第四章中編 むうとかろ
錬金術と機械技術が発展した、スチームパンクの星、アルケミー星。その星に暮らすかろという少女は宇宙研究機関いちの発明家にして、最も名高い船長。
そんな彼女を追い抜かそうとする少女がいた。名前はむう。同じ研究チームだけど友達でもライバルでもない、ただの研究員生。でもそんな彼女のモットーは――
「かろよりスゴいヤツになるぞ!」
自信家な少女のあだ名は魔改造師。機械の解剖が趣味で、他人のあらゆる発明品をとんでもない兵器に仕立て上げてきた彼女は、いつの間にかそう呼ばれるようになっていた。
「どうだ!僕の考えた小型盗聴器!虫の動きを精密に模倣した絶対に盗聴器だとバレない傑作品だ!」
*犯罪です。
「ふふふ……見てろよ。これを使ってバカな大人たちの陰謀を暴いてやる……!」
*犯罪です。
☆
「よし……上手く会議室に忍び込めたな。」
むうの小型盗聴器は彼女のラジコン操作に従って会議室に侵入する。会議は残念ながら終わってしまっていたが、大人はまだ何人か残って話していた。その内容を要約するとこうなる。
大人達は、予言回避の為に今まで様々な研究を行なってきた。そんな中導き出された策が『真心を別の惑星から収集し、材料を見つけること』。
でも、この計画はあまりに終わりが見えない。無限の宇宙から材料を見つけ出すまで帰れない旅は、最悪船員が寿命を迎えるまで続く可能性もある。
大人達は貴重な人材を何人も送り出す訳にはいかず、研究員生の単独飛行を決定し、成績の高いかろを推薦。
むうはかろのトラブル体質を知った上で、大人を『予言回避とか言って、ホントはかろを捨て駒にしようとしてるだけ』と捉えた。
その日から、むうはかろのために研究に没頭するようになった。浮遊カプセルしかり、彼女の発明は大体かろのための発明、あるいは大人への反抗だった。
☆
時は経った。かろは大人達や同期に見送られ、宇宙を旅立とうとしていた。大人達は順々に彼女を抱きしめている。
(滑稽だな。お前らがかろを追い出そうとしたくせに。)
涙を浮かべたり、彼女との別れを惜しむ大人達を睨みつけながら、むうは思う。
――そして出発のとき。
かろは宇宙船に乗り込み、覚悟を決めたのか振り返らずに宇宙船の奥へ進む。
扉が閉まっていく。かろの姿が見えなくなっていく。むうは思わず手を伸ばそうとしていた。
「あ……」
☆
かろが宇宙に旅立ったあと、むうは急いでかろの後を追いかけようとした。まずは、自分の協力者を見つけなければいけない。
「医者のぺーぺと錬金術師のきーうぃだな。僕は次期船長のむう。お前たちを僕の宇宙船へ誘いに来た。」
自信たっぷりに手を差し出したむうに、ぺーぺは疑い深く睨む。
「わたし達の事情を知っていての誘いですか?」
「ぺーぺは目が見えず、きーうぃは突然寝る。それがなんだ?僕の船はそんなのリスクにもならない。」
「傲慢ですね。」
「宇宙研究機関は元から傲慢だらけの巣窟だ。
それに僕達は利害が一致している。お前も、百年後の大飢饉なんかどーでもいいヤツだろ?」
☆
初めて仲間ができたむうは、自分だけの宇宙船開発の為に明け暮れた。そして遂に完成したのが全自動型アンドロイド船KANADE。
むうはかろに続く発明家、そして船長になれた。その偉大な研究結果と、誰にも言えない秘密を隠して。
「宇宙アレルギーですよね。」
しかし、ぺーぺは容易く秘密を見破った。むうは笑ったり言い訳したりで誤魔化そうとしたが、彼女の鋭い勘だけは騙せない。
「儀式用の鉱石が要因でごく稀に発症する、大気圏外に入る事で病状を引き起こす疾患です。
適切な処置がなければ瞬く間に身体は星屑に侵食され、わずか一時間で死に至る――だから、医学の最高峰にいたわたしを勧誘したんですよね?」
むうはかたく拳を握りしめている。
「なんで知ってるんだよ……。」
「あなたが血液検査を頑なに拒否するので、こっそり採取しました。」
「闇医者!狂人!サイコパス!」
キレて初めてこちらを振り向いたむうに、ぺーぺはふう……とため息をつく。
「――何故あなたは危険を冒してまで宇宙に行こうとするんですか?
巻き込まないで下さい。わたし達までリスクになるんですよ。」
「だって……僕はかろよりスゴいヤツにならないと。かろを助けられない……。」
「だからって、あなたのやり方は正直無謀すぎます!」
「かろが死んじゃう!」
ぺーぺはハッとする。自分も過去、同じことを言った。昔の自分と今の彼女が重なって、ぺーぺは反論の余地を失う。
「……できることはしてみます。」
そう告げて、ぺーぺは診察室を去った。
☆
――むうと喧嘩をしたかろは、目的もなく歩いていた。しかし、先を越していたころろは宇宙船になって彼女を待っていた。「ころろ?なんで?」とかろが聞くと、「中を見て欲しくて」ところろが返す。
中に入ると「モニターを触って」と促され、ころろの淡々と繰り返される指示通りに動かしてみると、ふと、気になる項目を見つけた。
「この宇宙船って、体が浮かないように擬似重力装置を取り入れているわよね?」
「うん。でも何故か、何らかの機体トラブルが発生した場合だけ重力装置が付近の重力と接続されるようになってる。
……つまり、ワタシ達が事故を起こしても、必ずどこかの惑星にたどり着けるってこと。」
しかし二人にそんな仕掛けを設定した覚えはない。「誰がこんなこと……」とかろが呟くと、「むう……だと思う。」ところろは答え、全て打ち明けた。以前、むうが研究室に侵入していたこと。モニターの前で何かを操作していたこと。……その時むうは、小さく口を動かしていたこと。「死ぬなよ。かろ」と。
「――話に行かないと。」
かろは宇宙船を飛び出し、ころろは人型になって後を追う。しかし外に出た途端、嫌な風が二人の肌をなぞった。
「風、強くなりそうね。」
「早く!コッチなのねー!」
声がする方ではらいらが宇宙船になって二人を待っていた。
急かされるまま宇宙船に駆け込むと、直後、外は竜巻のような暴風に晒された。生身の人間が放り出されれば、瞬く間にどこかへ吹き飛ばされてしまいそう。
「気象が変わりやすいとお聞きしてはいましたが、ここまでとは。」
「はあ。間に合ってよかったなのねー。」
中にはぺーぺ、きーうぃの姿もあった。けれど、一人見当たらない。
「あれ、むうは?」
「え?フタリと一緒じゃないなの?」
誰もむうの居場所を把握していない。風の吹く音に誰もが嫌な予感をよぎらせる。
「なんで?」
「だ、だって、あの後むうは、かろを探しに行くって……。」
「そっか。彼女はクリームをぬってなかったから、強風の前触れに気づけなかったんだ。」
きーうぃの発言に誰もが窓の外を見る。彼女はまだ、この強風の中に――。




