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前金三万じゃ足りません。 ~鏑木湊斗の不器用な霊視商法~  作者: 黒崎リク
第五話 呪いの代償 ~成功報酬、三万払います~
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第五話 呪いの代償 ~成功報酬、三万払います~(1)


「この人を、呪って下さい」


 差し出されたスマホの画面に映っていたのは、二人の人物だった。

 二人とも若く、まだ大学生くらいだ。一人は綺麗な目鼻立ちをしたハーフのような青年で、もう一人は地味な青年だ。隠し撮りされたのだろう、二人とも全く別の方を向いていた。

 依頼人は、地味な方を指で拡大した。もっとも、拡大しても長い前髪と黒縁眼鏡で目元は隠れて、よく見えない。青白い肌に浮くそばかすと、不機嫌そうにへの字に結ばれた薄い唇が印象に残る。


「名前は――」


 言いかける依頼人に、すっと人差し指を上げた。しぃー、と黙るようにジェスチャーをした後、小さなメモ帳とペンを差し出す。

 自分のスマホにたたっと文字を打ち込み、呪いたい相手の名前、生年月日、住所、出身地を書くように指示した。


「……出身地は、わかんなかったんですけど……」


 依頼人が気まずそうに言うが、別に構わない。その様子で、依頼人と呪う相手がまず友人でないことがわかる。出身地で雑談することも無い間柄となれば、知人ですらなさそうだ。

 スマホに『彼の私物、いつも身に着けているもの』と打ち込むと、依頼人は鞄の中から透明の数珠を出した。どうやって盗んできたのか。見れば、依頼人の手に小さな引っかき傷があり、絆創膏も貼られている。首を傾げると、依頼人はさっと手を引いた。


「……猫に引っかかれて」


 猫か。思わず口元が緩んだが、面の下に隠れた顔は相手に見えることは無い。

 数珠を受け取ると、清浄な気配が伝わってくる。誰が清めた物かはわからないが、なかなか力がある。メモ帳に書かれた名前を見下ろして、目を細めた。


 ……これは、なかなか面白そうな依頼になりそうだ。


 ほくそ笑む中、依頼人は不安そうに聞いてくる。


「あの……髪の毛とか、爪とか、そういうのはいらないんですか? なんか、呪う時ってそういうのを使うんじゃ……」


 相手の身体の一部を媒体とする呪いが、強力であることを知ってか知らずか。依頼人は、よほど相手を呪いたいようだ。

 再びスマホを操作して、返事を返す。


 ――こちらで用意する。


「用意って……」


 不審そうに見てくる依頼人に、見えないと分かっていながら、面の下で笑って返す。そうして最後に、いつもの台詞を打ち込んだ。


『呪い代行、スサノオにお任せください』――と。




***




 思えば、最近とことんついていない。


 食堂で近くを歩いていた学生が滑ってラーメンをぶちまけたせいで、とっておきの大盛りカツカレーが台無しになった。構内で傘を盗られて、ずぶ濡れでアパートまで帰ることになった。昼寝中にブンさん(太った猫)がジャンピングアタックを仕掛けてきた。学生証を失くした(これは幸い学生課に届けられていた)。水晶の数珠がいつの間にか一つ無くなっていた……。

 何より、最近は構内を歩いていると、やけに人の視線を感じる。

 ひそひそと「ほら、あれが例の……」「霊感少年」「水宮君に付きまとってるって……」「ヤバいよね」と囁く声が聞きたくなくても聞こえてくる。


 おそらく――というか間違いなく、先日、工学部で水宮と一緒にいるところを大勢の学生に目撃されたのが原因だ。

 おかげで余計な注目を集めることになっただけでなく、水宮のファンである学生から敵視されるようになった。稀に「ぜひ水宮君と共にオカルト研究部に!」「これで部員倍増……いや十倍だ!」と妙な勧誘を受けたり、「水宮君にこれを渡して……」と妙なプレゼントを渡されたりすることもある。もちろん断るが。

 近頃は、湊斗の恰好の昼寝場所である非常階段にまで時々人が来るようになり、安心して昼寝もできない。

 それもこれも全部水宮のせいである。あの時――異界から抜け出た時は水宮に感謝したものの、その後の弊害がひどい。


 ……やはり彼とは早く縁を切るべきだろう。できるだけ関わらないようにしなくては。


 湊斗は昼食のアンパンにかぶりつきながら、ボディバッグの中にいつも入れている封筒を取り出す。

 くしゃくしゃの封筒の中には、いつかの三万円が入っている。最初に水宮に押し付けられたものだ。

 スイーツバイキングに使おうと考えていた三万は、何となく使えずにいる。一応彼から頼まれた件も解決したのだし、正当な報酬ではある。だが、使うと一生水宮に借りを作ってしまいそうな気がして使いづらいのだ。何度か返そうと考えたが、どう返していいものかで悩み、結局こうして今も手元にある。


「……」


 はあ、と溜息を吐いて、湊斗は封筒をバッグに押し込んだ。

 アンパンの最後の欠片を放り込み、早々と昼食を済ませて立ち上がる。人の足を枕にして寝ていたブンさんが、「ぶなぁ」と不満の声を上げた。


「悪いなブンさん。俺も安眠したいんだよ」


 今日は邪魔が入らないように、図書館の裏にでも行ってみるか。ボディバッグを抱えて、湊斗は人気のない場所を探しに向かった。



久しぶりの前金三万投稿です。

これが最終話になる予定……!


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