第五章後編 美しい星
三人が作ったのはカゴいっぱいのミートパイ。パイの中身はそれぞれ違って、皆が好きな味を楽しめる。
「これを村中に配って、真心を集めましょ!」
「おー。」
こんがり焼けたツヤのあるパイを眺めながら、くのかは羨ましそうにヨダレをたらしている。でも、これは村の皆にあげるパイ……くのかはぐっと我慢した。
☆
「ごめんください。パイをお届けにまいりました。」
ころろが扉を叩くと、中から村の人が顔を出す。
「おやおや、可愛いお嬢さん。パイをどうもありがとう。」
ころろはミートパイと手紙を村人に渡す。手紙にはこう書いてあった。『パイから出てきた真心は畑にあげてください。きっとよく育ちます。』
一方、かろは郵便受けに手紙とパイを入れていた。彼女が向かった家は留守だったみたいだ。
用を済ませたかろは次の家へと移動する。すると、遠くから別の家を訪ねているくのかを見かけた。
「オニーサン、やっぱりココにいた〜笑。暇なの?引きこもり?」
くのかは相変わらず人をからかって遊んでいる。彼女の目の前にいたのは、かなり歳は離れているけれど美形の青年だった。
「もしかして、パイを届けに来てくれたの?ありがとう。」
「へ……!?そ、そんな訳なくない?これ全部ウチのだもーん?」
多分、彼女は青年に惚れている。しかし、このまま放っておいたら彼女は「ごめん……渡せなかった」と言って帰ってきそうだったので、かろがフォローを入れに向かう。
「くのか。人に意地悪は……?」
「オニーサンごめんなさい!パイあげるから許して!」
親に言いつけられると思ったか、くのかは必死に謝る。最初、小生意気な少女として二人の前に現れたくのかは、実に子どもらしい純粋な少女だったみたいだ。
そうして一同は着々とパイを届けに回った。一人暮らしの家、おしどり夫婦の家、大家族の家……犬猫を飼ってる家、友達とみんなで暮らしてる家、くのかの家にも。
大体村を回り終えた頃、沢山歩いた三人は道端で休憩していた。
「じゃん。私達はロシアンルーレットよ。」
かろは三人分のミートパイを見せびらかす。パイを羨ましがっていたくのかは大喜び。
ただし、これはロシアンルーレット。どれかに一つ、とんでもなく辛い激辛ミートパイが入っている。
――一番に「からい!」と悲鳴をあげたのはかろ。激辛を引いてしまったみたいだ。
「え〜言い出しっぺが当てちゃったのお?なっさけな〜い――っからい!」
またからかおうとしたところ、くのかまで引いてしまったらしい。そんな中、ころろがうち明かす。全部にからしを入れたと。
「もおー!全部辛入りとか意味ないじゃんか!」
☆
やがて、二人が精霊の星にやってきてから数日が経った。村中は喜びで賑わい、新鮮な野菜が村人の手に運び込まれ、道を行き交う。かろ達の作戦は大成功だったようで、一同は村人達のお誘いでパーティに招かれた。
「私達の村を救ってくれてありがとう!」
かろところろはお礼に沢山の食べ物と真心を貰った。そしてくのかも、彼女の好物や可愛いものを沢山貰って嬉しそうにしている。
星を出る前にパーティで沢山のご馳走をたらふく食べた二人は、満足したように村を出ていこうとした。
「かろ!ころろ!ウチが大きくなるまで、約束覚えててね。」
くのかは両親の間で元気に手を振る。
――将来は宇宙飛行士になるって決めてるの。星が見てみたいんだ。そんな言葉がかろところろの記憶の中から聞こえた気がした。
「そうね。きっといつか。」
三人はお互いが遠くなって見えなくなるまで何度も手を振った。かろところろは森の小道を進む。宝石でできた木々は氷色に煌めき、二人の姿を鏡になって映す。枝から垂れ下がった小さな宝石は風が吹く度キラキラ音が鳴り、宝石の欠片が散らばった地面は歩く度シャリシャリ鳴る。
やがて開けた草原に着くと、ころろは宇宙船になった。しかしもうじき夜も深くなる。それならいっそ、この宝石に囲まれて寝てしまうのも良いだろうと、二人は今夜をここで過ごすことにした。
☆
「かろ。ねえ、かろ。」
朝。ころろの声で目を覚ます。寝ぼけた声で「どうしたの?」と聞いてみるが、ころろは何も言わない。心配になって船内を見てみるも異常は見られない……なら、外で何かあったのか。かろは宇宙船から出てみることにした。
目を擦って、再び目を開ける。かろが立っている地面の足元には、枯れて真っ黒くなった作物がひとつ、腐って死んでいた。かろは顔を上げた――
氷色の木々はなく、地面は宝石の欠片ひとつもない。ただ真っ黒な大地が続くばかり。――何もない星。
「……くのか?」
惑星の真ん中で動けなくなっているかろの後ろで、ころろは淡々と呟く。「十キロメートル先、生体反応なし。二十キロメートル先、生体反応なし。三十キロメートル先、生体反応なし。四十キロメートル先、生体反応なし――」
かろは思わず空を見上げた。空にあった結界は完全に剥がれ落ち、そこには――満点の星々が、それは美しすぎるくらいに空を埋めつくして瞬いては流れていた。
――星が見てみたいんだ。
声が、再び二人の頭によぎった。




