第八章-4 約束したのだから……
「見つからんな」
「うん……」
それからどれほど経っただろう。帰り道の心配が無くなった俺らは森の奥へとどんどん進んでいった。
地面に転がる小枝に注意して、尚且つ木の上に鳥の巣が無いかも調べた。
偶に鳥の巣が見つかるとステラさんがトンボの翅のようなものが生えた光の球体を出し、それを宙に投げて巣の様子を調べてくれた。球体から見える世界はステラさんも共有できるため、木を登ったり、巣を落としたりする徒労をする必要性が無くなった。この時代にドローン技術何て。俺触ったことすらねえのに。
けど、その苦労も報われず未だに両者の探し求めるものは見つからない。
そう、元のステラさんさえ見つからない。近くにいるのなら声が聞こえたり、歩いた痕跡が見つかる可能性もある。はずなのにそれらしいものは一切見つからないし聞こえてこない。
どこに行ったんだステラさんは。実はかなり離れた位置にいるのか?
「このまま奥に進むとどこに出るんだ?」
森の奥に入り込んでしまうと言うのもあるが、それ以外にも森を抜けてしまうと言う可能性もある。
「川に出るはず。その奥は、もう森がないから」
「そっか。ならもうすぐ見つかるといいね」
「うん……」
残された探索ポイントは少ない。
それはゴールが近いことを示すのと同時に、どこにもなかったと言う絶望に追いやられる時が近い宣告でもあった。
もう一度探すと言う手もあるが、俺たちの探索範囲はかなり広かったことが、ステラさんの自動追尾型の光の線が知らせてくれている。たぶん二度手間に終わるだろう。
もし見つからなければ、俺は異世界で頼る存在を失う。この時代の中で俺を知る人はいない。俺が知っている人たちに会ったとしても、今のステラさんのように俺のことを一切知らない。たった一人、元の世界に帰る術を探す羽目になる。
そして、失うのは俺だけではない。
ステラさんも大切な物をまた欠いてしまう。
それが連続することによって、彼女は勇者と言う責任と一緒に、失敗したときの自責が増していく。そうして自己の価値をどんどん痛めつけてしまう。
俺の言葉が耳に入っていてくれればいい。
しかし、それはこの大冒険が失敗したら元も子もない。
『自分を否定しないで』『二人でやれば』『困っているなら助けてもらえば』そんな教訓を受けておきながら内容が失敗で終われば、その教訓も失敗の烙印を並行して押さざるを得なくなる。
それが彼女の心に深々と根ざしたら、彼女はことあるたびに自分を否定し続け、一人で行動し、困っている人を助けても、自分が困っていた時は誰にも助けを求めない人になってしまうだろう。
不安が足取りにも表れ、効率が悪くなる。
それはステラさんも一緒で、終わりを迎えたくないと言う意思がひしひしと伝わってくる。
終わりを遠ざけようとする悪ふざけが功を奏すことなく進み始めていた時。
「ひっ!」
ステラさんが突然悲鳴をあげた。
「どうしたんだ?」
「今、鳴き声が」
「泣き声? 誰の女の人の声ならステ――俺の探している人かもしれない!」
子供であろうと大人であろうと泣いてしまいたくなる時くらいあっていい。そうなったら落ち着かせてあげることくらいはできるだろう。
「違う」
「何が?」
「女の人じゃない」
「じゃあ男? 男の子?」
「違う――恐い……」
ヒィィィァァァー!
「ひぅぅっ⁉」
今度は俺も聞こえた。トンビかタカか。猛禽類が獲物目がけ飛びかかる時の声みたいなのが、森の中に轟いた。
「化け物……魔物が……」
そう言いながらもステラさんは近くの木の棒を手に取る。まだ勇者と決まった訳でない彼女の腰にはイシリオル家の紋章がついた剣鞘(あったとしても地面を引きづりながら持ち歩くことになるだろうけど)は無い。それでも、戦うと言う勇者としての誇りは備わっていた。
ヒィィィァァァー!
「ひゃぅぅっ!」
でも、心構えまでは持ち合わせていなかったようで、二度目の咆哮にも足がすくんでしまった。
小さな子が脅えている中で大人である俺が足をすくませる訳にはいかない。魔物だった場合武装していない俺は何の戦力にもならない。それでも、ここで怯んでいては示しがつかない。
逃げ出そうとする意志を無理矢理鼓舞し、平然を装う。
ヒィィィァァァー!
再び鳴き声。それが聞こえる方に敢えて視線を向かせる。
と、
ィィォォォー……。
何だこの音?
威勢の良かった鳴き声の後に聞こえる空気の抜けるような音。肺活量検査で最後の最後に残った空気を吐くような勢いもない音。
これはもしかして。
「こっちからだ」
「危険だよ!」
「大丈夫。危険はないはずだよ」
ステラさんの指示を無視して俺は森を、逆走する。
鳴き声は未だに風に乗って鳴り響く。このままの状態なら。
鳴き声は予想通り移動していない。いや、移動できない。
そして辿り着いた先には一本の木があった。
「木の化物?」
ステラさんに呼応するように木が鳴いたので、ステラさんは怯んでしまう。その姿に愛らしさを感じながら、俺はタネを探す。
さほど大きくない木。タネはすぐに見つかった。
「やっぱり。ほら、ここに穴があるだろ? この木は空洞になっているんだ。それで、下から上に空気が流れるときに変な音がなるんだよ」
空気の圧縮など説明してもステラさんのような少女、或いは異世界の科学的立証では理解できないだろうと考えて簡略な説明で終える。都合のいいことに、説明後風が吹き、木は空気を理解していたかのように唸った。




