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Daughters of Guns  作者: 三篠森・N
SEASON2 EP1 27クラブ
25/32

27クラブ #3

「結局、なんだったんだろうな」


「わかりません。わからないですけど、確実に何かの作為が働いていました」


 宇都宮。

 探索を諦めて引き返すが、日光、宇都宮、鬼怒川のどの拠点に行くにも闇雲しかないという状態から、驚く程スムーズにポインター号は宇都宮に辿り着いた。

 相変わらずカーナビは狂ったままで、宇都宮が見えてナビゲーションの必要がなくなるまではユニバーサルスタジオジャパンで踊り続けていたが、ホテルに着くころには現在地をさした忠実な案内役に戻っていた。そして三人の誰もが、カーナビが正常に戻る瞬間を目撃していなかった。

 それでも雨水が雨樋を流れるように最短距離でスムーズに、ポインター号は宇都宮に……。これはもうドライバーのシキミの運や勘がよかったというよりも、何らかが宇都宮へと運んだとしか思えない現象だった。

 三つの拠点候補のうち、シキミとキクコは宇都宮を希望していた。宇都宮は拓けた都市であり、繁華街、飲食店、手ごろな値段の宿も多く、情報が溢れているため東京に空気が近い。何もない暗闇の山中との緩急の差が、シキミとキクコに過剰なリラックスを与えた。

 解放された勢いのままに餃子を食べ、そしてビールを飲み込むとそれはもう先程の怪異がどうでもよくなるくらいの極上の組み合わせで、激しい緩急によってブレーキが壊れたシキミは汗をうかばせながら暴飲暴食した。餃子とビールの組み合わせの魅力の方がさっきの怪異より怖いと思ったくらいだ。


「ということは、今回の怪異には実は悪意がなかったんじゃないかと思うんですよね」


「キクコさんの勘は当たるから、そうかもしれません」


「実際、ゴーストは自己顕示欲と寂寥が歪んでいるだけで、悪意がなくても思いが強ければ現象として作用します。自分の近くにやってきたものを観察した。そうしたら思いがけず、カーナビとスマホに反応が出た」


 中ジョッキを空にしたシキミが人差し指を立てて小さく振った。キクコは遠慮がちに二本立て、顔を赤らめた。それを認めたシキミは店員に向かって声を上げた。


「生中二つで!」


「ハイヨロコンデー!」


 明智は酢もラー油も混ぜない醤油に餃子を浸し、スマホを眺めながら眉間にしわを寄せた。どうやらこの化身はスマホ依存らしい。


「平家落人村について、いくつかの証言を探してみた」


「どこの落書きですか? わたし、あんまり信じないんですよね」


「確かに信憑性は薄い。しかし数が多く、統計になれば傾向は見える。全員がウソをついていると考える方が不自然だ」


「気持ちはわかります」


「それを踏まえ、私なりに仮定を立ててみた」


 明智はスマホのタップを続け、テキストを表示してテーブルの上に置こうとした。そして逡巡する。弾ける餃子の肉汁と、酩酊したものの多いテーブル……。彼は丁寧に紙ナプキンを幾重にも敷き、置いたのであった。


「まず、夜に平家落人村を見つけたものはいない。夜にあの一帯……後述する条件を満たして日光と鬼怒川の間の山中に迷い込んだものたちは、ほぼ必ずカーナビとスマホの異常を訴えている。だが死んだものはおらず、必ず生還している」


「だからわたしたちも見つけられなかったということですね。わたしたちが山に入ったのはもう夕方でした。……怪異は暗い方が見つかりやすいという前提が間違っていたのかも」


「次に、一度山で迷って恐怖体験し、それでももう一度山に入ったものは日中に平家落人村を見つけられる」


「自分たちを恐れないものを受け入れているんですかね? そこは分岐の可能性になりそうです。一つ。先程わたしたちが体験したような気配や異常は試練の一つ。二つ。キクコさんの考えの通り、あれは試練でも悪意でもなく、怪異側からの観察に伴う異常」


