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■50 第四のマーテル者は銀色に輝く

「……暫く豚肉は食べたくないわね。そっちは大丈夫?」


 空中に消えていく鬼豚の顔をけり飛ばし、ルーネが腰に手をあて、うんざりといった。

 すでにルーネもファンテも聖書での変貌を解いていた。


「うん。ソティちゃんは?」


 ファンテに尋ねられ、ソティは咳き込みだした。


「興奮しすぎちゃった? お水、お水。持ってきてあげるね」


 ソティの背をさすったがおさまらず、ファンテが立って走り出す。ソティの顔は熱で赤くなっていた。あんな怪物達に追われ、心の整理もつかないわねとルーネは一瞥し、脱ぎ捨ててあったコートをとると、班長リリーに連絡をつける。


「……大量増産型マラークスキルの犯罪者は鎮圧された。負傷者、被害があればすみやかに関係部署に報告をすること……」


 班長リリーの声が館内放送で響き渡ると、背後から声がした。

 リリーはマイクから顔を離し、ふりかえる。


「助かったわ~! 放送がなければみんな混乱していたわ~」


 院長セフィロナであった。


「だあきつくな! 休院日だったのも幸いした」


 リリーは戦闘には参加せず被害を最少におさえるため、今までこの放送室から一般人の避難など指揮していた。

 と、襟の通信機が鳴り、リリーはルーネから報告を受ける。


「ソティを無事に守りきったようだ。少し発熱の兆候が見られるので見てきてほしい」

「は~ぁい」


 甘く返事してセフィロナは部屋を出ていた。


「やっと終わったか……」


 リリーは一息つき安堵した。フォル、アルベル、ルーネ、ファンテ、誰もがほっとしていた。やや微熱を感じるがソティ自身もやっと咳がとまり、助かったと安堵した。

 壊れた天窓から差し込んだ硬質な光がソティを照らす。

 全てが終わったのだ。


   ◇ ◇ ◇


 フォルからの報告で、リリーは襲撃者アッペテンの目的を知った。


「マラークの晩餐。最後の最後にしてそのような計画を立てていたのか。私はキーツという男を見誤っていた。ここまでの男とは……それとも、私はまだ甘いのか?」


 リリーは己の考えの甘さを自覚し、安堵してはいけないと考えなおす。


「体験の検証をしたい……頼む。キーツの最後の妙な行動を確認したい」


 リリーの声で現れた真似っ子妖精四人組が丸鏡を取りだす。

 妖精四人が持つ丸鏡は魔法の鏡であり体験した出来事を映しだすことができる。リリーがキーツとの戦闘を頭の中で追憶すると、その場面が鏡に映りだした。


 キーツの腕を水撃で斬り飛ばす。

 ぴちぴちと跳ねる蛸の触手。

 吐き捨てる唾。

 溶岩の中に消えていくキーツの笑み。


 繰り返し繰り返し、リリーは鏡の記憶を検証していく。


 きらっと銀色に輝く、キーツの青鱗。


「……あの手の、青の鱗……銀色がかっている。まさか、第四のマーテル者の力も……?」


 マーテル者第一は空を飛ぶもの。ルーネのような移動系

 マーテル者第二は結界をつくるもの。ファンテのような結界系。

 マーテル者第三は攻撃するもの。キーツのような攻撃系。

 そして、青の鱗が銀色がかると、マーテル者第四であり、その力は――


「第四のマーテル者の力は『人柱』、『生贄』、『力の付与』……」


 マーテル者は石と共振し力を発揮する、言わば力を解放させるものだが、この第四のマーテル者はその逆で、力を込めるものといっていい。


 古代では数百の犠牲を必要する儀式を一人だけで賄える『人柱』や絶大な魔具(コスタ)を作るための『生贄』。

 現在では特殊な宝石や人工真鱗を作る『力の付与』、帝国が奴隷を人間爆弾と特攻させたときにはこのマーテル者が偶然まじっていて、戦艦一隻を一人で破壊したこともあった。

 所有者は極少数で力があっても本人が気付かないことも多く、近年、認知度があがった系統であり、そのため第四の系統とも呼ばれていた。


 その力を表すなら、凶悪だ。


 付与する力が精神であり心であり、時には魂であり命をつぎ込めるから。極論を唱える学者は、方法によっては『願望』や『夢』を詰め込めると云うほどである。

 リリーは青ざめた。気付いてしまった。


「この唾には……人の貎がある! キーツの貎が! 第四の力で心を付与したのか!」


 恐るべきは人の魂の力である。


 キーツはマーテル第四系統の力を使い、己の命を『犠牲』にして、その精神を唾に『付与』したのである。


 キンマ盤三枚を回収するリリーの背後で、それらのことは起きていたのだ。誰だって、この場で重要なのはキンマ盤と思う心理をつき、キーツは真の目的を遂げるのだ。


 唾の液体生物となったキーツはするすると床を這いずる。既に蛸の触手は跳ね進み、あるものを掴んで、倒れている。

 唾が蛸の触手に接触した。液体キーツは内部に浸透してゆき、蛸の触手はみるみると生気を得た。


「……あの手。最後のキンマの豆を握っている……! これで、三回の儀式が成り立つ!」


 最上の喜びと感悦を現すごとくふるえる蛸の触手は立ち上がり、天に伸びる。

 蛸の手の先端には、キンマ盤に回収される間際で産みだされたキンマの豆数個があった。


 リリーの顔が戦慄に歪む。これは絶対に、阻止しなければならない。

 恐るべき宴がはじまるのだ。


「いかん! 父親が娘を食べにくる!」


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