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第四章後編 友だち

「あなた、何を……!?」

 宇宙船の扉が全開になり、かろが今にも飛び出そうとしている。風が吹き荒れる騒音の中でも、かろの「助けに行かないと!」という声は鮮明に届く。

「むうが死ぬかもしれないでしょ!」

 ぺーぺは歯を食いしばり、かろに怒鳴りつけた。

「どうしてあなた達は、昔のわたしと同じ事ばかり言うのですか……!」

 余裕のないその声にかろは驚きながら、少し笑ってみせた。

「そうね。気が合うってことじゃない?」

「……もう無意味です。彼女の薬の効果はとっくに切れています。

 あの包帯を見たでしょう?あれは彼女のアレルギー病状を隠すためのもの。効果が切れたら腕の症状はみるみる広がり、死んでしまいます……こんな天気の中、間に合うわけが……!」

 切羽詰まった様子のぺーぺに、きーうぃはまた独特な詩を口ずさむ。

「目が覚めた。ベッドメリーは止まり、安らぎのオルゴールも夢のあと。でも、淡い温もりはまだここに。」

「つまり、この星は音楽に強いえいきょーを受けるから、歌えばこの天候もどーにかなるかもってこと。」

 何故ころろにも伝わるのかはさておき、希望を見出したらいらは素早く名乗り出た。

「じゃあミーに任セテなのね!ミーの歌でこの風をどうにか和らげてミセるの!」

「ボクは操縦士として、らいらの手助けをするよ。」

 皆、むうを助けるために一致団結しようとする。ころろは周囲のあらゆる情報を検索する。

「らいら。三キロメートル先に生体はんのー!」

 らいらは歌い出し、きーうぃはオルゴールを鳴らす。するときーうぃが言っていたように、本当に風は弱まっていった。らいらは検索結果が指し示す方へ一直線に向かっていく。


 ☆


(僕……死ぬのかな。)

 一方、むうは洞窟の中で暴風から逃れていた。しかし、岩壁でぐったりとした彼女の身体は銀色の銀河のような痣がびっしりと広がっていた。

「いやだ、死にたくないよ。ぺーぺ。きーうぃ。らいら…………かろ。」

「むうっ!!」

 聞き覚えのある声。洞窟の上を見上げるとかろの姿が。しかしまた風が強まってきたそうで、かろは飛ばされそうになる。

「かろ!?」

 むうは最後の力でかろに手を伸ばす。「早く掴まれ!」その言葉にかろも手を伸ばした途端、むうの手に引かれ、かろも洞窟の中へ引き込まれていった。

「うわっ!」


 ☆


 かろは持参していた弁当箱をむうに渡す。

「はい。私とぺーぺ特製・即席野菜炒め。緊急用の強い薬だから好き嫌いは聞かないってぺーぺが。」

「……まあ、ありがと。」

 むうがお礼を言った!?!?その衝撃にかろは口をあんぐりさせている。それを腹減ったの意だと勘違いしたむうは「あげないからな?」と料理を彼女から遠ざけた。

 豚肉とピーマンがたっぷり入った野菜炒めは噛むたび野菜のシャキシャキと肉のギュッとした食感が心地良い。そして何より、濃いめの醤油味が唐辛子の辛さとよく合い、定番なのに楽しい気持ちになる。……ただ、むうは唐辛子も野菜も嫌いなので、そんな感情は当然抱かない。おそらくぺーぺは「寝ないで下さい。死にますよ。」という意味でこの料理をチョイスした。

