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次の対戦は…

また、控室をノックする音がした。

「どうぞー」

彩乃が応じる。今度は誰だろう?

入ってきたのは、黒いスーツの女性。セレスティア彩乃のマネージャー、里見奈央だ。里見は中の様子を見て目を丸くした。

「ち、ちょっと、これ……」

何しろ、つい先ほどまで激しく闘っていた他団体の対戦相手、フェリシア紫苑がそこにいるのだ。しかもテーブルには、飲み物とシュークリームが置いてある。

「あ、彩乃、ど、どういうこと……」

 里見はそれ以上、言葉が続かなかった。

「あ、すみません、フェリシアさんが来てくれまして」

 彩乃が慌てて言う。

「こんにちは。フェリシア紫苑です。今日はありがとうございました。彩乃さんと試合ができて、本当によかったです」

 リングの上では、試合が終わってもなお彩乃に挑もうとしていたフェリシア紫苑が、今は穏やかにあいさつをした。里見の頭の中は混乱しきっていた。一体、何から言えばいいか分からなくなってきた。

挿絵(By みてみん)

「あれ、戸田さんまで。どうしたんですか」

 紫苑は里見のすぐ後ろに立つ、スーツに眼鏡姿の男性に気づくと、すぐに声をかけた。男性は紫苑に微笑み、それから里見へ丁寧に頭を下げた。

「里見さん、僕が言ったとおりでしょ。紫苑は、そんな仕返しなんてする子じゃないって」

戸田が得意そうに言う。

「そ、そのようですね。でも、さっきまであれだけぶつかり合っていたのに、もう、こんなになっているなんて……」

里見はいまだに信じられない様子で二人を眺めていた。

「里見さん、後ろの方は?」

 彩乃が尋ねると、里見はその男性を紹介した。

「この人は戸田晴也さんと言って、フェリシア紫苑さんのマネージャーよ」

「戸田です。よろしくお願いします。この度は、うちのフェリシア紫苑と対戦してくださり、ありがとうございました」

戸田は丁寧に頭を下げた。その洗練された物腰は、いかにも敏腕マネージャーといった印象だ。

「いいえ。こちらこそ。フェリシア紫苑さんは素晴らしい選手でした」

彩乃も丁寧にお辞儀をする。その姿は、さすがにトップレスラーという風格があった。

「それにしても里見さん。紫苑さんのマネージャーさんまでいらして、どうしたのですか」

彩乃が尋ねると、里見は本題に入った。

「そ、そうね。まあ、ちょうど彩乃も紫苑さんもいるところだからよかったわ。実は今日のあなたたちの試合を、理事長がご覧になっていてね……」

「理事長が……」

理事長というのは、プロレス業界を統括する立場にある重鎮だ。彼の一声で重要な大会の開催が決まることも多い。里見は少し緊張した面持ちで続けた。

「あなたたちの試合を見て、とても感心されたんです。理事長は、次々と高度なテクニックを繰り出す紫苑と、それを真正面から受け止め対抗し続ける彩乃の姿をとても褒めていらしたわ。そしてこうも言ったわ、『今日の試合は優劣を決めるものではない。二人が協力して作り上げた芸術作品と言ってもいい』と」

挿絵(By みてみん)

彩乃と紫苑は顔を見合わせた。理事長がそこまで評価してくれるとは思わなかったからだ。里見は話を続ける。

「共……同……芸術……」

彩乃がぽつりと呟いた。その言葉の響きに、戸惑いと共に微かな誇りが混ざっていた。

「さらにね」

里見は一歩踏み込み、声を一段低くした。

「理事長は、これだけの試合ができる二人を、単なる敵対関係で終わらせるのはもったいない、とお考えなの。『二人が協力し合った時の力は計り知れない』ってね。今日の大会が急遽、終了になったのも、紫苑さんが荒れたからではなくて、この件について緊急の幹部会が開かれたためだったの」

紫苑は、大会があの時点で終了になったのは自分の乱暴な態度のせいではなかったと知って、一瞬ほっとした。だが、その試合が思いがけない形で大きな話につながっていたことに気がついて、今度は目を丸くした。

「フェリシア紫苑とセレスティア彩乃のタッグ……」

戸田が落ち着いた様子で説明する。

「業界全体としては以前から、国内の団体同士の試合だけではなく、世界に向けての展開も考えていたところでした。そこで、今回の試合で見せたお二人の能力に注目したんですね」

紫苑が戸惑いがちに口を挟む。

「あの……タッグって……私たちがチームを組むということですか? でも……」

彩乃と紫苑は互いを見つめた。ほんの少し前まで、リング上で本気でぶつかり合っていた二人だ。今こうして穏やかに話せているとはいえ、これまでそれぞれ一人のレスラーとして闘ってきた二人が、今度は同じ側に立ち、世界を相手にするという。あまりにも突然の話に、まだ実感がわかなかった。

挿絵(By みてみん)


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