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第一章中編 ぴかるの故郷

ぴかるの星が鏡の星と名付けられているのは、星型の立方体が無数に海中を漂い、夜になると海面がイルミネーションのように光り輝く。その様子が夜空を鏡で映しているように見えるから。そんな海藻と共に生まれた鏡の星の人類は海底に幾つもの都市を作り、現在まで何不自由なく暮らしている。

「――ねえあれ、ぴかるじゃないか?」

「ああ、帰ってきたのか。」

 かろところろを招いて故郷に戻ってきたぴかるに、周りは微妙な反応を示した。ぴかるは気にしていないけど、二人はその視線に違和感を感じていた。

「それじゃ、まずはあのお店に寄ってみよっか。」

 張り切った様子で走り出したぴかるは、ふと二人が着いてきていない事に気がついて足を止めた。振り返ると彼女らはコソコソしながら何かを話し合っている。

「交換できそうなものは色々持ってきたけど、この星の人達は何が好きかしら……。」

「かろコレは?でっかいナマコみたいな奴。」

「ひぃ!?あんたなんてもの持ってきてんのよ!」

 ヒソヒソ話す二人の会話を聞いたぴかるは「物々交換しようとしてるの?」と問いかけた。かろが頷く。なんでもアルケミー星の人々は、別の惑星に行く際に価値のあるものを交渉材料として持っていくそう。

「そんな事しなくても、私が全部奢るよ。」

 そんなぴかるの言葉に「して貰ってばかりじゃ悪いでしょ。」とかろが返す。しかしぴかるはにこやかに微笑み「私が好きでやってることだから。」と首を振った。

 このままでは堂々巡りになってしまう。悩んだ末にかろところろは二人顔を見合わせこくんと頷いた。

「やっぱり、交換したものが凄いお金になるかもだし!」

「かろ!ワタシ達はあっちに行こう!」

 ぴかるが制止しようとする前に騒がしく走り去っていく彼女らに、一人取り残された彼女はポカンとしながらその場に立ち尽くしていた。


 ☆

 

 一方かろところろの二人は、どうしても気になることを確かめに海鮮のお店へ立ち寄っていた。店内には新鮮な魚が一列に吊るされ、店主はその中でも一際大きな貝を捌いている最中だった。

「ああ、お客さんかい。」

 ガタイの良い店主は大きな貝の中身を片手に二人の元へ近づいてくる。

「おお〜、でっカイ。」

 見た事ないサイズの貝を前に楽しそうにするころろを見て店主は「ひとつサービスしてやろう。」と言って既に完成された貝の酒蒸しを渡してくれた。

「コイツは化け貝っちゅー生きモンだ。」

 小さく切り分けられた貝からは貝特有の濃厚な香りが漂い、いっぱいだったお腹がまた空いてしまいそう。店主に促されるまま一口食べてみればコリコリした歯ごたえと独特な風味が幸福感をもたらしてくれる。

「お嬢ちゃん達は、観光かい?」

「いえ、聞きこみちょーさです。」

 食べ物を喉奥に飲み込むと、ころろは店主に事情を打ち明けた。

「……――ああ、ぴかるちゃんねぇ。いや、地元では確かに有名な子ではあるけどな、うぅん。」

 難しい顔をする店主にかろは「すごい人なの?」と質問を投げかける。「いいや、そういう訳ではない。」と店主。

「あの子は変人……変わった子というか……ああそうだ、長老さんならあの子の事をよく知っている。その人に聞いてみるといい。」

「どこにいるの?」

「丁度店にいる。案内してやろう。」

 店主に連れられて向かった席には一人の年老いた老婆が酒をちびちび嗜んでいた。店主が「ごゆっくり。」とその場を後にすると気配に気がついた老婆がゆっくり二人を見やる。

「あの、ちょうろーさんですか。」

 ころろの問いかけに「ごもっとも。」としゃがれた声で頷く。ぴかるについて知りたいと聞いてみると、その長老は気安く答えてくれた。

「あの子はワシの、若かりし頃の友人じゃ。あの子は神聖な人魚の肉を食って長寿になりおった。」

「どうして?」

「…………兄を待つためじゃ。」


 ☆

 

 時は遡って数百年前。ぴかるという少女にはとても優しい兄がいた。兄は宇宙飛行士だった。

「当時、宇宙飛行士はとても神聖な役職じゃった。じゃから人はみな、彼らが宇宙に旅立つ日は決まって陸地で儀式を行なっていた。」

 ぴかるは儀式の大トリである、踊り子。大好きな兄の為に毎日練習してきた舞を、兄の為に全力で踊った。

「しかし、彼女は儀式の途中でうっかり転んでしまった。そしてその日に限って兄の乗っていた宇宙船が暴走を起こし、以来連絡が途絶えてしまったのじゃ。」

 ぴかるは自分が儀式で失敗したせいだと思い込み一人陸地に行っては兄の帰りを待つようになった。そのうちにいつしか彼女は海に帰らなくなっていたという。

「誰も彼女を責めはしなかった。じゃが彼女は誰よりも自分を責めて、何千、何万年経とうと兄を待つことに決めたのじゃよ。」

 長老の話が終わったあと、沈黙が続く。「話してくれて、ありがとーございます。」ころろがそういうと老婆は静かに手を振り二人は店を後にした。


 ☆

 

「あ!二人とも探したんだよ?」

 店の外では二人の後を追いかけてきたぴかると再会を果たす。彼女を置いてきていたことをすっかり忘れていたかろは「あっ、ごめん、」と手を合わせた。

「――それで、収穫はあった?」

「ええ。」とかろは頷き、球体の浮遊するカプセルをトントンと叩く。

「さっきから気になってたんだけど、それは何?」

 ぴかるはカプセルを指さす。その機体はぴかるがかろに出会った頃からかろの周囲を浮遊していた。

「これは真心を保管するための浮遊カプセル。本体に入れた真心をデータ化して小さくするから、無限に入れられるのよ。」

「それも、かろりんが開発したの?」と聞かれると、かろは首を振って答えた。

「これは同じ研究チームにいた子が作ったの。変わり者だけど悪い子じゃなかったわ。」

 そう話しながら店から貰った料理の真心を早速カプセルに挿入する。機体の中からカコン、カコン、と揺れる音と共にカプセルも細かく揺れ動く。

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