「今は仮定に仮定を重ねることに意義は薄い。個人的な意見を言わせてもらうならば後者、キクコさんに同調したいが、今はその答えを出す場面ではない」


「じゃあ、それって地元住民はどうなるんです? あのあたりに住んでいる人は、夜にあのあたりを通るたびに迷うんですか?」


「いや、迷うのは一度だけだ。その辺りは情報不足だな。一度迷った現地民が日中に通るたびに平家落人村を見つけているか、それは定かではない。おそらく私の仮説は一度しか深掘りに耐えられない程度の強度だ。それでも続けていいか?」


「もちろんです」


「次に、男性だけで平家落人村に辿り着けたものはいない。必ず女性だけ、或いは女性同伴の集団が平家落人村に到達する。だが男性は立ち入り禁止ではなく、男性の目撃者や体験者も存在する」


「そこに関してわたしたちは条件を満たしていますね。理論上は最短で明日の朝に見つかるということですか?」


「そうなるな。だがそこからが問題だ。女性が平家落人村に辿り着き、一回り遊覧すると、帰りに必ず年齢を訊かれる」


「失礼なやつらだ」


「そこで答えると、あなたは違う、と告げられ、二度と見つかることはない」


「何かの正解があるということですね」


「そうだな。それに正解した時に何が起きるかはわからぬ。特定の年齢の女性かつ、平家落人村を夜に探してその恐怖に打ち克つ心を持っているものを探していることになるが、怪異自体に悪意がなく、目的の過程で現象を起こしてしまうタイプであるならば探しているのは贄ではないだろう。その逆もしかりだが、先程も言ったように私の仮定が根拠の薄いネットの書き込みをベースにしている以上、これ以上の仮定を重ねることは意味がないな。これ以上は考えることを一度やめよう。休むこと、心身ともに弛緩することに努め、英気を養おう」


 明智は神経質に紙ナプキンでスマホの画面を拭き、ビールをごくり、と飲み込んだ後に酔いが回ったのか緊張がほぐれたのか、手を挙げて音量の調整が狂った声で「馬刺し! ハイボール!」と追加注文した。十分に食べ、酔いも回ったところで、店を出た。


「ここは私が持とう」


「結構飲み食いしましたが?」


「経費として上に請求する」


「ミカエルがわたしたちの餃子、馬刺し、ビール、ハイボールを立て替えるんですか。こいつはいい」


 キクコが感謝を述べる一方でシキミはスマホと周囲を交互に見渡し、より細かく、豊かな色彩が集合する方向を指さした。そしてニヤリと笑った。


「じゃあキクコさん、いつもの行きますか」


「君たちはまだ飲むのか? 観たい番組は?」


「配信で観ます。わたしたちはむしろここからが本番です」


「ご一緒してよろしいか?」


「もちろんです」


 陽気な足取りでシキミはネオンサインの街を歩き、手ごろな一軒を見つけて道場破り然とした堂々かつ横暴な態度で扉を開けた。やたらと明るい色の髪のママ、現地の紳士や、少しあか抜けないお姉さんたちは、スーツにメガネのシキミ、お嬢様風のキクコ、刑事ドラマの主人公じみた明智というちぐはぐな三人組を見て、夜が更けてきたなァと言いたげに酒のグラスを傾けた。


「こんばんは、ママさん。ウォッカ・マティーニを一つお願いします」


「あらあらお嬢さん。旅行客? お嬢さんにはちょっと強いお酒かも。それともこの宇都宮で007を待っているの?」


「あいにく、わたしはボンドガールにはなれないんです。わたしが横にいるとジェームズ・ボンドが霞むし、わたしがジェームズ・ボンドを守ってあげなきゃいけないから彼の顔が立たない。007の代わりに、この店で一番歌の上手い人を教えてください。そして、その人とカラオケ対決をさせてください」


