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第十章 作られはしたが……

「1000年以上……」

「その頃は未来に行ったり違う惑星に行くのが流行りだったのか?」


 俺がどう頑張っても生き残れてはいないだろう年代に唖然としていると、咲倉さんは冷静にそんなことを聞いてきた。歴史書に残っていないのか、そもそもこのご時世だと昔のことなぞ知る余地も無い、と言うか知る余裕すらないのだろうか。


「いえ、そうじゃないんです。異世界と言っても他の惑星にロケットなどを使って渡った訳ではありません。突然何の前触れもなく日常から飛ばされてしまったんです。昔は小説でよく『異世界転生』と言う空想上の物語が書かれていた物が出版されていたんですか――俺はまさしくそのような状態になってしまったんです」

「小説と言う物があたしにはよく分からないな。古文書の一種か?」

「いえ、昔あった娯楽の一種で仮想上の世界を作って読み聞かせる。どちらかと言うと絵本に近い存在です」

「絵本なら私の世界にもありますよ! ケイタさんの世界にもあるんですね!」

「絵、絵本――うーん……」


 咲倉さんが近くにいた者たちに問いかけると、一般女性よりも少し背の高い咲倉さんのせいで小さく見えてしまう男性が答える。

 それに俺は反論しようとしたが思いとどまる。どちらかと言えば漫画に近いのだけど、子供向けの紙媒体で出来た書記はこの時代だと絵本と表現されるみたいだ。


「では聞くが、その中には確かこのような世界を仮想した物もあるらしいが、そう言う物も理解しているのか?」


 そこで男の一人が試すように問いかけてきた。

 それはまたとないチャンスだった。


「あります! 近未来SFと言う部類で、人類がこのまま成長していったらどのような技術が生まれ、どのような世界が構築されるかと言うことを題材にした小説が存在します。よく取り上げられるもので、現状と似ている物は――AIが進化し過ぎて自立した結果、AIが人間を攻撃し始めて支配する、と言う物があります」


 俺がこの世界の出身であり、今起きていることをそれなりに理解できていることを認識してもらうには丁度良い問いかけだったと思う。


 …………。

 だが、俺の説明に納得するどころか、皆俺に懸念の目で見ている。


「止めろ。彼が生きていた時代も原因であたしたちは生まれてから食べる物も生きる場所も、そして命も常に奪われ続ける羽目になったのかもしれない。が、それを彼一人の責任に押し付けて怨恨するのはお門違いだ。

 ましてや、彼は1000年以上昔の人間だ。もし、その時代に今のような人工平等条約が出来ていれば、人間なんかとうの昔に絶滅していたさ」


 周囲の視線に気づき、それを止めさせたのは咲倉さんだった。

 彼女の一喝は、俺に家族を殺されたような目で見ていた男たちを一瞬で沈めてみせた。


「君の言っていることはかなりいい筋を通っている。この世界は今アンドロイドの方が圧倒的に多い。そして、必然的に決定権もアンドロイド――いや、アンドロイドを保持している人間に委ねられている。

 元は人が楽をする為に作られ、動かされ、使えなくなった物は廃棄されていた。それが変わったのはが」

「人口平等条約?」


 彼女は重々しく頷いた。


「人間と工業生体を平等な存在と扱う。それが人工平等条約だ。人は昔から動物を愛護したり環境を保護したりなど、他の動物には無い慈悲に溢れる行動を多く示してきた」

「その対象に、アンドロイドも含まれていたと、何か大きな事件があったんですか?」

「それについてはアンドロイドが作られるようになる経緯まで話が遡るな」


 咲倉さんは近くにあったおんぼろパイプ椅子に勢いよく腰を下ろした。その際の悲鳴が、コンビニにあったパイプ椅子とどこか似ていて懐かしい気持ちになる。


「お前の時代からそうだったかは定かではないが、あたしたちが生まれる数百年前から少子化による人口減少が問題視されていたんだ」

「俺の時代でもその問題はありましたよ。世界人口は増えているのに、日本の人口は減り続け、このままでは十年近くで一億人を切り、数百年すれば移住外国人の方が日本人を上回るような話を聞きました」

「一億――そんなにいたんだな。この廃墟にも大勢の人間が働いていたのだろうな」


 咲倉さんが自身の拠点を卑下しながら、感慨深く見渡す。


「人が少なくなったから、あの、あんどろいど? て人たちをこの国に招いたのですか?」

「招いた訳じゃないんです。あれは作ったんですよ。人形と一緒で、人間の手で」

「え⁉ 動いてましたよ⁉ 魔法ですか⁉」

「俺としては魔法がある世界の方がよっぽど奇怪でしたけどね」


 ステラさんがこの時代の常識に素っ頓狂な声をあげる。俺も異世界に行った時みた魔法にはだいぶ驚かされたけど、空想とはいえその存在に理解や多少なりの憧れはあったから目が飛び出るようなことはなかった。

 ステラさんの初々しい反応からして、異世界は機械という技術の発展は一切進んでいなかったようだ。


「あたしたちも魔法が使えれば、奴らに退けを取らんのだがな……」

「アンドロイドが出来たのは何となくわかります。労働力不足の解消や、お年寄りの介護などのどうしても手数が必要になる作業への補填ですよね? では、何で対立する羽目になったんですか?」

「対立する前にまずは人工平等条約が締結された由来のほうが先だ、それは」


「リーダー! 偵察舞台と思わしき反応を数体確認!」


 俺たちが大事な話をしていると分かっているのか否か、部屋に入ってきた男は大声で告げる。だが、それは異常事態だからこそ許される行為だった。


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