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第四章前編 何もない星

「まさかきーうぃが、ぺーぺの弟だったなんてね。」

先程の星での思い出話を語りだしたかろに「どーしたの?急に。」ところろが聞く。

「ころろ……よく覚えてないわね?」

 時は遡ること鍋パーティーの一時。かろは何かの拍子にきーうぃを「彼女」と呼んだ。その途端、先程まで涙を流していたぺーぺが豹変。「今……()()()と呼びました?」そういってメスを取り出したのだ。

「あ!言い忘れてたけど、きーうぃの性別を間違えるとぺーぺがスゴく怒るから、気ヲツケテなのね!」

「今言うの!?」

 ぺーぺは、白身魚の目ん玉にメスを突き刺す。何故ここまで怒る必要があるのか、いや、そんな事はどうでも良いだろう。とにかくこの時は己の命を守る事で精一杯だった。

「治すべきなのは頭でしょうか?目でしょうか?」

 この出来事は一生忘れられない出来事になっただろう。感動的な和解や鍋の美味さよりも。圧倒的に。

「――だって、仕方ないじゃない!あんなに可愛い見た目と声してるのよ?」

「ぺーぺも、色々たまってるんだよ。」


 ☆


「そうですね。少々取り乱してしまったようです。」

 次の星に到着した頃、ふとかろが隣を見ると、見た事のある人物たちが揃って並んでいた。

「……なんでいるのよ?」

「さっきぶりなのねーフタリとも!」

「おい、らいら!なんでコイツらの後を追った!?」

 犯人はらいららしい。むうがまたカンカンにキレている。

「だ、だって、まだお礼が済んでいなかったの!」

 「お礼?」ところろが聞くと、らいらが大きく頷いた。

「うん!今度はミーがフタリの問題を解決してあげるね!」

 お礼――その提案にかろところろは顔を見合わせる。

「別に私達、仲悪くないけど……。」

 しかし、らいらの考えと二人が受け取った事は微妙に食い違っていたようで、らいらは大きく首を振る。

「そこのフタリじゃないなの!ここなのね!」

 らいらは両手を使って大袈裟に指をさす。その指の先にいたのは、――むうとかろ。

「え?」

「はあ?」


 ☆


 ――この星は、何もない。都市も草木も川も生き物すらいない、黒い大地が永遠に広がっている星。

「最近、こういう星が一気に増えたんだ。それが、百年後の大飢饉の予言を裏付ける証拠ってわけ。

 大人って馬鹿だよな。どうでもいい予言のために何必死こいて対策練ってるんだか。」

「どうでもいいって――」

 かろが反論しようとした時、らいらが突然歌い始めた。

「♪寂しい星。孤独の星。僕の音はあなたへの贈り物♪

 ♪届いてほしいな。もう怖くないよって♪」

 「歌が好きなの?」ところろが聞くと、むうが代わりに教えてくれた。

「コイツは暇だとすぐ歌い出す。アイドルでもないのにな。」

「でも、KANADEを作ったのはむうだよね?なんで音楽を取り入れよーと思ったの?」

「気まぐれだ。」

 それだけ言うと、彼女は不機嫌そうに口を閉ざしてしまう。ころろは気にしていないが、場の空気は少し重たくなってしまった。そんな中、きーうぃがらいらに「いいね。ボクも混ぜて」と言う。二人は息を合わせて、それは見事な歌声を披露した。

「見てかろ!二人の足元……」

 ころろが慌てて指をさした先には、僅かな範囲、草花が茂っていた。その群れは二人の歌に合わせてみるみる範囲を広げていく。らいら達も、その現象に気がついたようだ。

「うそ……奇跡がおこったの?」

「凄すぎるなの!きっと音楽がご飯を美味シクするように、歌声は生命を蘇らせる力があるのね!」

 きーうぃは足元に咲いた花をまじまじ見つめ、らいらは嬉しそうにぴょんぴょこ跳ねている。

「あれって思い込みの話でしょ?」

「でも、今起こってるコトは事実なの!ようし。今から皆で大合唱するのね!」

 突然の誘いだったが、星を生き返らせる事に誰も悪い気はしなかった。満場一致で何を歌おうかとかパート分けはどうしようかの話で盛り上がり始めている中、「勝手にやってろ」とむうは一人断った。


 ☆


「まさかここが、音楽の星だったとは……。」

 楽器や音符の形をした木々が草原に転々と群れを成し、空の上でハープの弦がオーロラのように揺られている。風が音色を運び、花が音に合わせて色を変える。

「やったあなのー!星が生き返ったなのねー!」

 らいらは嬉しそうにバンザイしている。そのかたわら、かろは少し心配事があるみたいだ。

「ここって確か気象の変動が激しいのよね。晴れてると思ったらいきなり暴風になるから気をつけないと。」

「そっか。じゃあボクに任せて。丁度ぴったりなクリームがあるんだ。」

 そう言ってきーうぃが出したのは彼が錬金術で作ったクリーム。肌に塗れば効果が切れるまで気象の変化を事前に感じ取ることができる優れもの。

 かろはお礼を言って早速使ってみる。ふと、木にもたれて黙ったままのむうに目がいく。「むうも使う?」と彼女にも渡そうと思った瞬間、むうは強く拒絶した。

「僕はいらないッ!」

 むうは腕を強く押さえ、その仕草は巻かれた包帯を隠しているように見えた。しかしその明らさまな動きは、すぐにころろにも気づかれた。

「そのほーたい、なに?」

 ころろが聞く。ストレートなころろの言葉は、返って彼女の感情を刺激した。

「ころろには関係ない!なんだよ、僕の発明品より劣ってるくせに、人の聞かれたくない事まで土足で踏み込んで!」

「ちょっと、そんな言い方ってないでしょ?」

 ころろを庇って間に入ろうとしたかろに、むうは矛先を変えた。

「うるさい!僕に口答えするな、捨て駒のくせに!」

「――ッ!」

 ――バチンッという乾いた音。むうの頬は赤く腫れ、場の空気は一瞬にして凍りつく。かろは涙をまぶたいっぱいに浮かべながら、怒りのこもった目つきでむうを睨む。

 驚いて動かないむうを置いて、かろはどこかへ走り去る。ころろは急いでその後を追いかけていった。

「かろ、待って……!」

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