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■45 騎士と王女

「あとひとつ報告があります。ポシシオン病院よりモールバス・ヘリコニアが病死したと通達が来てました」

「モールバス? キーツさんの兄さんだっけ」


 病室で同じ言葉を繰り返す狂王の姿を思い出しファンテが尋ねると、ルーネが頷いた。


「これでヘリコニア王家の血筋は絶えてしまった訳か……」


 リリーが首肯すると、アルベルが素っ頓狂な声をあげた。


「あれ? お姫様がいるよね? まだキボウはある」


 え? とリリー、ルーネ、ファンテが珍妙な顔でアルベルを見詰めた。


「なんだい。みんなで僕を見詰めて?」


 アルベルは恐ろしい事実を悟った。


「はっ! この胸か! とうとう僕の胸が一番素晴らしいと負けを認めるんだね。僕は連合一だ!」


 アルベルが巨乳を誇らしげに見せつける。


「認めるか!」


 魔乳、美乳、豊乳の女性三人はかなり怒ってつっこんだ。


「それより、お姫様とは誰のことだ?」


 リリーがやや険悪げに尋ねる。


「ソティ嬢だよ。首の文字印は王家を意味するものだったじゃない。髪に隠れていたし、包帯とか、傷跡でかけていたから、なかなか確認しづらいね」


 アルベルは平然と述べる。


「ソティはクートを兄と言っていたわ。クートは騎士よ」


 ルーネが眉を顰める。

 エクエス78420。エクエスは騎士を意味する。ソティはお兄ちゃんの番号と、これをフォルに託している。


「もしかして、ソティちゃんはクートちゃんを、お兄ちゃんと慕っていただけなの?」


 ファンテが湧きあがった疑問に首をかしげた。


「僕に訊かれてもなにがなんだか……この台詞、いつも僕だな……」


 アルベルは表情を困惑とゆがめた。



 昔のことである。白騎士カラインはクートを、


「貴方様に仕え騎士となる我が息子です」


 と、ソティに紹介した。


「弱そうね。大丈夫なの~。逆に、わたくしが守ってさしあげましょうか」


 ドレスに身を包んだお姫様ソティは頼りなさそうなクートをからかった。


「僕が姫様を絶対守ります! 僕の方が年上なんだから! 僕が君の騎士です!」


 クートの誠実さと必死な言葉はソティをどきりとさせた。


(私のための騎士!)


 とソティは心の中で張り裂けんばかりに感激した。

 しかし、ソティはソティなのだ。素直な気持ちを口にだせない。

 照れ隠しで、ソティはやや背をそむけ伺うようにいう。


「ふ~ん。そうなの? 弱そうなお兄さま~ぁ。精々、頑張りなさいよ!」

「はい!」


 素直に返事されソティはまたどきりとした。

 ソティとって、そのときから素直で誠実なクートはお兄ちゃんになったのだ。

 それが今に至った訳であった。



「確認と報告がきちんとしてないな~」


 リリーは三名を威嚇したあと、思いにふけた。


「キーツの最後の言葉。確かこういった気がする。私にはまだ希望がある。私の娘は天使であるのだから……あれは王として言葉だったのか、それとも親としての言葉だったのか」


 しんみりと12班部署はその言葉の意味に包まれた。

 誰もが後者であればいいと思ったろう。


 だが、そう思ったとき、悪寒が走った。


 そして続いたのは、衝撃。


 建物が衝撃で激しく揺れた。

 異変を察知して四名の顔つきがかわった。妖精達が騒ぎだす。


聖書(リブリ)が……使用可能になった? 聖書(リブリ)で封殺すべきものが侵入した!」


 背筋に踊った怜悧な異物感に、リリーが鋭い緊張を交え叫んだ。



「うみゃー。うみゃー。生きた人間はかくもうみゃーものなのか!」


 医術院の外壁を崩壊させた侵入者は中庭にいた。


「アッペテンなのか?」


 フォルが警戒する。ぶよぶよとした脂肪の塊が大口をもごもごさせている。


 顔はあの美食家であるアッペテンだった。


 醜く肥満な巨躯から伸びる手足。口元からは大牙、耳元から牛角を生やし、オークという豚顔をした邪鬼と似た巨大な怪物と変質していた。


「お前! なにを喰ってやがる!」 


 ――飛空移動(セーデ)


 の突進力をのせ、フォルはアッペテンの鳩尾と思われる部分に肘鉄を喰らわした。


 衝撃は脂肪の鎧に波となって大半が吸収されたが、アッペテンは食べていたものを盛大に吐きだした。


「人を!」


 溶けかけた白い人間を見て、フォルが叫ぶ。


「ワシの食事の邪魔をするな!」


 アッペテンは平手打ちを喰らわし、フォルは外壁までふっとび激突した。


「なんて、速さと、力……」


 口から血を流し、フォルはろっ骨か何かをやられたのを感じた。咄嗟に飛行移動で緩和と受け身をしていなければ即死していたかもしれない。


「ワシは道徳は守ってきた。美食家を誇っていても、誘惑があったものの理性が許さなかった。それをやっと越えることができたのじゃ! 人が、人がウマイぃ! うみゃーのだ! これこそ、キンマの力! 全てはキーツ様のおかげ!」

「お父様は……なんてことを……!」


 ソティは嫌悪感で口を押さえた。


 そして一陣の風がふき、ソティの水色の髪を翻す。


 ミルラ奴隷文字印が――王族を意味する文字が晒された。


「これはこれは、ソティアーナ姫。ソティアーナ・ヘリコニア様!」


 アッペテンが恭しく一礼をして宣言した。


「姫?」


 フォルがぎこちなく体を動かし、その意味を意識する。

 まだ怪物の晩餐は終わっていなかったのだ。


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