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前金三万じゃ足りません。 ~鏑木湊斗の不器用な霊視商法~  作者: 黒崎リク
第四話 誰もいない教室 ~お礼は五百円でお願いします~
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第四話 誰もいない教室 ~お礼は五百円でお願いします~(1)


 湊斗の通う大学のキャンパス内には、学生食堂が二つある。


 一つは数年前にリニューアルされた、カフェテリア風の広々とした第一食堂だ。お洒落な雰囲気で、和食洋食軽食スイーツとメニューが豊富なため人気がある。学生だけでなく学外の一般人も利用できるためか、いつも人が多い。

 もう一つは、少し古びた第二食堂。学生からは『おふくろさん食堂』と呼ばれ、和食がメインの総菜が多い。何より安くて量がある。定食や丼物、そばうどんなら、第一食堂よりだんぜんお得だ。男子の割合が高い工学部棟の近くにあるせいか、食欲旺盛で金欠な男子学生はたいていこちらに来る。そしてそのせいか、女子の数は比較的少ない。


 湊斗もまた、週に一度はこの第二食堂に通っていた。

 安い菓子パンより高くついてしまうが、普段取れない栄養分をここで補おうという算段だ。それに、ここの総菜の味は祖母の手料理の味とよく似ており、何だか懐かしくなって、人込み嫌いの湊斗も足を運んでしまう。

 もっとも、来るのは二限あるいは三限の講義が無い曜日だけ。昼食時間は非常に混むため、その時間を避けて来るようにしている。


 今日は三限が休講だったので、湊斗は昼食時間を少し過ぎた頃に第二食堂に入った。

 日替わり定食を選んで、配膳カウンターにチケットを出す。すると、顔なじみになったおばちゃんが「あんた、また青白い顔して。ちゃんとご飯食べてるの?」と言いながら、白いご飯を山のように盛った。油あげとほうれん草の味噌汁も、具をたっぷり入れてくれる。おまけと言って、きんぴらの小鉢もトレーに乗せられた。

 食べ切れるだろうかと思いながらも、ニコニコ顔のおばちゃん達に湊斗は「どうも」と頭を下げた。重くなったトレーを持ち、目を付けていた、人の少ない端の席へと着く。

 今日の日替わりは、主菜がアジフライと唐揚げ、副菜はコールスローサラダとひじきの炒り煮だ。

 衣はさくさくで身はふっくらとした大判のアジフライに、醤油をかけてかぶりつく。からりと揚がった唐揚げはショウガ醤油でしっかりと下味が付けられており、祖母の作るものと似ている。どちらもご飯が進むおかずだ。

 一人で黙々と食べていると、視界に影が差した。


「ここ、いい?」

「……」


 湊斗が口の中の物を飲み込んで答える前に、影の主は湊斗の向かいの席に勝手に座ってしまう。


「……何であんたがここにいるんだ?」

「何でって……学食食べに来ただけだよ?」


 不思議そうに首を傾げて答えたのは、水宮慧だ。

 確かに水宮の言う通りで、学生食堂に来るのに他に理由は無い。


 だが、何というか……似合わない。


 ハーフのような彫りの深い顔立ちに、無造作に整えられた綺麗な茶色の髪。180センチを超える長身にバランスの取れた長い手足。細身のブラックデニムにリネンの白シャツという、シンプルな恰好がさまになっている。

 雑誌からそのまま出てきたような彼は、古びた食堂よりもお洒落なカフェテリアの方が似合うというものだ。

 なのに、水宮は大盛りのカツ丼と味噌汁、さらにトレーに所狭しと並んだ、ナスの煮びたしや納豆、里芋の煮物といった副菜の小鉢を前に、嬉しそうに箸をとる。


 ……あの水宮が、カツ丼と納豆食ってる。


 違和感を覚えているのは湊斗だけでなく、周囲にいた学生もちらちらと視線をやっていた。まあ、雑誌モデルをしている有名な彼に、単純に目が行くだけかもしれないが。

 水宮は上品な所作ながらも、速いスピードでカツ丼をたいらげていく。先に食べていた湊斗を追い抜く勢いだ。

 湊斗は呆気に取られながらも、週に一度の御馳走が冷め、おいしさが半減してはいけないと箸を進めた。

 食事中は水宮も無暗に話しかけてはこないようだ。それぞれ黙々と食事に集中し、器があらかた空になったところで、水宮が満足げな息を吐く。


「やっぱりここのカツ丼おいしいよね」

「……よく来るのか?」

「うん。『おふくろ』の方が量あるし、安いしね」


 金持ちの親がいてモデルでも荒稼ぎしているくせに、貧乏くさいことを言う。


「それに女の子も少ないから、静かにご飯が食べられる」

「……」


 なるほど、と湊斗は遠い目をする。何気にモテ自慢されたような気もするが、突っ込んでさらなる自慢話をされるよりは、何も言わない方がいい。

 最後に残ったきんぴらを食べ終え、箸を置いたところで、湊斗は水宮を見た。


「――で、何の用だ?」

「用って?」

「とぼけんな。用がなけりゃ、何でわざわざ俺の前に座る」


 今までの経験からわかることでは、水宮には自分に何か厄介なことをさせようという魂胆がある。理由は分からないが、むやみやたらに霊視をさせられるのはごめんだ。

 警戒する湊斗に、水宮は首を傾げる。


「用がないと座ったらいけないの? 友達なのに」

「友達じゃないだろ」

「じゃあ、友達になりたいから。……あ、そうだ。スマホの番号教えてよ。ラインも」


 水宮はデニムのポケットからスマホを取り出す。

 胡散臭いことこの上なかったが、結局水宮はその後何か頼むわけでもなく、湊斗からしつこく番号を聞き出すと、そのまま去ってしまった。


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