「あらあら、面白いお嬢さん。でもお嬢さんね。マミちゃん。お相手してあげて」


 マミちゃんなるホステスがにっこり笑い、マイクをとった。笑顔だが、その奥にはくっきりと敵意が滲んでいた。


「マミちゃんはオリオン通りナンバーワンのストリートミュージシャンだぞ!」


「来年か再来年には武道館だァ!」


 煽ることはいくらでも出来るが、カラオケ対決はフェアにやりたい。シキミもマイクをとり、じゃんけんで先攻を勝ち取った。


「そうだなぁ……。じゃあ今日はNirvanaの『Come As You Are』で。……明智さんは職業柄、涅槃(ニルヴァーナ)には行けないでしょうけどね」


 はじめ、明智はシキミの人一倍繊細な心について考えていた。彼女は化身が死ぬという衝撃的な場面を目撃し、先程は自分が運転する車が迷って怪異の喉の上で三人の平常心がゆっくりとその唾液に溶かされる最中、ハンドルを握るという責任感を感じていたのだろう。そして宇都宮に辿り着いてからのはしゃぎよう。彼女はタフを心掛け、実際タフだが、その一方で言葉を選ばなければハリボテでもある。だからおどける、攻撃的になる、というのは、あの吸血鬼のトリダ・バイトが語った弱点の多さ故の攻撃性。今も現実逃避のために無理をして、楽しく陽気に振舞っているのでは?

 だがいざ歌が始まると、曲のことなど何も知らないのに明智は形容しがたき高揚を覚え、心底の楽しさと誇らしさ、二枚の羽が風車のように心の中で回転を続け、明智はからからと笑った。勝つか負けるかはどうでもいい。シキミが声を張るたびにカタルシスすら感じた。

 こうして宇都宮の夜は更けていった。




 〇




 翌朝。

 シキミはホテルの出入り口でタバコを吸っていた。夜更かしと早起きには耐性があるようだったが、睡眠管理アプリと揶揄……する人間もいないのだが、決まった時間の起床と就寝を機械めいて繰り返す明智は、夜更かしが響いてやや眠い目をこすった。


「明智さん、運転は出来ますか?」


「あいにく」


「参ったな……。わたしが運転するしかないんですね」


「キクコさんは運転出来ないのか?」


「免許は持っていますけど、気が小さすぎて運転には向かないし、先日の更新で後期高齢者研修を受けさせるかどうかで警察がパニックになって一旦免許は保留です。じゃあ明智さんが地図を描いてください。来た道をなぞるだけでいいです」


 シキミは既にどこかで紙の地図を買ったようだった。ついでに方位磁石、ペンも持っている。しばらくタバコは吸えないと察しているのか、随分と有難がって肺と喉に煙を纏わりつかせていた。しかしポインター号にはシガーソケットも備え付けられている。それでもタバコのにおいがしないのは、ポインター号改造当初は一人で乗るつもりだったか、誰かと乗るにしても自分はタバコを吸うつもりだったのだろう。


「だが位置を記録しても平家落人村が決まった場所にあるとは限らない。彼らの求める年齢の女性でないと二度と行くことは出来ないのだぞ」


「帰るための地図です。偶然わたしたちのどちらかが、彼らの求める年齢で帰れなくなるかもしれないですしね。それにわたしが運転せず、とある特技に集中すれば地図の精度は上がるので、明智さんに運転を頼みたかったのですが……。まぁいいですよ。わたしは闇雲に走る。明智さんは地図を書く。これでいいでしょう」


 ……。スマホ依存症の自分に地図を描ける自信はない。

 だが明智の懸念はそれだけではない。何か途方もない……。想像を絶する何か不吉な気配を感じる。キクコは明智の前でも怪殴丸を握ることはあったが、それはダウジング目的であり攻撃ではなかった。それでも怨嗟と殺意は漏れ出ている。その怪殴丸のオーラがもっと無邪気かつ残酷になったような、強大で手に負えない気配。そして、それは昨晩の森の怪異とはまた異なるものに由来している。

