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第六章後編 終着点

「か……かろ。生きてる?」

「ふう……危うく身体がぐにゃぐにゃになるところだったわ。」

 早々不穏なことを言っているが、事実だ。二人はなんとかブラックホールの中に潜り込むことができたが、ブラックホールの吸い込む力で宇宙船ごと分解されかけたのだから。

「ブラックホールで生き延びられるなら、やっぱりかろの宇宙船は光速も越えられるんじゃ……」

「なんだか私も、そんな気がしてきた。」

 あたりは真っ暗で何も見えない。かろところろははぐれないように手を繋ぎ、身を寄せ合いながら道無き道を行く。

「――君たちは、誰だ?」

 人の声がした。正面から?でも、姿は見えない。

「ここは光を全て吸い込んでしまう。しかし、元々ここは灯りの星。我々人類はほんの短時間だけならあらゆる法則を変え、光を灯すことができる。

 君たちがここへ来られたのも、我々のうちの誰かがギリギリで法則を変えたためだろう。」

 辺りにパッと光が灯る。二人の目の前には大柄な大人が一人たたずんでいた。狭い範囲を細かく明滅する光。灰色の地面。それ以外の物は何も見当たらない。

「あの……ここで食べなくても死なない薬を作ってるってきーて来ました。」

「昔は作っていた。ただ、今はもう作っていない。」

 大人は語る。この星は昔とても貧しくて食べるものに困っていたという。お腹を空かせて苦しむ子供達に心を痛めた大人達は、考えた末に真心を利用して食べなくても死なない薬を開発した。すると、みるみる飢餓の問題は解決され、一時は誰もが喜んだ。

「我々は忘れてしまった。誰かと食べることの喜びも、幸せも、楽しさも。それはとても悲しいことだった。我々は薬の解除薬の開発を試みたが、結局は失敗に終わった。」

 ここの星の人達は、どうにかこの薬の効果を終わらせようとしてくれているみたいだ。

 かろところろは打ち明ける。他の惑星が今、どんな状況に侵されているか。自分達は何者で、何をしにここへ来たか。語っている間大人は何も言わない。ただ表情ひとつ変えずに二人の話を聞いていた。

「そうか……宇宙で今そんなことが。

 我々の責任だろう。なんとか力を尽くしたい。だが……解除薬ができない今、どうする事もできない。」

「どーして解除薬は作れないの?」

「材料がないのだ。我々の星は食べ物がないため、真心も生まれない。君たちが持ち歩いているそのカプセルの内部を見ても、どれも材料にはならなそうだ。」

 真心をデータ化する浮遊カプセル。今まで沢山の真心を入れてきたカプセルだけれど、それでも材料になる真心は含まれていない。しかも大人が言うには、解除薬は食べなくても死なない薬より沢山の材料が必要だという。

「法則を変える力も、せいぜいこの星に限った力だ。他の惑星には干渉できないうえ、我々はこの力に頼りきりで宇宙船を作った試しもない。」

 大人は自分達の無力さを嘆いているようだ。でも、かろは話を聞きながら少しずつ決意を固めていた。

「……ねえ、解除薬を作れたら予言は覆るの?」

「おそらくは。薬の効果が切れれば副作用もなくなる。そうすれば、吸収したエネルギーは元の星へ還元され、滅びた惑星も蘇る。我々の星は全てを呑み込むブラックホールから再び灯りの星となるだろう。」

 いい事づくしだ。かろは思う。アルケミー星もくのかの星もこの星も、みんな助けることができるのなら、かろが選ぶ手段はたった一つだった。

「じゃあ、私が解除薬を作るわ。」

「……何年かかるかわからない。」

「元からそういう旅よ。」

 かろの意志は固かった。迷いのないその言葉に、大人は申し訳なさそうに悩みながらも了承した。「ありがとう……我々のせいで……ありがとう。」そう言って。

「ころろ。私はここに残るわ。」

「じゃあワタシも――」

 しかし、かろはころろから手を離す。距離を離して、大人の方へ歩きだした。その背中に初めて、ころろは恐怖を感じた。

「だめ……だめだよ、かろ!」

 ころろは叫ぶ。いやだ、離れ離れになりたくない。

「きっとこの先、旅は長いから。あなたは先に戻って私の無事を伝えて欲しいの。」

「何年かかるか分からないんだよ!?もう二度と戻って来れないかもしれない。ワタシ、かろに会えなくなるの嫌だよ!」

 かろは振り向く。あの時と同じ、穏やかで優しい顔。

「大丈夫。絶対に生きて帰ってくるから。」

 ころろはいつの間にかぼろぼろと泣いていた。機械の身体なのに、どうしてこんなに涙が出るんだろう。……かろはイジワルだ。

「今思えば、アルケミー星のみんなはとっくに私の友だちだったんだと思うの。あの星は私にとって大切だったし今でも守りたいと思ってる。私にとって友だちは、そういう存在。

 だからそんな友だちに、私は安心させてあげたい。もう大丈夫。予言は終わるんだ。私は生きているんだって。だからそれをころろに任せたいの。一番の親友に。」

 ころろはただ泣き崩れる。でももう止める言葉は出てこない。ころろもかろの意志を尊重したかった。大好きな友だちとして。

「絶対に、絶対に帰ってきてね、かろ……」

「うん。約束。」


 ☆


 ころろはたった一人、宇宙を出発した。かろは宇宙を救いに、ころろはその思いを受け継ぐため。ブラックホールを抜け、広大な宇宙で辿ってきた星々を引き返して。思い出を巡りながら。


 ☆


 一方、アルケミー星では一足先にKANADE号の船員達が帰還していた。船長のむうは大人に囲まれ次々に感謝を伝えられていた。

「たった今、占いの星から予言の掲示があった。アルケミー星から送られた宇宙飛行士のおかげで、必ず予言は覆ることになると。」

「きっと君たちKANADE号のおかげだ。予言の回避と君たちの帰還を祝して、この日を惑星の記念日にしよう。」

 しかし、むうは鼻を鳴らし、嫌々しく大人を睨む。

「僕は何もしてない。566号を忘れた訳じゃないだろうな。予言撤回の成果は無論かろのものだ。それを蔑ろにしようものならこの日を僕の兵器のお披露目日にしてくれる。」

「帰還早々血なまぐさいのはやめて下さい。船長。」

「うるさいぺーぺ!僕は無性に腹が立ってるんだ!」

 大人達はそんなむうの様子に顔を見合わせる。誰もが可哀想な子どもを哀れむ目をしていた。

「残念だが、むう。かろは――」

「うるさいうるさいうるさい!かろは生きてる!!」


「あー!あれを見てなのね!!」


 らいらが空を指さして叫ぶ。空から何かがこちらへ一直線に降ってくる。それが宇宙船だと知った時――むうは急いで足を動かした。


 ――ズドン!と地面に墜落する。むうの目の前で砂煙が舞い上がり、落ち着いた煙の中から段々と姿を表したのはころろだった。

「かろは?」

 ころろは静かに首を振る。むうはころろを見つめながら目の前の真実に、ただ力なく膝をついた。

次回、最終回一一

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