第十六章-3 誰かの為にと問われたら……
「真美、いくぞ――」
「テツ、ヤ、私、置いて、ケ」
「配線から電気が漏れている感電する可能性があるぞ」
「知るかよんなの」
由人さんの忠告を完全に無視した哲也が真美ちゃんの右手を肩に乗せ、おんぶする形で運ぼうとする。しかし、小柄な少女をおんぶする方もまた、小柄な少年。どうしても引きずる形となってしまう。
そして何より危険視しなければならないのが、剥き出しの配線から偶に発する稲光。それに頬を擦り寄せる位に接した哲也が感電しないか周りは不安で仕方がなかった。
「私も手伝う!」
「僕も、少しは」
その姿を見た孤児の皆が哲也の負担を少しでも減らそうと哲也とは逆サイドに回って真美ちゃんを支え、あまり力にはなれてないように見えるが、背中から押すような形で手伝ったり、それなりの形で手伝い始める。
「……ふん。それで遅れるようなら置いていくしかないな」
「亀みたいに鈍いが、それでも余裕があるようにはなっているさ」
咲倉さんが微笑むと同時に、外では無数の銃声と、それに負けない爆音が轟いた。銃声は止まない。それつまり、討伐対象が未だに倒せていない証拠だった。
彼女はこの世界初の勇者になった。目撃者は数少なくても、その名は語られるだろう。
「よし、俺たちもそろそろ仕事をするか!」
「下手に出るなよ。的になるだけだ」
外の盛り上がりに悠さんと智仁さんが飛び出る。それに続くかのように戦闘員のレジスタンスが続く。
「お前たちはゆっくり来い。由人、恵太援護を頼む。お前は下手に動くな」
「そうか? あいつらの腕は確かそうだが、俺も加わった方が早く終わりそうだぜ?」
「その心配はいらない。彼らの腕をあたしは信じているし、残り矮小な軍勢くらいは」
「警告……強力な個体、不利――――駄目。行かせちゃ」
咲倉さんの余裕な笑みが浮かんだと思った途端真逆の表情を作り上げた真美ちゃん。
「何だよ真美。危険って」
「DANGEROUS。ENERGY、ALL、OK。退避、退避、退――」
彼女が言葉を続けようとした言葉は、真っ白な光と耳を掻っ切るような悲鳴のような音で消し去られた。
「何だ一体⁉」
「本気を出した、というべきか」
「本気? お前はあいつらの何をしたというんだ⁉」
「俺は知らん。ただ、船の一隻あるんだ。アンドロイド個体じゃ持てないほどの巨大な兵器を一つや二つ持ち歩いていてもおかしくはないだろう」
男は咲倉さんの怒号をさらりさらりと流しながら、何が起きたか知っているであろう人物を睨みつけた。
「レーザーカノン。高熱放射器。中心温度は500度に達する、瞬間光線。対遮蔽物兵器」
「被害は! 悠! 智仁! ステラ!」
「ステラさん! 大丈夫ですか⁉」
俺は彼女を暗闇と光の帯が交差する中で探す。一瞬で発せられた光線。それも500度に近いとなれば、直撃すればただじゃ済まない。
「リーダー……!」
「智仁! 無事……智仁! しっかりしろ!」
男を見張るという重大な任務があったはずの咲倉さんから、リーダーという重責務を引っ剥がすには、智仁さんの姿は十分過ぎた。右腕の肘近くから先が、完全に無くなっている。それも切断されたと言うよりも、元から無かったと言った方が相応しいと言えるように、すっぱりと切られていた。
「焼却消毒みたいだな……もう痛みすら感じていない……始めから無かったかのようだ」
「皆さん大丈夫ですか⁉」
「ステラさん! 無事だったんですね!」
「ケイタさんも無事でなにより――智仁さん! それは⁉」
「流石の勇者様も驚きですね」
「智仁。悠は? 悠の姿が見えないが」
「……あそこに岩があるだろ? いや、岩の一部か」
俺たちは智仁さんが指し示す方を見る。そこには自然物としては不自然な位上部分が斜めに切られた岩のシルエットが見えた。
そこがレーザーカノンの通り抜けたルートだったようだ。そこにはそれを残して全て焼き払われたかのように見えた。
けど、違っていた。
艦上からの光源が岩に向けられた時、地面に転がる一つの影がはっきりと見えた。
「ゆ……う……」
地面に転がる片足。股下辺りから上をすっぱりと切られたそれを見た瞬間、咲倉さんの毅然の塊である心と膝が落ちた。