 怪殴丸が殺意、森の怪異が朴訥とすれば、今感じる気配は陽気にさえ感じられる。だからこそ恐怖を駆り立てるのだ。


「キクコさん、森の怪異を記憶し、ダウジングすることは可能ですか?」


「昨晩、シキミさんと話し合ったんです」


 このホテルに喫煙所は出入り口にしかなく全室禁煙だ。普段の出張では喫煙シングルと禁煙シングルの別部屋だが、昨晩シキミとキクコは同室だった。それが関係しているのかキクコは昨日よりも晴れ晴れと、楽しそうにしているように見えた。


「怪殴丸はネガティブな存在感が強すぎ、森の怪異が気弱な霊魂の集合体だった場合は不要な威嚇になり、目的地を遠ざける可能性があるのではないかと」


「怪殴丸は何か言ったのか?」


「何も」


 ……自分は怪殴丸に何かを期待していたのか? 怪殴丸は武器。殺すための道具であり、唯一自らの意思を解するキクコには特別にダウジング機能を許可しているにすぎず、本質的には悪だ。


「では出かけますよ」




 〇




「え……?」


 それは、ランダムに設定したはずなのに、27クラブの曲がループされる昨日の怪現象を避けてジュディマリのアルバムを流し始めてすぐだった。山道に入り、数える程曲がった程度……。ちょうど宇都宮が死角になり、周囲の地形を他のものと区別出来なくなった頃。突如山の中に拓けた場所と木造のアーチ看板が現れた。


「見つかったのか?」


「そのようです」


 そこにはダイイングメッセージじみてペンキを滴らせ、禍々しく“平家落人村”と記されていた。昨日の遭難未遂、宇都宮へのスムーズな到達、そして影の向き以外は四方すべてが同じになった途端の発見。やはり平家落人村は誘ったか、招いたか……。

 駐車場と書かれた粗末な立て看板の舗装もされていない場所にポインター号を停め、シキミは過保護に悪い足場を走った愛車を慮った。


「キクコさん、どうでしょう?」


「そうですね……」


 車を降りたキクコは顎に手を当て、看板を眺めた。まるで品定めだった。

 そうだ。キクコはもとより、シキミの数倍から数十倍の霊感の持ち主であるが、怪殴丸をはじめとした怪異との接触でさらに感度が高くなっている。キクコ自身は感じた怪異の質や危険度をあまり上手く言語化出来ず、直感に過ぎないが、ここまで来てしまうともう日出菊子そのものが怪異という域に達している。

 シキミはどう思っているのだろうか? それとも、明智が人間とは一線を画す化身であるからキクコを危うく思うのだろうか? 確かに、ドライな言い方をすれば便利ではある。怪殴丸はそれだけで強い存在感と悪意を放つ。一方のキクコは無垢で、こうやって平家落人村に潜む怪異を感じる分には敵には危害も威嚇も及ばない。怪殴丸が必要かどうかを確かめるセーフティとしては便利ではある。


「怪殴丸はやめておきましょう。暴力沙汰にはならないような気がしますし、ない方が上手く行きそう」


「じゃあそうしましょう」


 明智から見て実に歪な関係である。この孫娘は……捨て鉢に祖母を信じることで、信頼の深度を深めようとしている。祖母の寂寥を消すため。寂寥を消し、ゴーストのように拗らせないようにするため。


「こんにちは」


 門をくぐっても特に何かが劇的に変わるという訳ではなかった。だが、このテーマパーク……この寒村をテーマパークとするならば、東京ディズニーランドのシンデレラ城、ユニバーサルスタジオジャパンの地球儀の位置にある焚火台で、三人の不審な男が組み立て式の椅子に座って串焼きを焼いたり、タバコを吸ったりしていた。三人の来客を認めると、愛想よく歓迎するでもなく胡乱な目つきで三人を見ながら立ち上がり、一応は立って出迎えた。


「ようこそ」


 三人はあまりにも極端から極端へと走る容姿をしていた。

 一人目は一九〇センチを超える長身で、肩幅も非常に広く、日本人離れした体格の持ち主で、頭頂部の薄い頭髪を補うために横と後ろから髪を動員していた。顔をしかめているのか笑っているのかはわからないが、とにかく独特な表情の持ち主で、この場には不似合いな青いスーツを着ていたが、体格の大きさかどこかだらしのない着こなしに見えた。

