第二章後編 また逢う日まで
「記憶、もどって良かったですね。」
「はい。皆様には感謝してもしきれません。」
やがて空になった四人のお皿には、真心がたんまりと転がっている。れびーはそれらをそっとすくい上げ、愛おしそうに眺めた。
「それにしても、ひとつのお料理でこんなに真心が生まれるとは。」
「確かに。」
「でも、納得かも。」
かろところろは目を合わせ、同時にふふっと笑う。
「じゃあそれは、れびーにあげる。」
「え、良いのですか?先程集めているとお聞きしましたが……。」
「私達は一料理につき一真心で十分だから。だからそっちは、れびーへのお土産!」
驚きと喜びが入り交じった目が、正面でにこにこと笑うかろを映す。
少しの間を置いて、れびーは満面の笑みを返した。
「……はい!嬉しいです。」
真心を移した小瓶を優しく撫でる。「なんだか懐かしい」そんな独り言を呟きながら、傾けると中でカランと転がる真心を眺めていた。
「観光客様の中に一人、料理が得意な方がいらっしゃって、よく振舞って下さったんです。なんでも、妹とよく作っていたらしく……。」
「へえ。妹がいたのね。」
「はい。彼、妹の話をする度言っていたんです。
――ぴかるに会いたいと。」
誰もがその名前を聞いた途端、ハッとする。
「それって――」
ガタン、と音が立つ。咄嗟に立ち上がったのはぴかるだった。ぴかるは見たことがないくらい真剣にれびーを見つめている。
「その人、鏡の星から来たんだよね?」
「え、はい。確かそうだったかと。」
「……今、どこにいる?」
☆
雪雲は去り、柔らかい日差しが墓地を包む。地面に軽く積もった雪が小さく輝いて、キンとした風が静かに吹く。
案内された街はずれにある小さな墓場で、彼らとぴかるの兄は安らかに眠っていた。
「宇宙船は墜落の際、修復不可能なまでにぐちゃぐちゃになってしまい、彼らは生涯をこの惑星で暮らすことにしました。」
ぴかるは一人で歩みを進める。その背中は悲しいような、ホッとしたような、不思議な感じだった。
かろは一瞬その後を追いかけようとしたけれど、ころろがそっと裾を引いて止める。
「ここにいたんだね。お兄。」
彼女は泣いていない。落ち込んでもいない。墓の前で穏やかに笑っていた。
☆
「ここに残ることにしたの?」
かろが聞く。この星を去ろうとする二人を前にして、ぴかるは頷いた。
「お兄が愛した星を、私も沢山見てみたいと思って。私もれびびもこの先長いしさ。」
「そう。なんだか寂しくなるわね。」
れびーはぴかるの隣に立って微笑みながら、二人の出発を見送ろうとしている。
「私も彼女がいれば、記憶を失くしても怖くありませんから。」
「かろりん頑張ってね。その時がきたら私達も飛んで手伝いに来てあげるよ。」
「じゃー、かろ船長がワタシを壊しまくって動けなくなった時の、新しい宇宙船をひとつ。」
「なっ、誰が破壊神よ。」
二人のやりとりを面白おかしく笑いながら、れびーもその話題に乗っかる。
「では、替えの宇宙船はケーキ型にしましょうか。」
「よし!早速二人で取りかかろうね、れびび!」
楽しい時間も過ぎ去り、別れの時がくる。ころろが変身した宇宙船の中にかろが乗り込み、外から元気に手を振る二人に手を振り返す。
「またね!かろりん!ころちゃん!」
「……またね。れびー。ぴかる。」
少し照れくさそうな機械の声が、確かに二人の耳に届いた。ころろだ。
「――!」
ぴかるは驚く。でも、すごく嬉しくて更に大きく手を振った。
「うん!また!」
宇宙船は瞬く間に空を駆け抜け遠くの宇宙を目指していく。地面が小さくなっていく中、ころろはかろに打ち明けた。
「ねえかろ。友だち、少しわかってきたかも。」
「なに?」
「一緒に食べると、もっと美味しい。」
☆
――これは少し前。かろがアルケミー星を出る前の話。
「ころろ!遂にあなたと宇宙へ行けることになったわ。」
部屋に飛び込んできたかろに、ころろは驚きながらも内心喜ぶ。
「ほんと?」
ころろは宇宙船でありながら、宇宙に行ったことがなかった。代わりに任されるのは、かろの研究室の後片付け、愚痴を聞く役、自慢話を褒める役。そればかりだった。
仕方ない。ころろはかろが一番最初に発明した試作品で危険も多い。しかも一人しか搭乗できず、明らかに不便。
だからこそ、ころろは少し疑問だった。
「でも、なんで?」
かろは答えない。笑ったまま固まっている。
「かろ?」
――〈……ジジ……ジーー…………〉
無線機がどこかと繋がる音で目が覚めた。スリープ中、昔のデータが流しっぱになっていたようだ。つまり人でいえば、夢。
「かろ、起きてる?」
返事はない。もう二人は眠りに落ちていて、宇宙の真ん中で休んでいる最中だった。
〈…………かろ……ころろ……〉
無線機からまた声がした。でも、前よりずっと聞き取りやすい。段々向こうから近づいているのだろうか。
〈…………お願い……あの子たち……を…………助けて……〉
女の子の声。以前、かろを怖がらせようとしていたナニカとは別人のようだ。しかし、無線機は途絶え、再び船内に静寂が訪れる。それっきり無線機から何かが聞こえてくることはなく、二人は次の惑星へ向かうのだった。




