第21話
【魅惑の仮面】
夕暮れの荒野。
戦いの跡が残っていた。
砕けた地面。
焦げた瓦礫。
そして
倒れた八将の残骸。
ガルムが息を吐く。
「三人目か……」
レナが言う。
「でも」
「まだ半分よ」
カナタは黙っていた。
目は
シオンを見ている。
シオンは少し離れた場所に立っていた。
空を見ている。
風が髪を揺らす。
カナタが近づく。
「シオン」
シオンは振り向く。
「……なんだ」
カナタは腕を見る。
黒い侵食。
それは
さっきより
確実に広がっていた。
カナタが言う。
「それ」
シオンは隠す。
「大丈夫だ」
カナタは言う。
「でも」
シオンが少し笑う。
「気にするな」
だが
その笑顔は
どこか
空虚だった。
その時だった。
風が止まる。
レナが眉をひそめる。
「……何?」
空気が変わる。
甘い匂い。
どこか
不気味なほど
心地いい香り。
ガルムが言う。
「なんだこの匂い」
声がした。
「気に入った?」
全員が振り向く。
瓦礫の上に
一人の女が座っていた。
長い黒髪。
細い体。
そして
仮面。
レナが息を呑む。
「……八将」
女は笑う。
「正解」
ゆっくり立ち上がる。
「第四席」
仮面が光る。
「魅惑の仮面 リリス」
カナタが剣を握る。
「また八将か」
リリスは首を傾ける。
「そんな怖い顔しないで」
笑う。
「今日は」
「戦いに来たわけじゃない」
ガルムが言う。
「嘘つけ」
リリスは肩をすくめる。
「本当よ」
その目が
ゆっくり
シオンを見る。
「今日は」
「見に来ただけ」
カナタが言う。
「何を」
リリスが答える。
「あなた」
シオンの目が揺れる。
リリスがゆっくり近づく。
誰も動けない。
空気が
重い。
レナが言う。
「……精神干渉」
リリスが笑う。
「正解」
指を鳴らす。
パチン。
その瞬間。
景色が変わった。
カナタの視界が揺れる。
瓦礫が消える。
空が変わる。
目の前には
懐かしい家。
カナタが震える。
「……ここ」
祖父の家。
声がする。
「カナタ」
振り向く。
そこには
祖父が立っていた。
カナタが呟く。
「……じいちゃん」
祖父が笑う。
「帰ってきたのか」
カナタの手が震える。
その時。
遠くから声。
「騙されるな」
Rの声。
景色が歪む。
祖父の顔が崩れる。
黒い霧になる。
カナタが叫ぶ。
「くそ!」
現実に戻る。
荒野。
リリスが笑っている。
「危なかったわね」
ガルムが怒鳴る。
「ふざけんな!」
だが
リリスはもう見ていない。
彼女の目は
シオンだけを見ていた。
「ねぇ」
シオンが動かない。
リリスが言う。
「苦しいでしょ」
シオンの指が震える。
リリスが優しく言う。
「その力」
「止まらないわよ」
カナタが叫ぶ。
「シオン!」
リリスが続ける。
「侵食」
「止まらない」
シオンの腕。
黒い侵食が
肩まで広がる。
レナが叫ぶ。
「まずい!」
リリスが囁く。
「でもね」
「方法がある」
シオンがゆっくり顔を上げる。
「……方法?」
リリスが笑う。
「こっちに来ればいい」
カナタが叫ぶ。
「聞くな!」
リリスは続ける。
「アルカディア様なら」
「あなたを救える」
シオンの目が揺れる。
カナタが言う。
「シオン!」
リリスが微笑む。
「あなた」
「選ばれてるのよ」
その瞬間。
シオンの仮面が
黒く光った。
ドクン。
空気が震える。
カナタが感じる。
嫌な予感。
リリスが言う。
「もうすぐね」
ガルムが怒鳴る。
「何がだ!」
リリスが笑う。
「覚醒」
そして
消えた。
風だけが残る。
静寂。
カナタがシオンを見る。
「シオン」
シオンは
立っていた。
だが
その瞳は
わずかに
黒く染まり始めていた。




