第二章前編 次の星へ
「救命弾って、あとどれくらい撃てる?」
「五発かな。」
今日も宇宙船566号は宇宙の真ん中を走り抜けている。船長かろと宇宙船の少女ころろは新しい仲間、ぴかるを連れて次の惑星へ向かっていた。
「そう。じゃあ補充しておかないと。」
船内の作業を慣れた手つきで行ないながら、ころろと他愛のない会話を続けるかろに、ぴかるは聞く。
「それって、そんなに使うものなの?」
「事故を起こさない限りひつよーありません。が、かろ船長の搭乗した機体は、はちじゅーからきゅーじゅうの確率で機体トラブルを起こし、ぶっ壊れます。」
「こわい!」
「間違いじゃないわね。それのお陰で研究員生は皆私から離れていっちゃうし、気がつけば小さな宇宙船に一人きりよ。」
ころろの恐ろしい発言に追い打ちがかかり、ぴかるはすっかり怯えて宇宙船の隅っこでうずくまってしまった。
「どうしてそんな船に私を乗せたの……?かろりん。」
「そ、そんなに怖がらないでよ。ぴかるのお兄さんが見つかるまでは点検回数の増加を徹底してるし、さっきの惑星も問題なく着けたでしょ?」
「着陸時に横転したのが!?」
その時は救命弾が作動される程ではなかったとはいえ、十分事故だ。思い返せばぴかるが二人と出会った時も墜落していた。そんな短期間で事故を二度も目撃するくらいなのだから、ころろの言葉に間違いはないのだろう。
「かろ、取り憑かれてたりして。」
「こ、ころちゃん!」
ぴかるが怖い話はやめてと言わんばかりに壁に縋りつく。その瞬間、ぴかるのそばにあった無線機が突然、船内に鳴り響いた。
「ひっ」
ぴかるの小さな悲鳴があがる。対して特に気にしてないかろは無線機を手に取って、耳をすませる。
〈か……ろ…………食って……やる……う。〉
誰の声か判別できないほどノイズのかかった声が、途切れ途切れで聞こえてきた。しかしかろは無線機をその場に置いて、何ともない顔で作業に戻っていく。
「なんだ。何でもないわね。」
「どこが!?!?」
☆
そんなこんなで無事次の惑星にたどり着いた三人だが、ぴかるは腰が抜けて顔面蒼白になっている。
「助かった……。」
「立てますか?」ころろが手を伸ばす。ぴかるは自分に向いたころろの瞳を不思議そうに見た。
「ころちゃん。私にももっとフランクでいいんだよ?」
「それは、何故ですか?」
ころろもぴかるを見つめ返し、不思議がった。
「なぜって、だって私達は友達でしょ?」
「ともだち……?よく分かりません。」
友達そのものがよく分からないという意味だ。ぴかるを友達だと思えない訳ではないと、ぴかるも理解していた。
「でも、かろりんとは友達でしょ?」
「いえ……ワタシはかろ船長の発明品です。チュージツなのが当たり前です。」
ぴかるの手をころろが引く。その後ろで荷物整理をしていたかろがくしゃみした。
「うう……寒いわね。はやく街へ向かいましょ。」
かろ達がいるのは雪原の中。地平線の向こうまで白銀に覆われた大地に粉雪がしんしんと降り始めていた。
これ以上話を続けていたら、本当に凍えてしまいそうだ。かろが進む方向に従って二人も歩きだす。
「これから行く都市は私が好きな場所なの。」
「へえ。どんなところ?」
「ふふん。行けば分かるわ。」
☆
三人はこの惑星でいちばん大きな都市にたどり着く。そこでは沢山のロボットが人に混ざって街を行き交い、機械仕掛けの変な建物が並ぶ、近未来チックな世界が広がっていた。
「確かに、かろりんが好きそうかも。」
しかし一方、かろは騒がしく鳴る腹を抑えて背中を丸めている。
「ずっと歩いていたせいでお腹がすいたわ……チキン、ラーメン、エビフライ……」
「野菜も食べよう?かろりん。」
更にお腹が減りそうな独り言をずらずら並べる様子にぴかるは苦笑いしている。そんな中、ころろもまた、皆に聞こえる声で独り言を放つ。
「かろりんのカロリンかじょー摂取。」
「どんなギャグよ?」
思わずかろは首を傾げた。そんな三人の元へ「なにかお困りですか?」と声掛けが入る。
「誰ですか?」
ころろが尋ねると、白いフリルのエプロンを纏った少女は黒いスカートの裾を持って丁寧にお辞儀をした。
「申し遅れました。私はガラクタの星観光案内用メイドロボット、れびーと申します。」
ロボットなんだ。と、一同は感心を覚えた。精巧な作りの機械は細かい瞳の動きから指先の動かし方まで自然な人の動きを見事に真似ていて、抑揚のついた声も人工的な音声とは程遠く、正体を明かされても尚生きた人を感じられた。かろのアンドロイド船と比較しても劣ることはないだろう。
「がらくたの星ってゆーのは?」
「はい。この惑星の人々はいらなくなった機材や資源を他の惑星から譲り受け、それらを再利用して暮らしています。
もしかして……他の惑星から来られた方達でしょうか?」
「まあ、そんなところね。」
かろがそう言うと、れびーはびっくりしたように目を丸くした。
「それは大変失礼致しました!長旅でさぞお疲れで御座いましょう。何か軽食をお持ちしますね。」
「そんなサービスまでしてくれるの?」
「ええ。私たちの惑星はいろんな星のお陰で成り立っています。なので、他の惑星から来た観光客様には最大限のおもてなしを、と教えられています。」
「わあ!ありがとう、れびび!……んー。れびれびの方がいいかな?」
ぴかるは嬉しそうに手を合わせながら、彼女のあだ名を考えている。れびーはその様子を微笑ましそうに見ていた。微笑んだ時にほんのり赤くなるれびーのそばかすは、さりげないチャームポイントとして可愛げがある。
「どちらでも構いません!――そうだ。ここの名物は野菜とお肉がどっかり入ったコロッケなんですよ。栄養もたっぷりスタミナもたっぷりで評判なんです。」
「へえ。聞いてたらお腹が空いてくるわね。」
「かろはいつも空いてる。」
れびーはパニエのついた丈の短いメイド服をひるがえし、三人をお店まで案内してくれようとする。美味しいご飯の話題につられた一同もそれに着いていこうとしたが――れびーは突然、地面に倒れて動かなくなってしまった。
〈充電切れデス……エネルギーを補給してくだサイ。〉
心配して駆け寄った一同の耳にアナウンスが飛び込む。どうやら先程まで、エネルギーが底尽きる寸前だったそう。
「ころろ。れびーのエネルギー源を検索して。」
「うん。れびーは人と同じものを食べるみたい。でもワタシと違って、れびーは好物しかエネルギーにならない。」
れびーの好物……それはころろが検索しても分からなかった。
「確か、れびびは観光案内用のロボットなんだよね?なら案内所に行けば分かるかも!」
ぴかるの提案で、三人はれびーを背負って目的地まで向かうことにした。




