第十四章-6 善と悪の区別とは……
「やるじゃねえか哲也」
「前に偶然見つけた排気口が上手いこと止まっていて良かったぜ!」
哲也はカビ防止の為に備え付けられていた大きな排気口を通って倉庫内部に潜入したという。普段はファンが回っているせいで、通ろうとすると身体が分断されかね無かったのが、今回は何故かファンが止まっていて(恐らくステラさんの雷魔法でショートしたせい)なおかつ内部の電気も落ちていたせいで、何の心配も無く盗みを働くことが出来たという。
その成果は俺たちレジスタンスの実に十倍近かった。彼らが住処としているアスファルトしたの空洞には、俺の身長近くまで積まれた缶詰の山と、飲料水、無造作に積まれたパンは小さな山のようだった。
「よくこんなに盗めたな? こんなの詰め込んだら重いに決まってるだろ?」
「バケツリレーだよ。倉庫内で詰め込むかかり三人に排気口を行き来する奴一人、外からアジトまで五人で回せば意外とスムーズにいけたぜ?」
「お前の悪知恵は場所によっちゃかなり重宝されるな」
「俺の名案を悪知恵って言うな!」
訴えるもその声には喜びが滲み出ていた。
「久々に腹一杯食えるって皆大喜びだ!」
大喜びと言うが、子供たちは喜ぶ隙も無く、一心不乱に食い散らかしている。よっぽどお腹が減っていたのだろう。
「でも、そうしてる間もないぞ?」
そんな子供たちをどん底に落とさなければならないのが心苦しかった。
「これでお前たちも大罪人だ。アンドロイドたちがいつここを攻めてくるか分からない。折角手に入れた大量の食料も、動くにはただの重石にしかならんぞ?」
「それは……置いてくしかねえだろ」
哲也の言葉に「えぇっ!」「やだっ!」「私ここから離れたくない!」と子供たちからヤジが飛ぶ。ひもじい思いをしていた中でようやく勝ち取ったこの場所は子供たちにとってのテーマパーク。それを僅か一日も経たずに捨てることに、悲しまない物はいない。
「そうです! 皆も一緒に逃げましょう!」
そこで案を出してくれたのは、予測通りステラさんだった。
「私たちはこれから南に逃げるんです。皆さんも一緒に逃げませんか?」
「逃げるって、どこへだよ?」
「それはこの人たちが教えてくれます」
「待て! あたしたちは孤児を抱えるほど余裕は無いと前にも話しただろ! それに今回の輸送機襲撃で大した成果も得られなかった猶の事だ! どうやってこの大所帯を」
「あるじゃないですか。養えるだけの物が」
ステラさんの何の相談も無い企画に、哲也も咲倉さんも大層困っているようだった。
そう全く相談などなかった。
「互いに言い合っても、双方の納得がいく結果に納まる確率はかなり低かったんだ。ステラさんと咲倉さんとだって揉めたのに、レジスタンス孤児を手ぶらで持って来させても結果は見え見えだったからね」
「だから、あたしたちに内緒でこのような計画を練っていた訳?」
「いえ、このことはステラさんにも伝えていませんでした。ステラさんが戦うとなれば相手は全総力を持って戦わざるを得ないでしょうし。それにもしこのことをステラさんに教えていたら、子供たちのことが気になって戦いに専念出来なかったと思いましたから」
「俺と恵太の秘密の作戦だな!」
「敬語を使え。そうしねえと、レジスタンスからすぐに追い出されるぞ?」
大人の厳しさとは正反対な軽い小突きを入れた。
「お前たち……」
勝手に話を進め、既に一員であるような雰囲気に咲倉さんは当然呆れた。
「お願いします。この子たちも一緒に連れて行ってください! このままこの子たちを放っておく何て私にはできません!」
そこに畳みかけるようにステラさんからの懇願。今回の作戦は裏側があったにしろ、表側が無ければ成立しない作戦だった。その表舞台の立役者であり、必要不可欠だった要素のステラさんからのお願いは咲倉さんの心には大きく響いたに違いない。
俺たちがレジスタンスを抜けることは今となっては少しのリスクしか伴わない。何故なら、生きる為の備えが手に入ったからだ。衣に関してはステラさんが禁断症状を起こしかねないけど、そこはまた後で考えればいい。
例え敵が攻めてきてもステラさんがいれば百人力。いや、一騎当千の力を見せてくれる。
そんな戦力を、咲倉さんもみすみす捨てる訳にはいかない。
「はぁ。分かった、ここでお前と言う戦力を失うと計算が狂い過ぎる。好きにするがいい。ただし! これからは乞食では無くレジスタンスとして働いてもらうからな! 物乞いをするのも、誰かを騙すのも無しだ! あたしたちはあたしたちなりの信念を持って行動している。それに基づかない物は足手まといと見なす。分かったな!」
最後の一喝で壁と天井、そして子供たちが揺れた。
「返事が無いと言うことはついて行く気が無いと言うことだな⁉」
「「「は、はぃぃぃぃ‼」」」
今まで叱責してくれる人がいなかったからなのか、子供たちは激しく動揺した返事をする。
「お、ぉぃ! 一応ここでは俺がリーダー何だぞ! こいつらはには俺が指示」
ドグゥッ‼
「「「「「っ⁉⁉⁉⁉⁉」」」」」
衝撃が走った。
その衝撃を直接受けた哲也。
その衝撃を目の当たりにした周囲の、男たち。
「おっ、ぉぉぉ、ぼっぼぼぁ……」
鍛え上げられていたのか、咲倉さんの鞭がしなったような一撃を股間に受けた哲也は、言葉を上手く発せないまま大事な部分を押さえていた。
「いつ追手が来るかも分からん。すぐに荷物を纏めるんだ。お前たちも手伝え!」
「は、はいぃ‼」
いつ目の前で起きた惨劇が自身に振りかかってくるか分からない恐怖に、男たちは一秒でも早く解放されたいが一心に返事をした。
咲倉さんの指示に遜色が無い程度に俺は哲也に近づき、一言呟いた。
「言っただろ? これが大人の世界だ」
哲也が頷くことは倫理的にも物理的にも無かった。