「……まだ怒ってる?」

「別にもう気にしてないわ。勝手に設計図いじったことも。」

 むうはギクリと肩をはね上げる。そして気まずそうに「ごめん」と呟く。かろは面白くてからかっただけの模様。

「だってむうは命の恩人だから。むうがいなきゃ私は今頃ここに居なかったし。」

 むうは無言で俯く。そんな彼女にかろは少し昔話をした。

「私、ホントは宇宙に行くのが怖かったの。」


 ☆


 ――私はいつも笑ってきた。寂しくてもそれをひた隠すように。だけど、隠しているだけじゃホントの気持ちは誤魔化しきれなかった。

 どんな凄いトロフィーでも、身近な人の褒め言葉じゃなきゃ満たされない。

 たった一人でも、友だちが欲しかった。

「かろ。君の単独飛行が決まった。」

「単独?他のメンバーは?」

「……――君ひとりだ。」

 この計画が始まれば、私の願いはもう叶わない。

「ころろ!遂にあなたと宇宙へ行けることになったわ。」

「ほんと?」

 ――ええ。だから、一緒に逃げよ。

 言おうとした。でも、躊躇ってしまった。

 それでも私は、アルケミー星が好きだったから。


 ☆


(かろも同じだったんだ――。)

 むうもその性格から人ばかりが遠ざかり、船長なんて向いてないと笑われてきた。

 でも本当はむうも友だちが欲しかった。だから世間にいっぱい褒められてるかろは友だちもいっぱいなんだろう。そう思ってほんとは少し嫉妬していた。

(前向きで、明るくて眩しい、かろみたいなヤツと友だちになりたかった。嫉妬しながらもずっとそう思ってた。)


「かろ。僕はずっと、かろよりスゴいヤツになりたかった。」


 その一瞬、かろの視界が彩られた気がした。自分を思ってくれて、自分を認めてくれる人がこんなそばにいた事に、かろは初めて知れたから。

「なのに僕……かろところろに酷いこと言った。最低だよな。」

「ううん。むうは最高!」

 かろはむうに飛びつき、ぎゅっと抱きしめた。

「なっ、急に抱きつくな!らいらじゃないんだぞ……!」


 ☆


 風は止み、洞窟から出ると夜風が心地よく吹いていた。かろはふと顔を上げ、途端に目を輝かせた。

「彗星……!」

 むうもつられて星を見上げると、見事な青い光が空に線を描いている。

 そのあまりの美しさに二人は目を奪われ、しばらく一緒に眺める。その間にむうの痣は少しずつ消えていった。


 ☆


 出発直前。かろところろは、らいら達より先に旅立つことになった。

「むうは起こしにいかないの?」

「彼女が目を覚ましたら「かろと一緒に行く!」と言って聞かなそうなので。」

 あの後、むうはよっぽどお疲れだったようで気を失った。ぺーぺは一晩むうの看病をしていたようだが――むうを心配してベッドを見つめているきーうぃの肩に手を置くと「安心して下さい、きーうぃ。あなたが寝てしまった際はすぐにむうを引きずり下ろしますので。」と優しくない台詞をさも優しく言う。かろは苦笑いで見ていた。

「また喧嘩しないでよ?」


 ☆


 かろところろを見送った後のぺーぺときーうぃは、ほんのしばらく宇宙を見上げていた。「なんだかぺーぺ、すっきりしてる。」きーうぃがそういうと、ぺーぺは「そうですか?」と返す。

「わたしは今でも思っていますよ。「きーうぃにこんな思いをさせた世界なんて、滅んでしまえ」と。」

「ふふ。でも、もう自分のせいにはしてない。」

「……戻りますよきーうぃ。」

 ぺーぺは少し照れくさそうに、きーうぃはいつも通りにゆったりと宇宙船へ戻っていく。

 しかし、らいらはまだ宇宙を見つめていた。見つめながら思い出に浸り、やがていつものように歌い出した。

「♪宇宙を行くあなたに歌う♪

 ♪大丈夫。ひとりじゃないよ♪」


 ☆


「ねえ、むう。どうしてミーはKANADEで、らいらなの?」

 昔、らいらはむうに聞いた事があった。

「僕は意地悪で素直じゃないから、率直な気持ちは伝えられない。

 だから代わりに歌えって言ってんの。らいらの声は、僕の本音だから。」

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