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第十四章-1 善と悪の区別とは……

「皆よく聞くんだ。あたしたちはここから新たに南の方に向かう。南、静岡方面、更に言えば伊豆半島近くには都市らしい都市が無い。それに大半が海に囲まれているおかげで追手がどこから攻めてくるか理解出来る。そこに新たなアジトを立てれば暫くの間保てる。

 だが、その為にはどうしても必要な物がある。食料だ。辿り着くまでには一週間はかかるだろうからどこかで田を耕す訳にも魚を獲る訳にもいかない。だから、皆が飢えない程度の量が必要になる」


 咲倉さんの演説に普段は広いはずの多目的ルームに敷き詰められたレジスタンスメンバーがざわつきだす。昨日見なかった人もいる所を見る限り、レジスタンスに所属している人間を全員集めたようだ。

 昔なら電車どころか車を使えば一日どころか半日でも行ける距離なのだが、まさか未来になって徒歩で移動することになるとは。空を移動する車とか作って誰もが所持している未来何て俺の時代にでも開発は進んでいたと言うのに。

 まぁ、今から最先端の物を襲うことになるのだが。


「そこであたしたちは今から山梨都市に今日の昼に訪れる輸送機を襲う。そして食料を強奪する。そして奪い次第、南下を開始する」


 咲倉さんの説明に、騒ぎだすレジスタンス。

 しかし、その騒ぎ方は沸き立つような物ではなく、どよめきだった。


「お前たちの気持ちは分かる。今までに何度か食料を略奪するにあたり多くの仲間を失ってしまった。皆が怯えるのはよく分かる。だが、今回は強い味方がいる。我々の人智を超えた力を持った味方――と言っても信じて貰えないだろう。だが、今はあたしを信じてほしい。あたしたちは確かにこの目で見た。複数のアンドロイドを一瞬でショートさせ、凍結させ、銃弾さえ弾く装甲を真っ二つにした。その力は、まさに勇者に呼ぶに相応しかった」

「……」


 咲倉さんの接待気味た紹介に対し、ステラさんは何の反応も示さなかった。

 それもそのはず。彼女は乗り気ではなかった。

 話は昨夜、彼女を宥めるところまで遡る。


「それで、私がその、ゆそうきの動きを止めて、その後応援に来る敵全てに雷の魔法を撃つ、と」

「そうです。ステラさんが足止めして、相手の防衛機能を沈黙させている間にレジスタンスのみなさんが輸送機に侵入して略奪すると言う算段です」

「私が盗みの手伝い――」


 ステラさんは予想通り抵抗を示した。

 人の物を盗むなど勇者にあるまじき行為なのだろう。ゲーム内だと散々家に不法侵入して物色しているイメージがあるけど、彼女は全うな意思を持っているようだ。


「レジスタンスの人間が生きるため何です。このまま次の作戦に移れば、必ず死者は出ますし、ここで足止めを食らっていたら、またアンドロイドたちが攻めてくるかもしれません。今ではあの男のせいで俺もステラさんもお尋ね者の身です。奴らが敵視していることは最早変えようがありません。非道ではありますが、立ち向かうしかないんです」

「そうしないとレジスタンスの人たちが危ないからですか?」

「そうです。助けを求めているんです」


 あぁ、なんて俺は汚い男なのだろう。

 彼女が一番言われると弱い言葉を理解していて、それを利用しようとしている。

 これではあの法王と一緒だ。何が困った時はお互い様だ。全部投げ捨ててるじゃないか。自分の一番守りたいもの。自分の命を繋ぎ止めるために勇者を利用している。絶対に地獄に落ちるような人間だ。


「それが終わったら、移動をするんですよね? 戻ってくることは?」

「当分無いだろうな」

「なら、私は――でも、そうなるとケイタさんとの約束が」


 彼女の心残りは、恐らく子供たちだろう。

 昨日子供たちはどのような夜を過ごしたのだろうか? 騙したはいいものの、そこから更に騙されたお人好しは逃走した。それによって手に入るはずだった食料は一切手に入らなかった。

 備蓄が底を尽きていたのなら、子供たちは空腹のまま、ろくに眠れない夜を過ごしたのだろうか。


「俺としては出来る限りステラさんの意思も尊重したいです。けど、この世界で生きていくには何らかの非道が必須になってきます。倒す魔物も、素材を買い取る業者もいません。この世界で稼ぐ方法を一切知らない以上、俺達は頼れる人に従うしか無いんです」


 異世界ではマグウィードさん、勿論ステラさんもいてくれた。

 では、この世界におけるマグウィードさんの立ち位置にいる人はと聞かれたら咲倉さんとなる。大昔出身である俺の常識は、ほとんど役に立たない。

 だから俺はレジスタンスを信じ、レジスタンスの行いに異議を申しださなかった。


「私にはこの世界の善悪がよくわかりません。ですから――私はケイタさんを信じます。ケイタさんしか、心から信じれる人がまだ――」


 そう言って俺の方をうさぎのような弱々しい瞳で見つめた。寂しいと死んでしまうと訴えかけるような目で、俺を頼ってきた。


「あ、ありがとう。そうだ、相手の防衛機能を封じるには電気が有効なんです。どこをどう感電させればいいか教えますので、手を取ってください」


 俺は両手を伸ばす。百聞は一見にしかず。俺もうまいこと説明できる自信がないので、雷が電柱に直撃して家々が真っ暗になる光景を思い浮かべる。


「いえ、大丈夫です。何度か、相対しましたし。それに、勇者ですから」


 そう言って彼女は疲れていた寝袋の上にそうじゃないんだけどなになった。

 相当参っているんだな。出来れば安泰に、双方が納得できるやり方がないのか?

 俺は寝袋に正しく包まり、考えを巡らせたが、結局何一つ思い浮かぶことはできなかった。

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