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暗殺者の刃

 



 舞曲が静かに始まった。


 弦楽器の旋律が広間に広がり、貴族たちはゆっくりと舞踏の輪へ入っていく。


 しかしその中心で踊る二人に、視線は集中していた。


 白銀の髪の皇太子。


 蒼い瞳の青年。


 そしてその腕の中で舞うのは、マルール・ディジュワール。


 周囲の囁きは止まらない。


「皇太子殿下が……」


「本当にディジュワール令嬢と」


「これは……」


 マルールはそれらを聞こえないふりをした。


 クリストフの導きに合わせ、静かに歩を進める。


 彼の動きは完璧だった。


 無駄がない。


 正確で、静かで、そして冷たい。


 しかし今は、どこか違った。


「……殿下」


 小さく声をかける。


 クリストフはわずかに眉を動かした。


「どうした」


「皆、見ています」


「構わない」


 短く言った。


 そして少しだけ声を落とす。


「噂を黙らせるには、これが一番だ」


 マルールは少し困ったように微笑む。


 そのときだった。


 背後から、楽しげな声が聞こえた。


「派手にやるじゃないか」


 振り向くと、そこに立っていたのは金髪の男。


 琥珀色の瞳。


 アルベルト・ラナグローク


 敵国の王。


 彼は腕を組みながら舞踏を眺めていた。


「帝国の皇太子が、ここまで露骨とは思わなかった」


 クリストフの蒼い瞳が冷たく光る。


「黙って見ていろ」


「もちろん」


 アルベルトは笑う。


「面白いからな」


 その視線は、明らかにマルールへ向いていた。


 しかし。


 そのときだった。


 ベルナールが、ふと視線を動かした。


 彼の目が、広間の奥を捉える。


 違和感。


 ほんの一瞬。


 人の流れの中で、動きが不自然な影があった。


 フードを被った男。


 舞踏の輪の外側。


 しかしその手が──


 袖の中で何かを握った。


 ベルナールの瞳が鋭くなる。


 次の瞬間だった。


 男が突然、駆けた。


 一直線。


 マルールへ向かって。


 その手には、短剣。


 灯りを反射する鋭い刃。


「──っ!」


 ベルナールが叫ぶ。


「殿下!」


 だが。


 その声よりも早く、クリストフが動いた。


 マルールの腰を引き寄せる。


 身体を反転させる。


 同時に。


 暗殺者の刃が振り下ろされた。


 しかしその瞬間。


 鈍い音が響く。


 剣が弾かれた。


 赤髪の騎士の大剣が、暗殺者の刃を受け止めていた。


 ベルナールだった。


「無礼者」


 低い声。


 そして一歩踏み込む。


 巨体から放たれる圧力は凄まじい。


 暗殺者は一瞬怯んだ。


 しかしすぐに後退する。


 その瞬間、広間は混乱に包まれた。


「きゃああっ!」


「暗殺者だ!」


「逃げろ!」


 貴族たちが悲鳴を上げる。


 だがベルナールは動かない。


 ただマルールの前に立つ。


「お嬢様」


 静かな声だった。


「下がってください」


 その背中は巨大だった。


 まるで壁のように。


 暗殺者は再び刃を構える。


 その目は狂気に染まっていた。


 そして。


 低く呟いた。


「……礎を消せ」


 その言葉に。


 空気が止まった。


 クリストフの蒼い瞳が鋭くなる。


「今、何と言った」


 暗殺者は答えない。


 ただ再び突進する。


 しかし。


 次の瞬間。


 剣閃が走った。


 ベルナールの大剣が、暗殺者の刃を叩き落とす。


 続けて、騎士たちが一斉に飛びかかった。


 暗殺者はすぐに取り押さえられる。


 広間に重い沈黙が落ちた。


 誰も動かない。


 クリストフがゆっくりと歩み寄る。


 取り押さえられた男を見下ろす。


「誰の命令だ」


 暗殺者は笑った。


 血の滲む口元で。


「……遅い」


「何?」


 その瞬間。


 男の口から血が溢れた。


 毒だった。


 身体が崩れ落ちる。


 騎士たちが叫ぶ。


「殿下!」


 しかし、もう遅い。


 暗殺者は絶命していた。


 沈黙。


 重い沈黙。


 広間の誰もが理解していた。


 これは偶然ではない。


 誰かが。


 確実に。


 マルールを殺そうとした。


 そのとき。


 後ろから声が聞こえた。


「……なるほど」


 アルベルトだった。


 彼は興味深そうに死体を見ている。


「やはりな」


 クリストフが振り向く。


「何を知っている」


 アルベルトは答えない。


 ただマルールを見る。


 琥珀の瞳が細くなる。


「面白くなってきた」


 その言葉は低かった。


 まるで。


 これから起きることを、すべて知っているかのように。


 そしてそのとき。


 マルールの背後で、ジョルジュが静かに呟いた。


「……礎」


 瞳が鋭く光る。


「やはり、そうなのですか」


 彼の視線は、まっすぐマルールに向いていた。





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