第十四章-5 善と悪の区別とは……
「お前たち、この前ステラさんに店を襲撃させようとしてた奴らだよな?」
「誰だお前? 誰だよそのステラって?」
子供たちへの接触は以外にも容易だった。
すぐさま逃げ出すかと思ったらその場に留まって俺のことを待っていた。
「とぼけるな。昨日の夜女の人に、お店にいるアンドロイドが自分たちの食料を盗んだから取り返してきてほしいってうそぶいていただろ?」
「あ、あぁ! あの時いた男か。地味だから分かんなかった」
「地味で悪かったな!」
「あの姉ちゃんが変わった格好してたからな。あんな格好でエッチィことするとか、お前変わった趣味だな」
「あれは警察が店を誤ったんだ! つかてめえどこから見てたんだ⁉」
少年は俺が一部始終知っていることに何の驚きも示さない。それどころか俺の動向も知っていたみたいで、まるで手のひらで踊らされているかのような巧みな話術を繰り出す。
「まぁいい。それよりだ、俺達が何をしようとしているのか知ってるのか?」
「あの倉庫、それも輸送機が来る前だから輸送機を襲うんだろ? 命知らずだな」
「そうしないといけない理由があるからだ。で、お前たちは俺達の動きを見てどうする気だ? 言いふらすのか?」
「賊が襲ってくるって分かってるんだから警察に情報提供するのは当たり前だろ?」
「賊がよく言う。お前も人を騙してるんだし一緒なもんだろ?」
「俺らは無謀なことはしねえ賊なんだよ」
「結局賊じゃねえか」
自分の行いを誇りに思っているのか、ただの馬鹿か。計算高さからいうに前者であることは間違いない。
「それを言えばどれくらい貰えるんだ? 市民でも無い孤児がどれくらいの施しを受けれるんだ? 市民にして貰えるのか?」
「んな夢物語あるわけねえよ」
「じゃあどの程度の報酬が期待できる?」
「……パンくらい貰えればいいかなって」
「すっげえ消極的だな」
今まで大口叩いていた割にここに来ていきなり弱気になった少年に優しさの欠片も無い言葉をぶつける。
「仕方ねえだろ! もう二日も何も食べてねえんだよ! そうしねえと皆餓死しちまう!」
少年は大声で訴えかける。少年の周りにいた子も、俺を今でも殺してやろうかという目で見ているが、頬は痩せこけ、何らかの発疹が出来ている子も少なくはなかった。危険な場所だと考えてずっと右手は銃のグリップに添えてあるのだが、やろうと思えば素手でも行けるんじゃないかと思えてしまうほど、皆弱っていた。
ステラさんが助けたがるのもよく分かる。テレビでこのような子供たちが出ていれば寄付金がいくらかは貯まるだろう。
「ならお前の特技でアンドロイドたちを欺けばいいんじゃねえか?」
「そんなことしてバレたらどうするつもりなんだよ! 殺されちまうかもしれないんだぞ⁉」
少年は遂に本音を出した。やっぱり死は怖いんだな。
「俺たちを通報するのもいい。それでどれだけのパンが貰えるかは知らん。けど、その後はどうする? 俺達みたいな無謀人がポンポン湧くとも思えない。ステラさんみたいな超絶お人好しが現れるとも思えない。その後はどうするんだ? 皆餓死しちまうぞ?」
「……」
少年は遂に押し黙ってしまった。
結局その場凌ぎか。そのために俺たちの作戦を邪魔されるのは困る。
俺は銃を引き抜く覚悟を決めようとした。
が、抜けなかった。
何とか子供たちを助けたい。
ステラさんの一言が、俺が決めた困った時はお互い様が、決断を鈍らせる。
「そうだ。皆死んじまう。時間の問題なんだ。お前に残された時間はほとんど残されていないんだ。生きたくねえのか?」
「……」
少年はそれでも口を閉ざす。
「死にたくない」
けど、それ以外の子供たちは口を開いた。
「お腹すいた……」
「身体が痛い」
「のどが渇いた」
「死にたくない……」
ネガティブな言葉がどんどん生まれていく。
暗いアスファルト下の洞窟には負のオーラが循環する。
「俺だって」
遂に、そのオーラが少年をも覆う。
「俺だって飯は食いてえ。けど、死にたくもねえ。俺たちはレジスタンスの人間たちみたいに武器を持っていないし、それ以前に覚悟もねえ。死にたくねえんだ。死んだら終わりなんだ。だから、レジスタンスにも入れないんだ」
俺はこの時、少年がレジスタンス入りを望んでいることを知った。
今の世界をよく思っていない。その気持ちは十分にあるようだ。
けど、そのための勇気。それが足りていない。それに例えレジスタンスに入れたとしても技量が足りなければただの足手まといになりかねない。現状の俺のように。
こいつは俺に似ているかもしれない。
力になりたいと思っている人がいる。だけど、自分自身じゃ到底力にはなれないと諦観してしまっている自分を具現化したような子供。
俺はゆっくり考えた。そして、ホルスターから銃を引き抜いた。
子供たちが腰を抜かし地面に張り付けにされる。
「や、やるって、のか?」
唯一少年だけは立っていられた。が、その足は震えていて、軽く蹴ってやれば周りの子供たちと同じ形に変えてしまうことは可能だった。
「俺は銃をほとんど扱ったことが無い」
俺は銃弾の変わりに一言放った。
「アンドロイドに始めて撃った時は四発も外したし、何より連続して撃つことも出来なかった。だから、俺は俺の出来る範囲で手伝うことを決めた。荷物運びや情報共有、格好悪いかもしれねえが、それでもレジスタンスの役には立っている。別に、戦うことだけがレジスタンスの仕事じゃねえ。じゃあ仕事の続きをしようか。俺と取引しないか?」
「え?」
「俺達はこれから輸送機の中から物を盗もうとドンパチする。お前たちが騙そうとしていた女性が実は凄い実力者でね。相手はかなりの戦力を投入するだろうと思う」
「それがどうしたっていうんだ?」
「そうなるとかなりのアンドロイドが輸送機周辺に出払うことになる。そうなると必然的に少なくなる箇所が増える。分かるか?」
「手薄な場所ってか? ――そうか!」
嘘ついて生きてきたせいか、頭の回転が早い少年は手薄な地点がどこなのかをすぐさま理解した。
「俺達のリーダーはお前たちを養う食料が無いから連れて行く訳にはいかないと断言したんだ。なら、自分たちの食いっぷちは自分たちで稼げば文句は言わない、いや、言わせねえだろ?」
「そっか、そんな考え方があったのか!」
少年の希望に満ちた声に、腰を抜かしていた子供たちも何とか立ち上がり始める。
「言っておくが、手薄になるまでは絶対に行動を起こすなよ少年」
「分かってるって。その前に」
「なんだ? 俺は哲也。ここではてっちゃんと呼ばれてる」
「――恵太だ。よろしくな哲也」
これが、本舞台の裏で行われた密会だった。




