第十六章-2 誰かの為にと問われたら……
その痕がE-3にも現れた。
弾丸の痕が。
「敵襲! 周辺の警戒を!」
指揮官アンドロイドが慌てる。
「はぁっ‼」
その好機を逃さなかったのはステラさんだった。
周囲のアンドロイドが誘蛾灯に飛び込んだ蛾のように舞い落ちる。吹き飛んだアンドロイドは、どれも痙攣したような動きを見せているから、電気の魔法で一掃したか。
「本部に緊急連絡、応――」
指揮官アンドロイドが伝達しようとした瞬間、頭部が強烈な弾丸で打ち抜かれた。
「何があったか知らんが、非戦闘員を避難させろ! 悠! 智人! お前らはそっちについて行け! ステラ! お前、射撃主に覚えはないのか?」
「いえ、そもそもここに撃てる人はいないはずですよね! そうですよね!」
彼女の嘆きに誰もが同情した。
「真美! 大丈夫か⁉」
そこには頬の部分から配線や基盤が剥き出しになった敵が倒れていた。
けど、誰も敵とは思ってなどいない。もし敵だと思う奴がいたとしたら、事の顛末はもっと早かっただろう。
どれだけ囲まれようとも勇者と言う圧倒的な実力で駆除できるステラさん。
リーダーとしてレジスタンスに危害を加える存在は誰であろうと排除する咲倉さん。
咲倉さんに負けることの無い実力を持つ悠さんに智人さん。
誰だって真美ちゃんの動揺を感じ取れば(咲倉さんに至っては孤児たちを信用しない発言さえあったから、例え哲也が人質に取られていたとしても撃っていた可能性はあった)
誰もが真美ちゃんの裏切りに失望しながらも、彼女を憎むような人はいなかった。
だとしたら、この変化を起こしたのは、誰?
その答えはすぐさま出た。
「お前さんに連れ去られたら俺が困るんだ。それに小僧、お前も重要だ。さっさとここを離れるぞ」
「あ、あなたは⁉」
「お前が撃ったのか⁉」
入り口付近で更なる銃声とアンドロイドが朽ちる音と共に現れたのは先ほど別れた例の男だった。
「今船の方から降りてくるアンドロイドを数体見た。ここはもうじき包囲される。その前に逃げる――ぞ」
男は今置かれている危険性を訴える。その途中で飛翔物が男に向けられて飛来するも、銃弾ですら避けている男にとって、問題にもならない速度だった。男の表情に何の乱れも無い。
一方で乱れていたのは、近場に落ちていたE-3のパーツをぶん投げた哲也の方だった。
「誰だよお前! いきなり現れて真美を撃って――お前真美に何か恨みでもあるのか⁉」
声を荒げる哲也の顔には怒り、目には涙が溢れていた。
「そいつ個人では無い。けど、アンドロイドに恨みは募るほどある。お前には無いのか、その銃に奪われた親はいないのか? その腕に消された旧友はいないのか?」
哀れな子供を見ても、非情な男の追撃は収まらない。かく言う俺もアスファルト下で痩せ細った子供たちに対して非情なことを告げた身だ。強くは言えない。それでもあんまりだと思えるのは、彼と、そして敵であったとしても、真美ちゃんと一緒にいる時間が長かったからなのだろう。
「お前は誰だ? そこの二人とどういった関係だ?」
「あいつは例の俺たちを騙した奴だ」
「ほう。お前が詐欺師か?」
「どうもレジスタンスのお嬢さん。ですが、私は今あなたに何の用もありません。用があるのは別です」
「そうか。あたしのメンバーに何かしたら、いや。既に何かしていたな!」
咲倉さんが声をあげて男を批難したことに、誰もが。特に、哲也が目を向けた。リーダーがアンドロイドである真美ちゃんをメンバーの一人だと認めてくれた瞬間だった。
「ステラ。そいつはかなりの実力があると見てとれる。君が押さえてくれ」
「はい!」
「おっと。そんなことをしていていいのかな?」
ステラさんが剣の柄に手を添えた瞬間、男が一歩引いて銃口を上に向けた。今までは俺を人質に取られていたせいで彼女は対抗できなかったが、今回の場合は距離があった上に警戒もしていたおかげで、奴には抑止力が無い。
ステラさんとの実力差を理解している男は抵抗する意思が無いと言うことを伝えたいようだ。
「それよりも今は安全を確保するのが大事じゃないのか? あれが見えねえのか?」
男が暗闇を指差す。
が、そこはすぐさま闇では無くなる。
光の束が辺りを照らし、砂浜での隠れ場所を奪っていく。
「船が、こちらに近寄っている!」
「それも規模からして護衛がどれだけいるか計り知れない。この状況でこちらが内輪揉めしている暇はあるのか?」
「本当にお前あいつらとは無関係なんだろうな?」
あまりにも出来過ぎた襲来に、俺は男とアンドロイドたちの因果関係を疑う。
が、それが気に障ったのか、男は上にあげていた銃を下げてきた。
「そう思うんなら、そこでまだ動けそうなアンドロイドをぶちのめしてやるよ」
「止めろ!」
銃口は真美ちゃんに向けられた。咄嗟に哲也が前に出て庇う態勢を取る。そんなことしてもアンドロイドさえ行動不能にする銃弾には何の意味も無いことは哲也自身理解しているだろう。
「……て、つ、や」
「真美?」
「周辺、アンドロイド、多数。C-2よりG-35――アンドロイド総数、87」
突然真美ちゃんの声がアンドロイド特有の機械音と化す。その声から伝えられた事実は、俺たちに絶望を与える。
「そりゃかなりのお出ましだな。急所を狙い続けなければ一発ミスした時点で終わりだ。それでも今は言い争うか?」
「……もし、途中で裏切るようなことがあればいつでもお前を撃つ」
「それはつまり、一人戦力を削ることになるぞ?」
「必要のない心配だな。あたしたちには期待できる存在がいるんだ。任せていいか? 勇者よ」
「はい!」
87体と言う数字は1体1でも危険極まる射撃戦においては絶望的な数値だった。
けど、そこに歴史的武将、一騎当千を果たせる猛者が現れたらどうなるだろうか?
その結果が、咲倉さんの指示を受けた数十秒後に出ることとなる。




