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■47 キンマの怪物 《踊る邪食鬼アッペテン》

「――断じて、させるか!」


 飛んできたフォルがアッペテンの大口に柄付きの手榴弾を放り投げ、ソティをかっさらう。アッペテンは口から豪快な炎を吹き、フォルは着地すると、抱き上げたソティを降ろした。


「だいたいな。このソティを生で喰ったら食あたりを起すぞ。口、すげー悪いんだから。腹の中、真っ黒だ。やめておけ」

「誰が真っ黒だ! 生でもいける! いけちゃうよ! 私、おいしいんだから!」


 ソティは真っ赤になって拳をふりふり、意味不明に怒った。


「大丈夫だな」


 フォルに笑いかけられ、ソティはえっと表情をかえた。


「恐怖はないな。走れ! 12班部署の場所は知っているな。そこへ逃げ込め!」

「うん……あの、うん!」


 ソティは胸が熱くなって、なんだよこれと、頬が染まるのを意識して走り出した。

 12班部署には妖精達がいる。ぺぺリーナの友誼を結んだソティを、他の妖精達が守ってくれるだろう。


「この炎もなかなかいけますぞ」


 アッペテンは口の中で噛み噛みして、火をぷーぅと吐いた。


「おっと、いけません。姫君は逃がしませんぞ。ふん!」


 アッペテンは鼻から荒い息と残り火を吹き出す。


「ふん♪ ふん♪ ふん♪ ふん♪ ふーん♪ アッペテンダンス~ぅ♪」


 アッペテンはその身に反して、腕をふりふり軽快なステップを披露する。道化じみながらも、舞いとしては技術が高く、惚れ惚れとする動きだ。

 脂肪の肉体が優雅さと醜くさの狭間で揺れ、ひとつの肉球がぽこりと弾け飛んだ。

 地面に叩きつけられた肉球から四脚が捻りでて、最後にでたコブが歪み、アッペテンの顔を貼り付けた鬼豚が産み出された。アッペテンは自分の分身、子分ともいうべき鬼豚を複製できる怪物だった。


 爽やかさな笑顔をした鬼豚は蹄を打ち鳴らし、


「ぶひょーひょひょひょ! 姫様ぶー!」


 と、ソティを猛然と追いかけだす。


「――三章解除! 断じて、ここは通さんぞ!」


 周辺がまばゆい光に照らされた。


 光の中より出現した鎖の青蛇八匹が旋風と巻き上がり、鬼豚を八つ裂きに砕きあげる。

 フォルは八首のフォーブラの怪物《龍首ミールレ》と変貌していた。


「生後0歳児が! 酷いことをなされる。それがフォーブラの怪物とやらですな。きいていますよ。蛇はなかなか美味です! 美味しく頂きます!」


 突如と現れたフォーブラの怪物に、アッペテンは動じることなく言う。


「キンマの怪物よ! 一気にかたをつけてやるぞ!」


 フォルが奥歯を激しくかみ合わせ叫ぶ。


 鬼灯の眼を光らせた八つの青蛇がうねり、アッペテンに襲いかかる。

 しかし――


 ぱんぱんぱんぱーん! 


 とアッペテンは軽いジャブの連発で青蛇の襲撃を軽く凌いでみせた。


「その動き!」

「ワシは昔、格闘士のチャンピオンでした。その賞金を元手に一代の富みを築いたのです。おまけに、ワシのマラークスキルは肉体、反射神経、全てを強化するというもの。キンマの力によって全盛期の千倍の動きができそうじゃ! ワシ、サイコー!」


 アッペテンは緑の鱗二枚、赤の鱗十枚を見せつけいう。


 赤真鱗(ルーフスレピド)は所有スキルを強化する鱗だ。緑真鱗(ヴィリィディレピド)オリジナルの身体能力を強化するという行為を、さらに赤真鱗(レピド)十枚で強化するという恐るべき倍増状態であり、そこにキンマの怪物の運度能力すら加わり、アッペテンは度し難い化物となっていた。


 キンマの怪物《踊る邪食鬼アッペテン》である。


「体重も千倍だろうが! ぶくぶく肥えやがって!」


 フォルが悪態を叫ぶ。


「体重のことをー! 怒りました! ワシの子豚ちゃんをもっと増やしますぞぉ! アッペテン式ダイエットです! さあ、ご一緒に踊りましょう! レッツ、ダンシング!」


 アッペテンは両拳をきかせ腰を引いて、小躍りし、ぽこぽこと鬼豚を生み出した。


「どんなダイエットだ! 可愛くねぇ、食欲もなくなりそうな豚ばかりだしやがって!」


 フォルは八蛇を総動員させ、青き旋風を巻き起こすと、鬼豚達が駆逐された。


「はい! 身体の方が隙だらけですぞぉ! ダンス中によそ見はいけません! レッスン、レッスン!」


 隙をつかれ、アッペテンの強烈なパンチがフォルに命中する。


「お! 倒れないのですか? 今のは、いいパンチでしたぞぉ!」

「ふん。笑わせるなよ」


 とフォルは殴り返す。

 強撃一打。

 アッペテンの分厚い脂肪の鎧を貫き、芯に届く拳であった。


「おわわわ! けほっ。なかなかやりますな。いいでしょう! このまま殴り合いをしましょう! ワシも昔の血が騒ぎます!」


 アッペテンは不敵に笑う。


 そしてフォーブラの怪物《龍首ミールレ》とキンマの怪物《踊る邪食鬼アッペテン》が熾烈に殴り合う。


 アッペテンは細かい動きを刻み、一打一打を、正確に繰り出す。

 フォルの猛攻ともいう一打一打。


 互いの身体に、拳がかするように飛び交う。


 しかしながら、この殴り合いはフォルの分が悪い。


「ほら! ワシの子豚ちゃんがいっちゃいますよ」

「うお! ぐはっ!」


 フォルは一発喰らいも青蛇を使役し、鬼豚を粉砕した。フォルは無限に湧きだす鬼豚を処理しながらの殴り合いなのだ。


 鬼豚の量産は終わらない。


「このときを待ってました!」


 とうとう、三匹の鬼豚がぶひょひょーと青蛇の包囲から逃れた。

 フォルは身を傾け、疾走する鬼豚を追う。

 身体の開いた、完全な隙状態。

 アッペテンはそれを狙い、大振りの一撃を構えた。


 瞬間――


 紫の斜線が奔って、鬼豚の全てが弾けた。


「ワシの子豚ちゃんが! 生後一分が! 誰ですか! 命は大切にしてください! 食べる分だけ、殺すのが筋ですぞ!」


 見上げれば、フォーブラの怪物《天裁き火手》が鉄塔の上に立っていた。そこから燃える手の魔弾で狙撃したのだ。


「フォル君! この巨乳に誓おう! 豚は一匹たりとて、逃がさないと!」

「だから、巨乳に誓うな!」


 頼もしくも変態な援軍アルベルをフォルは不敵に笑い迎え、アッペテンを殴りかえした。


「ぐは……! なんですか! あの見事な胸のお方は!」

「お前も、そこに眼がいくのかよ!」

「ぬぬぬぬ。ワシも一代で巨万の富みを築いた事業家。これぐらいの障害など乗り越えてきました。もっともっと、子豚ちゃんを増やせばいいこと! アッペテンダンス~!」


 キンマの怪物《踊る邪食鬼アッペテン》は、フォーブラの怪物《龍首ミールレ》と《天裁き火手》の前で軽快に踊りだす。


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