第八章-5 約束したのだから……
「もしかしたら君のお友達もこの声にビビったんじゃないのかな?」
「そうかも。ここなら、村からも近いし」
ステラさんの光の道をだいぶ逆走してきたのだからここはスタート地点から言うと中間か、それより少し行った程度の場所に位置する。風が強い日だったら村の端にも、この鳴き声――いや、音がたどり着いてもおかしくはないだろう。
「でも、変わった形だな。何かにくり抜かれたかのような」
「そうだ!」
ステラさんが何か気づいたようで、例の木に近づいていく。そしてその中に手を伸ばし、小さな体を木の中に入れる。
「ううっ……届かない。お兄ちゃん。手伝って」
「何をする気なんだ?」
「中が空っぽなのは動物が巣を作ったからだと思うの。そこに何かあるかもしれないから入るのを手伝って!」
幼いながらもステラさんの説明は的をえていた。
俺はステラさんの指示に従って、彼女の腰に手を据えて軽い体を持ち上げた。
そうすることによって木の一番穴が空いている部分にステラさんの体が届き、ステラさんはそこから中に潜入することに成功した。
そこは真っ暗だったが、例のドローン式球体を使ってステラさんが周囲を照らした。量産できればかなりの便利品になるだろうけど、これは魔法。どう頑張っても素人には手の届かない代物だ。
中は、木の高さとは裏腹にそこが浅く、外から内に入るのに一苦労したステラさんも、家から外には一人で出てこれそうな高さにしか掘られていなかった。そして中一面には、木の枝が敷き詰められていた。木の表面よりかはこちらの方が寝心地が良かったのか、或いはつい最近まで子供がいたのか。
「あっ!」
ステラさんの声が木の鳴き声のように大きく響いた。
それだけで、俺は待望のものが見つかったのだと理解した。
「あった! あったよ!」
少女の手には、小枝にしてはやりすぎなほど凝った形をした物が握られていた。それが、彼女の友達が探していた鍵なのだろう。
「良かったね。それじゃここを出ようか」
これで彼女の捜し物は終わった。けど、俺の方は終わらない。こんな狭い空間に大人のステラさんがいるとは期待もしていなかったから、いなかったことへのダメージはそこまで大きくなかった。
「うん。今出る――あれ?」
ステラさんが外に出ようとしたとき、何かを発見した彼女が俺からは見えない位置に姿を隠してしまった。
「どうしたんだ?」
「何か変わったのが落ちてるよ」
「変わったの?」
「うん。これ」
ステラさんが木の穴から手を出して俺に伸ばす。
小さな手に納まらなかった銀の縁、手から垂れ下がる銀のチェーン。
それを見た瞬間、本体を見る前にそれが何か確信する。
「これは――あの時の⁉」
少女が持っていたのは俺がこの世界に渡るきっかけとなった懐中時計だった。
「ちょっと見せてくれないか⁉」
「はい。どうぞ」
そう言ってステラさんは俺に右手の品を渡してきた。
それは間違いなくあの時法王が見せた懐中時計だった。
これだけこんな所にとんできたと言うのだろうか?
いや、たぶんそれは無いだろう。
あるとすれば、この懐中時計も鍵と同じでここの家主に拾われて持って来られたか。ステラさんは俺よりも先にここに飛ばされた? 最初の所持者であった彼女の方がタイムトラベルするのが早かったのか?
だとすると、もう既にここにはいないかもしれない。
時計の針は動いていない。
力を失ったのか、或いはもう一度ネジを回せば起動するのか。
――もし、この時代でこれを動かした場合どこへ向かうのだろうか?
未来へ戻るか、過去へ行くか。
「それって彼女さんが持ってたもの?」
「彼女じゃないって――まぁいいや。彼女の持ち物だったといえばそうなるかな。彼女がとある人から貰ったものなんだ」
恋したい背伸び少女ステラさんの度重なる彼女発言に負け、そういうことにして俺は話を進める。この時の記憶が戻った際に悶絶するのはあなたですからね。まぁ受け継がれていてればですけどね。
「で、これって何?」
ステラさんは真新しい物を見て、興味津々のようだ。十年前ですら時計は珍しかったからな。
「えっとこれは懐中時計。まぁ時計と言って、今が何時かしらせてくれる道具で」
「? 何時?」
「えっと今が朝か夜かをだね」
「お空を見ればわかるよ? 雲が出てたらちょっと困るけど」
「いや、それをもっと正確にだね」
「むぅ……」
しかめっ面で俺の方を見るステラさん。時間、正確には24時間という地球上で通じる時刻と呼ばれる概念を説明するのは(それも年端もいかない少女に)困難を極めた。
「ならこうする!」
「えっ?」
「これ使った時のこと想像して」
この技はまさか⁉
ステラさんが俺の両手を握ってきた時に、例の光景が頭を否応なしによぎる。
ステラさんが俺の過去を覗いた時のあの技。それでこの懐中時計の使い方を探る気か!
「そのキレイな円形の使い方を考えて――あれ? 私と同じことしてる女の人がいるよ?」
「っ⁉」
まずい! 意識してしまったせいであの時の光景が脳裏で再生されてしまった。
平常心! 懐中時計の使い方! ――使ったことねえな! それよりも忘れようとすればするほどステラさんとのあの時の光景が脳裏を掠る! 悟られないようにすることができない!
「もしかして、これがお兄ちゃんの彼女さん?」
「うっえっあっ――まぁ……そうかな?」
遂に言っちまった! 後で問いただされても責任取りませんからね!
「ふぅーん……」
ステラさんが未来ステラさんと俺の光景を見ているのだろう。あまりにも似ているその姿に違和感を覚えるのは当然のことだと俺は理解する。
「で、この中のどこにこれが出てくるの?」
「それは今出てこないよ……ちょっと待って」
彼女がその姿に自身の姿を投影させる前に急いで法王たちから貰った懐中時計の姿を思い出す。
「この人から貰って、彼女さんが何かをして――その後は?」
「そこまでなんだ。そこからはあんまり記憶がなくて、そしていつの間にかここに」
「セイスキャンからここに? かなり距離があるけど――もしかして魔法使いさんの道具なのこれ?」
「どうなんだろうな。法王は神具。昔からあるものだって言ってたけど」
そういえばワープ系は魔法は使えないけど魔法使いの特権とは言ってたっけ? となるとこれは元々ワープ系の何かだった?
「それなら、これを使って彼女さんに会いに行ったら?」
「はっ?」
「ここを回せば動くんだよね? 後はどこに行くか決めれば、そこまで瞬時にとばしてくれるんじゃないの?」
「そうだけど、でも――どうやって?」
「? お兄ちゃんは何か理由があってここに来たでしょ? だけど、何でか彼女さんはいなかった。じゃないの?」
ステラさんはどうやら俺とステラさんが俺たちの意思でここまで来たと理解したらしい。しかし、それは全くの誤解であり、これは完全に法王の罠だった。
だから、今ここで使ったとしても、彼女のもとには行けない。
「私ならできるかも」
ステラさんが悩んでいる俺にいきなりそう告げた。




