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第三章後編 闇鍋大会

――これはだいぶ昔の話。

 

――とある研究室。ぺーぺが部屋に入ってくると、それに気がついたきーうぃが満面の笑みを見せる。きらきら輝く大釜を前に、振り向いた瞳は希望に満ちていた。

「ねえ見て、ぺーぺ!もう少しで完成しそうなんだ。」

「ええ。すごいですよ、きーうぃ。」

「この錬金術で、宇宙に行く子たちを手助けしてあげたいんだ。これが完成すれば、宇宙研究チームはより安全で効率的な実験を行なうことができる。」

 

 

 ――数ヶ月後。ぺーぺは火の手が上がる研究施設を前に、きーうぃがいたであろう研究室の窓を見上げていた。

「先生!危険すぎます!火の中に飛び込むなど……」

「離してください!でなければ、きーうぃが死んでしまうっ」

 


「可哀想に。先日の爆発事故でふたりとも後遺症を負ってしまったそうだ。」

「残念ね。どちらもアルケミー星における優秀な人材だったのに。」

 ぺーぺは両目を失い、きーうぃは脳に障害を残した。二人はもう、研究チームのお荷物でしかなくなってしまった。


 ☆


「ぺーぺ、見て。でっかいキノコ!」

 ――ふと気がつけば、ころろが話しかけていた。今はそれぞれが闇鍋の材料探しに繰り出している最中。じゃんけんでぺーぺと一緒に行動していたころろは、今、トランポリンみたいな笠の上で飛び跳ねている。

「……あなたは何故、いつも片目を髪で隠しているのですか?」

「……?」

 はしゃぐのを止め、ぺーぺを見つめる。その視線にぺーぺは首を振った。

「いえ。すみません。あなたと昔のきーうぃを重ねてしまいました。」

「昔のきーうぃって?」

「あなたのような子でした。好奇心旺盛でお茶目で、いつも楽しそう。」

「それは、どーも……?」

 ぺーぺは一体何が言いたいのか。ころろは首を傾げたまま、とりあえずお礼を言った。

「……わたしがもっと見てあげていれば、事故は起きなかった。わたしは医者なのにあの子の後遺症を治せなかった。なのにわたしは、それを「どうしようもなかった、どうしようもなかった」と内心で言い訳してばかりです。

 そればかりか、いつもむうに不安をぶつけて……わたしはそんな最低で何も変われないわたしが大嫌いなんです。」

 いつも冷静なぺーぺが、初めて弱さを見せている。きっと彼女のまぶたの裏に見えているのは、ころろじゃなく記憶の中のきーうぃ。ころろはしっかり、ぺーぺの顔を覗き見た。

「現実を見て。ぺーぺ。

 ぺーぺは誰にも、恨まれてない。」

「……言い切れますか。」

「うん。だって、わざわざぺーぺの形のぬいぐるみと寝てるんだよ?きーうぃは。」


 ☆


 各々が持ってきた食材で出来上がったのは、美味しそうなキノコと白身魚の鍋だった。他にも鶏肉や野菜、豆腐等、隅々まで敷き詰められた食材たちがコトコトと音を立てながら鍋の中を彩っていた。

 皆は大成功といった様子で感動の声をあげていた。ただ一人を除いては。

「誰だよ!野菜を入れたヤツ!」

「悪巧みをしているようだったので。」

 あっさり認めたのはぺーぺ。でも、文句は言いつつ、肉やキノコは好きなようで鍋を横目に見てはお腹を鳴らしている。

「じゃ、早速食べましょう。」

「いただきまーす!」

 ひとつ取れば、ふわっとした湯気が具材を包む。白身魚は柔らかくとろとろしていて、野菜は出汁がよく効いている。キノコや鶏肉は食感を豊かに、豆腐は滑らかでツルンと喉を通っていく。出汁が染み込んだスープはさっぱりしていて、とても飲みやすい。

 テーブルの代わりにした切り株を皆で囲い、自然の中で食べる鍋は、具材をより美味しくさせてくれた。

 しかし、ぺーぺはひとり、器に入った具材を見つめるだけで食べようとしない。

「わたしが楽しんで良いのでしょうか。」

 隣に座るきーうぃはそんなぺーぺの様子と言葉に、「ぺーぺ?」と心配そうに首を傾げた。

「ごめんなさい、きーうぃ。わたしはまだ自分が許せません。両親を亡くしたばかりのあなたは、きっとすごく寂しい思いをしていたでしょうに、わたしは仕事にばかり明け暮れてあなたの側にいてあげられなかった。その度に負担をかけて、あのような事故を起こさせてしまった。なのに……

 わたしはあなたを治すことすらできなかった。後遺症を負って眠りにつくあなたに、わたしは美味しい料理さえ与える事ができなかった。」

 机の上でぎゅっと握られたぺーぺの握りこぶしに、きーうぃがそっと手を添えた。

「違うよ。ぺーぺは何もできなかったんじゃない。十分頑張ってくれたんだよ。

 ぺーぺは、目を犠牲にしてまでボクを守ってくれた。自分の名声を捨ててまでボクの治療に着いてくれた。そして今も、何度もボクはぺーぺに守られてる。」

「やめて……わたしが許されるなんて、そんな事……。」

「ぺーぺ。大事なのは結果じゃない。ぺーぺがボクを何よりも第一に考えてくれた事、ボクは何よりも嬉しかったよ。」

 いつの間にかぺーぺの口は震え、閉じたまぶたから大粒の涙が溢れ出していた。それを見ていたかろは、貰い涙をむうの腕で拭いている。

「やめろ!服が濡れる!」


 ☆


「フタリとも、ありがとうなのね!おかげで船員の空気がガラッと良くなったのねーー!」

「解決……なのかしら?」

「ミーの願いは最初から皆が仲良くなることなの!それが叶った今、フタリはもうミーたちの英雄なのね!

 今、ミーは嬉しくて思ワズ歌っちゃいそうなのねー♪」

「やめろ。お前が歌うとうるさくて敵わない。」

 出発の時。お互いはそれぞれ違う目的地へ旅に出る支度をしていた。

「それじゃあ、ソッチは真心集め、頑張ってなのね。ミーは別の場所から応援スルね!」

 そう言って、二つのアンドロイド船は再び宇宙へ旅立っていく。


 宇宙船の中、窓を見ながらぺーぺはため息をひとつ吐いていた。

「……情けない所を見せてしまいましたね。」

「ぺーぺ。医者だって泣いていいんだよ。」

「全く……きーうぃはすぐわたしを甘やかすんですから。……で、むう。もう彼女への悪戯はお開きですか。」

 ぺーぺの発言に、モニターを眺めていたむうは振り向く。

「イタズラ?」

「あなた、無線機使って、かろに食ってやる〜と脅かしていたじゃないですか。バレてないとでも?」

「……なんだよ。悪いか?」


 ☆


 ――またころろの中で、昔のデータが付けっぱなしのテレビのように流れているようだ。

 かろの研究室。夜になって誰もいなくなった、機械の青白い光だけが点々と灯る部屋。ころろはメンテナンスのために大きなカプセルに繋がれ、大型モニターの横で眠っていた。

 ガチャッと誰かが入ってくる音がした。スリープモードに入ろうとしていたころろは、そっと目を開けてみる。

(むう……?)

 むうはふらふらモニターの方にやってくる。静かに。何も言わず。

 むうはモニターに触れた。ころろの設計図や大事そうなデータを手当たり次第に漁っては、何かを勝手にいじっている。

(むう……何してるの?)

 声に出そうとした。けれども、むうが押したボタンによってころろの身体は強制的にスリープモードへ移行した。

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