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第六章前編 予言の地

「かろ!逃げて!」

 ころろの呼びかけによって我に返ったかろは、正面から突進してくる黒い物体に気がつき、慌てて避けた。冷静になってよく見ると、物体は丸いてるてる坊主の形をした生き物のよう。辺りを見ればソレは無数に、地面一帯から湧き出ていた。

「精霊が怒ってるみたい……。」

 精霊ところろは言う。しかし、今見えるソレは誰もが想像する神秘的なものとは程遠く、怒りと悲しみだけが渦巻く怨霊のようだった。

「これ……みんな精霊なの?」

 精霊はかろだけでなく、宇宙船にも体当たりする。危険を感じた二人は慌てて星を出た。


「ねえ、これからどこ行く?」

 ころろの問いかけに、かろは黙ってうつむくばかり……かと思えば突然大きなどんぶりを取り出し、大盛りのカツ丼を一気にかきこむ。「かろ?」と不思議そうなころろの声をよそに、あっという間に空になった皿をドンと置いた。

「――占いの星に行くわよ。」


 ☆


 占いの星。遠い昔に超新星爆発が起きて以来、惑星が散り散りになって銀河になった。その銀河の総称。

 占いの星に住んでいた人々は散り散りになった星の欠片ごとに自分の家を作り、常に宇宙空間を行き来して暮らしている。その銀河内の空間は不思議なことに薄紫に染まっていて、人が行き来しているから色んな生活品が浮遊している。

「……ここに来れば、大飢饉の予言について詳しく聞けるかもって?」

「そ、そうなんだけど……お腹が苦しい。」

「気合いだめもホドホドに。」

 そう言いつつたどり着いたのは宇宙空間に浮かぶ可愛い屋根のおうち。ノックをすると自然にドアが開く。

 二人は中へ入り、周りのゆめかわいい家具をキョロキョロと見ながら奥へ進んでいった。

「――そなた達がくるのを待っていた。」

 本棚がずらりと並んだ部屋で、どこからか少女の声が聞こえてくる。

「急にお邪魔してごめんなさい。私はかろよ。」

「ワタシはころろ。」

 相変わらず少女の姿は見えない。少し間を置いて再び声が聞こえた。

「……わがはいは占い師。名はけいとである。」

「小説のぶんしょーみたいだね。」

 ころろは作業机の上で天球儀をくるくる回して遊ぶ。それをかろが止めようとすると、ころろはふいに机の下を覗く。

「あ。猫。」

 ごつん、と鈍い音と共に机のものがほんの一瞬揺れた。ころろの目には、頭を痛そうに抱えてうずくまる猫耳の少女が映っていた。驚いて頭をぶつけたのだろう。

「わ、わがはいはただの置物だ……。」

「無理があるかも。」

 諦めて少女は立ち上がる。猫とよく似た手足に、モフモフの毛が沢山生えた顔。そして青い髪から生えた猫耳。彼女は獣人の子だろう。

「どーして隠れてたの?」

「……人前は得意でない。だからいつも人から見つからない場所を占っていたというのに……誤った。」

「ワタシ、人じゃないもんね。」

 しかし、二人が思っている以上に彼女にとっては深刻だったそうで、唇は青ざめガクガクと震えている。

「な、なぜ居場所がバレた……ああ……みんなそうだ……人はわがはいを見ればこぞってモフモフなでなでと触れてきて……全く恐ろしい……ああぁ……」

 つまり、人がとんでもなく苦手なようだ。

「とりあえず落ち着きましょ?何か用意してくる?」

「気持ちを落ち着かせるなら、飲み物がいーと思う。」

 そう言ってころろが準備しに行く。けいとのキッチンを借りて小一時間。随分長いと思えば、ころろが持ってきたのはパフェ。

「パフェって……飲み物?」

「グラスに入ってるから。」

 かろもけいとも困惑する中、折角作ってくれたもの。食べないのは悪いと食べ始めたけいとは、パッと華やかな表情になる。

「これは……。ウエハースのサクサク、新鮮なフルーツ、冷たいアイスにふわふわなホイップクリーム……様々な味が組み合わさって見事な調和を生んでいる。

 しかも、下に行く毎に異なる層になっているから飽きることなくずっと楽しい。実に良いおやつだ。」

「食レポ担当ね。」

 どんどんと食べ進めて空になったグラスの中には真心がひとつ転がっている。かろ達はお礼にその真心を貰えた。

 けいとは二人を信用してくれたのか。今度は怯えずに椅子にしっかり腰掛けている。

「そなた達は良いヤツだ。わがはいをモフモフなでなでしないだけでなく、気遣ってもくれる。

 大飢饉の件で来たのだろう?なんでも聞くと良い。」

 早速本題に踏み込んできたけいとに、それじゃあ……とかろは聞いてみる。大飢饉とは一体何なのか――。


 ☆


 けいとは花に水をやりに温室へ来ていた。かろところろはその付き添い。鳥籠の形をしたその部屋で花にジョウロを傾けながら、けいとは答えを語る。

「大飢饉か。そなた達も知っての通り、それは八年前から突如起こった全惑星共通の危機だ。」

 予言によれば大飢饉が起こる日は惑星によってバラバラ。でも予言が初めて知らされたのは、不思議なことにどの惑星も同じ日付だった。

「大飢饉が訪れれば、その惑星はたちまち()()()にエネルギーを吸収され、何もない星に変わる。」

「ある星って?」

「ブラックホール。かつて食べなくても死なない薬を完成させた、たった一つの星だ。」

「食べなくても死なない薬って……」

「ワタシ達が追い求めてた?」

 けいとは頷く。研究チームが開発の為に探し続け、今までかろところろが集めてきた真心を原料とするもの。

「アルケミー星に残された薬の記述も、元はわがはいが予言に沿って惑星の者に教えたものだ。

 そなた達の星は宇宙研究に特化している。この星なら大飢饉から宇宙を救えると予言も言っていたのだろう。」

 ころろはその話を更に深堀りして聞いてみる。

「つまり、ブラックホールに行って薬を貰ってくれば、予言は回避できる?」

「いや。薬に手は出すな。

 ……場所を変えよう。植物の匂いにわがはいの鼻もそろそろ疲れてきた。」

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