第十四章-3 善と悪の区別とは……
「来たな」
「あれっ? 飛行機?」
由人さんの指差した方角を見ると、見慣れた大型の飛行物体が飛翔していた。
「すごいですね……空飛ぶ大きな存在なんてドラゴン以外見たことがないです」
「俺達にとってはそっちの方がよっぽど凄いけどな」
世界変われば感想も変わる。
ステラさんの感嘆する顔を眺めた後、俺は輸送機に向き直る。
明らかにかなりの速度で飛行しているというのに着陸地点には1キロどころか500メートルにも満たない着陸地点しかない。
こんな場所にどうやって降りるのか、俺は未来の技術に興味をそそられた。
着陸態勢に入ったのか輸送機はどんどん高度を下げてきた。
消音性能が高いのか、かなり近場なのに飛行機独自の鼓膜をぶち破る高音がしない。
そして着陸地点寸前に近づいた時、ある異変に気づいた。車輪がない。代わりにあるのはヘリコプターに備え付けられているような、脚だ。
俺はそこから一つの未来を予測し、予想通りの未来が訪れた。
まさかの直立着陸。ヘリコプターのように着地点ギリギリまで近づいた輸送機は上空で一時停止。そのままゆっくりと地面に降りていき、静かな着地を実現する。その姿に思わず拍手が出そうになるが、すんでのところで思い留まる。
咲倉さんが待機している所を見るが、まだ作戦開始の合図はない。
まだ止まったばかりだから再離脱の恐れがあるからだろう。
大きな施設の中から運搬用のアンドロイドが現れる。普通のアンドロイドと違い、胴体がでかく、手の長さが異様に長い。大きな荷物を持ち運びできるように作られたアンドロイドだろう。後方にあるハッチの一つが開く。そこから真四角のコンテナのような物が外に出現する。
「赤!」
咲倉さんの方から赤い旗が揺らいだ。
作戦開始だ。
すぐさまステラさんが外に張り巡らせられた鉄線の一部を叩き切る。それによって、通り道の無かった輸送ルートに大きな抜け穴が出来上がる。
「凍って!」
次にステラさんは地面に向けて冷気を帯びた魔法を放つ。冷気は蛇のように一直線に目標、輸送機に向かっていく。
輸送機の足場まで辿り着いた氷の蛇は輸送機の脚に絡みつき、地面との間に強力な接着を生む。
「不審者――」
「はぁぁ!」
運搬用アンドロイドが警告信号を発しようとする前に、ステラさんが周囲に強力な電気を放出させる。
それによって運搬用アンドロイドは一瞬でショートする。それに巻き込まれるように輸送機内からも異常音が鳴り響く。これで輸送機を強奪は出来なくなったが、時間を作るためにはこの作戦が一番手っ取り早く効率的だった。
「よし、行くぞ!」
「はい!」
由人さんの合図と共に俺たち運搬班はコンテナに向かう。
密閉性抜群なコンテナはヒンヤリしていた。輸送機のシステムはさっきの電撃で完全に麻痺しているから、保存期間を伸ばすための技術がコンテナそれぞれに備わっているようだ。
後はこいつを。
「お、重!」
一人で持ち上げようとしたらが、どうやっても上がらなかった。冷蔵庫並の大きさを誇るコンテナは、想像を遥かに超えて重かった。
「やっぱり無理か。これを使うぞ!」
由人が俺たちにリュックを投げつけ、コンテナの蓋を開けた。
「さっぶ!」
「手袋をつけてる暇はない。我慢してくれ!」
そもそも手袋自体無かったのだから仕方ないか。
由人さんたちは例のスーツのおかげで寒さ対策は完璧なのかコンテナからどんどん物資を拾い上げる。一方で俺は寒さに耐えながら、少しずつ拾うのがやっとだった。
「よし、俺達は先に行くぞ。恵太、難しいなら少しずつでも」
ダァーン!
銃声が轟く。
その場にいた全員が地面に伏せた。が、誰も撃たれた感じはなかった。
「味方のか」
「となると――」
俺らは立ち上がると、すぐさまその存在に気がついた。
倉庫として使っていると思わしき施設から大量に出てきたのは、銃を持ったアンドロイドたちだった。
「応戦します!」
ステラさんがすぐさま雷魔法で現れたアンドロイドを感電させる。動きが鈍った瞬間に目にも止まらぬスピード接近。一気に斬りかかる。
咲倉さんたちの援護もあり、何とかアンドロイドを防いでいる。
「よしっ今なら行けるな」
由人さんの合図で俺たちはリュックを背負い駆け出す。
そして外まで出ると指定した場所まで持っていき、リュックをそこに下ろした。
「やっと一往復か」
「既に前線は末期だってのによ!」
由人さんの愚痴は最もで、ステラさんは絶え間なくアンドロイドを両断していて、足元には数えきれない残骸が転がっているが、それでも倉庫内からアンドロイドはゾンビのように湧き出てくる。
咲倉さんの方を見る。まだ撤退はしないようだ。もしくは指示を出す暇がないのか、或いは――。
考えている暇はないな。まだ三往復もあるんだ。
俺は再度輸送機へと接近する。
「危ないぞ!」
後ろから叫ばれると同時に身体が後ろに持っていかれる。
その僅か後、俺の足元に弾痕が出来上がっていた。そのまま進んでいれば足に大きな怪我をしていたに違いない。
「ありがとうございます。由人さん」
「感謝している暇はないようだな。勇者様を無視しだした」
由人さんが懸念したことによって俺は気づくことになる。
アンドロイドが二班に分かれていた。
一つはステラさんを抑えるための大多数部隊。
もう一つは、物陰からこちらを狙う狙撃部隊。
物陰に入っている連中はレジスタンスの狙撃部隊から見えないよう絶妙な位置を選んでいるみたいで、すぐに倒される様子がない。
「このままじゃ近寄れない! なら、迎撃するしか」
「駄目だ! お前の武器じゃ届かない!」
俺がハンドガンを取り出そうとした手を由人さんが押さえる。
そうか。冷静に考えてみればあの距離はどう見ても射程外だ。近づかなければ当てることも出来ないし、近づいている間に狙撃されるだけに終わる未来しか見えない。
「このままじゃ進むことが出来ない。最悪囮を使っていくしか」
「咲倉さんがそれを望みますか?」
「いや、リーダーはそんなこと望まないな」
リーダーは仲間に対して情が熱い。すれ違いはあったけど、そこはどこかステラさんに似ていた。
「くそっ。このままじゃ一歩も動けねえ!」
「あいつを落とす方法を考えないと」
とは言っても助けを求めることは出来ない。
ステラさんは後ろを振り向くことが出来ないくらいの大群と戦っている。狙撃班は狙えない位置にいる。
そうなると、自分たちで何とかしないといけない。
たった一往復だけで諦めるわけにはいかない。
その思いで何度か前に出るための努力を行った。
しかし、その努力もほとんど報われなかった。
一度狙撃班が狙える位置までおびき寄せて撃退することに成功したが、すぐさま次の狙撃型アンドロイドがその穴を埋めた。
狙撃班も位置がバレ始めたのか、移動を余儀なくされ、ステラさんの援護の数はどんどん減っていった。
それでも一騎当千の如く戦うステラさん。
『全部隊に告ぐ』
それが実を結んだ。
『これ以上の戦力投入は、損害をもたらすと判断す。よって』
かなりの時間をかけた攻防戦。
『輸送機を破棄する』
その最後が、訪れた。