 二人目は飾り気のない黒のポロシャツとグレーのチノパン、そしてあまりにも落差の激しい派手を極めた縦縞の法被。黒と黄色の背部には、“44”“BASS”と、明智の前では気安く言ってはならない阪神タイガースの“神”の名前が刺繍され、当然帽子も縦縞のHTマークだった。

 三人目はつばの短いブラウンのハットを被って首からお守りを下げ、襟のない空色のシャツに帽子と同じ色の腹巻とアウターの、四角い顔の男。


「入場料はいらないよ」


「そうですか。皆様はここの従業員ですか?」


「そんなものだ」


「ここは禁煙ですか?」


「屋外は全面喫煙可」


「ありがとうございます」


 シキミは胸のポケットからパッケージを取り出して一本弾き出し、ライターを弄んで思案しながら明智、キクコの顔を見て眉を動かした。


「どうぞ」


「すみませんね」


 かち、と火がつく。平家落人とは何も関連性を見いだせない奇妙な三人の男性……。シキミはほとんど答えを見出していた。それもライターの火のように明らかに、ぱちんと簡単にだ。


「デカい人は“トランプ元大統領”、縦縞の人は“トラ党”、帽子の人は“フーテンのトラさん”。何故トラにこだわったのかはわかりませんが、平家落人の生き残りが仮装したものではないですね」


「そうか? 生き延び、化身のように不老となったものが現世の生活を謳歌しているのかもしれぬぞ。私だって天使の化身でありながらゲーム三昧だ」


「さっき少し話しかけたわたしのとある特技を使えば、ゴーストや不老の存在の年齢を推測しやすいのです」


 キクコはぽんと手を叩き、はっとしてから得意げに言った。


「“超目測”ですね!」


「そうです。わたしはこの距離ならば、誤差一センチメートル以内で対象の大きさを目視で測ることが出来ます。そしてわたしには時代ごとの男女の平均身長がインプットされている。あちらのトランプさんは一九〇センチメートル、トラ党さんは一八四センチメートル、フーテンのトラさんは一七三センチメートル。平安時代末期当時の平均身長は一六〇センチ台で、ここにいる人は平家落人にしては大きすぎる。一人が大きいならまだしも、当時基準では二人も巨人がいます」


「長い間生きることで体が大きくなったのでは?」


「紬さんは戦国時代の生まれで、身長は化身になった戦国時代当初から変わっていなかった。それでも紬さんは現代風に名前やファッションを変えて時代に合わせていたけど、体格はどうにもならなかったから一四〇センチ台前半しかなかった。決めつけるのは良くないけど……。あれだけカマエルに重宝された紬さんが、現代で生きるのには不自由するくらいの姿を変えさせてもらえないのに人間に過ぎない平家落人が自由に体格を変えられるのは少し腑に落ちないですね」


 目を細める、顎に手を当てる、腕を組むなどめいめいに、三人は考えた。だが、そんなことをする余裕は確かにあったのだ。トランプ、トラ党、フーテンのトラは、見た目こそ怪異、もしくは変人であるが、悪意と敵意を感じない。今すぐに攻撃してくることはないとそれぞれの勘と経験則、ロジックが答えを弾き出していたし、奇妙な三人のトラには不器用な愛嬌さえ抱いたのだ。昨晩の森の怪異の原因がこの三人であったとしたら、やはりそれも攻撃ではなく不器用故の暴走だったのだろう。

 シキミは超目測である程度答えを絞った。後はキクコの霊感、明智のオーラを使えば正体をもっと絞り込むことも出来るが、それは一種の実力行使であり、無礼な詮索でもある。

 そもそもナツメ商会の三人は、平家落人村の三人の正体を暴きに来たのではなく、平家落人村で何が起きるのかを確かめに来たのだ。


「パークを見て回りましょう」


「そうですね」


 まずは平家落人村をしっかりと楽しんでみよう。その上で、三人のトラと対話。それでも遅くはないと思った。

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