第十四章-2 善と悪の区別とは……
咲倉さんは熱弁の後、志願者を集った。
結果、上がった右手はごく少数だった。
覇気のない少女に自身の背中を任せること。
勇者と言う稚拙な表現。
何より、死への恐怖心がレジスタンスの右肩に大きな重石を乗せることとなった。
「ごめんなさい。私がもっとしっかりしていたら」
「あんたのせいじゃない。誰だって命は惜しいさ」
咲倉さんがステラさんの肩を叩き慰める。
レジスタンスの中でステラさんの実力を見たのは極僅か。中には騙されているのではないかと疑う者までいた。楽してお金儲けできますと言われているような物だから、俺だってそう思う。
だが、こうなると初期に考えていた作戦は俄然厳しくなった。
「この人数では短時間での略奪は不可能だな。時間がかかればかかるほどステラの負担も増える。何より増援到着までに離脱しなければ逃げることさえできなくなる。最悪必要量手に入らなくても退かなければならなくなるな」
人足が減ることは、それだけ運べる量も減ることになる。
二十人もいればステラさんの騒動に総じて一度の襲撃で何とかなると思っていたが、残念なことに揃ったのは十名にも満たなかった。これだと一度物資を安全な場所に送ってからもう一度戻ってくる必要があった。
輸送機ごと盗むと言う作戦もあがったが、ステラさんが輸送機とその内部にある防犯設備ごと使い物にできなくさせると言う元の作戦を丸々取っ替える必要性が出てきた為、これは早い段階で却下となった。
「私が何とか粘りますので! 最悪皆さんが安全になるまで私が戦い続けます!」
「それでは君が帰ってこれなくなる。あたしはステラが捕まる訳は万が一にも無いと思っている。しかし、君はここの――この世界の土地勘を知らない。もし、離れ離れになってしまったら合流するのが厳しくなる」
ステラさんが最後まで凌ぎ切ることを提案してくるが、咲倉さんは彼女を失うことを恐れ、認めなかった。
「俺も反対です。ステラさんはテレポート系の魔法は使えないっての知ってますからね」
「後を追いかける魔法を使えば何とかなりますよ!」
俺もステラさん一人を残すことに反対した。
彼女が転移系の魔法を使えないのは会った当初に聞かされた。そしてカーナビ魔法は過去の彼女から教わったし、その加護も受けた。
しかし、その精度は記憶の正確さに大きく左右される。土地勘の無い彼女が静岡、伊豆半島、南、新しいアジトの検索で辿り着けるとは到底思えなかった。
「だったら、どうするんですか?」
「作戦は変わらない。退くと判断したらすぐさま退くんだ。それで食料が足りなければ節制するしかない」
「命の危険があるとはいえ参加しなかったんだ。皆文句は言わないだろうよ」
悠さんが狙撃用のライフルを肩において言い放つ。彼はステラさんの護衛兼、周辺の警戒と言う形で遠くから支援することとなっている。
必要なのは物資だから運搬に人数を割きたいのは山々だが、そのために戦力を削いでは元も子もない。
だから運搬係は、俺と由人さん含め、僅か五人しかいない。
目標としては四往復、最低二往復をしなくてはいけない。
「まだ時間はある。各自ルートの再確認をしておけ。警戒は怠るな」
山梨都市が目と鼻の先にある場で、俺達はそれぞれの持ち場確認をすることとなった。
輸送機が下りてくる場所で護衛のアンドロイドと直接対決をするステラさんは勿論、その戦火で物資を強奪する俺たちもかなり危険な任務を負うこととなる。
場所は都市の北西。昨晩入ってきた東とはほぼ正反対の位置に値する。
俺とステラさんは面が割れていると判断されているものだと判断して、慎重にアスファルトの影から現場確認をする。
輸送機というから飛行機のような物を想像したが、滑走路みたいなものは一切存在しなかった。代わりにヘリコプターの離着陸のようなマークが地面に記されていた。
周囲を見れば、咲倉さんたちがそれぞれの場所で待機しているのが分かる。現地に向かう俺たちも危険だが、一人で待機している彼女たちもかなり危険な立ち位置にいるのは間違いない。
今回の作戦。成功しても、犠牲者が出ないとは限らない。
けど、咲倉さんは誰一人として欠けさせたくないと願っている。
撤退時には彼女が黄色い旗を振ることとなっている。そのタイミングはだいぶ早いと思われる。
っ⁉
俺が周りを見ていた時、俺の腕に強い力がかかり、一瞬にして岩場の影に引きずり込まれた。
「いきなり何ですか⁉」
「あっちに人影があった。俺らメンバーでは無いようだ」
由人さんが体をできるだけ出さないようにして、例の人影が見えた辺りを見た。
「あれは――子供か」
「もしかして、昨日のあの子達?」
ステラさんがそうじゃないかと確認しようとしたが、その姿はどこにもなかった。隠れてしまったようだ。
「まずいな。追う必要性があるかもしれない」
「えっ?」
そこで由人さんが思わぬ一言を告げる。
「最悪捕まえるか、仕留めておかないと大変なことになるかもしれない」
「ど、どうしてそこまで⁉」
その言葉が更に物騒になったところで、俺はその真意を問い詰めた。
「俺達の存在を都市のお偉いさんに伝えるかもしれないからだ。あいつらにとっては憎むべき相手かもしれないが、そうすることによって少しでもおこぼれにありつけるかもしれないと分かれば、やらない手は無いだろ?」
「だからってかわいそうですよ! あの子達だって生きたいんですから!」
「分かってくれ。それは俺たちも一緒だ。生きたいんだ。生きるためには、どこまでも非道じゃなくちゃいけないんだ」
由人さんから告げられた言葉に、ステラさんはだいぶ動揺したのか言葉に詰まってしまう。勇者にとってどこまでも遠い言葉、非道。おれは一抹の不安を覚える。生きるために生きたいと願う存在を黙らせるという判断をしなければならないのか。
生きるための思いは。
「――由人さん。俺が行ってきてもいいですか?」
「駄目だ。君はまだ」
「俺だって一応覚悟はあります」
俺はホルスターからハンドガンを取り出した。
「大丈夫です。上手いことやりますから」
俺はそう言って由人さんとステラさんに別々の顔をした。
俺の決意に、二人は別々の顔で、頷いた。




