「……アルベルト」
名前を呼ぶ。
彼は、少しだけ目を細めた。
「俺はな」
ゆっくりと、口を開く。
「何も守れなかった」
意外な言葉。
初めて聞く声。
少しだけ、低い。
「家族も、国も、全部奪われた」
過去が滲む。
「だから決めた」
強く言う。
「今度は、全部奪う側になるってな」
その瞳は、燃えていた。
ただの欲望じゃない。
選び続けた結果の、覚悟。
「世界なんて関係ない」
一歩、近づく。
「お前だけいればいい」
その瞬間。
「……ふざけるな」
クリストフが前に出た。
明確な怒気。
今まで見たことがないほどの。
「それは支配だ」
低く言う。
「本人の意思を無視した選択は、秩序ではない」
「秩序?」
アルベルトが笑う。
「まだそんなものに縛られてるのか」
一歩、踏み出す。
互いの距離が詰まる。
「奪えよ」
挑発。
「欲しいならな」
空気が張り詰める。
二人の王。
氷と太陽。
正反対の存在が、真正面からぶつかる。
「……やめて」
思わず声を出す。
二人が、同時にこちらを見る。
その視線の重さに、一瞬息が詰まる。
「私は」
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
「誰のものでもない」
はっきりと言い切る。
沈黙。
ほんの一瞬。
そして。
「……ああ、そうだな」
アルベルトが笑った。
楽しそうに。
「だからいい」
「え?」
「奪う価値がある」
まったくぶれていない。
むしろ、強くなっている。
「……本当に」
呆れる。
でも。
どこか、救われる。
この男は、最初から変わらない。
「マルール」
今度は、クリストフが名を呼ぶ。
「選べ」
静かに言う。
「君の意思で」
アルベルトも、何も言わない。
ただ見ている。
待っている。
二人とも。
私の答えを。
そのとき。
『干渉過多』
目が、大きく揺れた。
『排除処理、強制移行』
空間が崩れる。
今までとは比べものにならない圧。
「……まずい!」
ダニエルが叫ぶ。
「来るぞ、本格的に!」
無数の手が現れる。
世界そのものが、こちらを消しに来る。
「チッ」
アルベルトが舌打ちする。
「邪魔だな」
そして。
ゆっくりと、笑った。
戦う前の、あの顔。
「いいぜ」
腕を広げる。
「相手してやるよ、世界」
その言葉と同時に。
空間が、燃え上がった。
太陽のような光が、すべてを焼き払う。
「……行くぞ」
クリストフも構える。
冷気が空間を支配する。
「守る」
短い言葉。
だが、十分だった。
ノエルが並ぶ。
ベルナールの気配が、遠くから近づいてくる。
すべてが、交錯する。
世界と。
人と。
意思と。
そして。
「──ここからが本番だ」
ダニエルの声。
静かに、だが確かに響く。
そう。
ここからが、本当の戦い。
選択を巡る、最後の局面。
世界が、牙を剥く。
それに対して。
私たちは──
抗う。
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