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神様の宴  作者: 大山椒魚
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白を基調とした女性用の官服に身を包み、幾つかの書簡を抱えて回廊を歩いて来たのは東郷春とうごうはる

絶世の美女というわけではないが愛らしい顔立ちに、くりくりとした大きな瞳は鮮烈に赤い


その瞳が燃え上がるように私を睨み付けた

すれ違い様に腕を取られる


「どっどうなさいました?」


突然の事に私よりも同僚の女の子達の方が慌てた

しかし、予感のあった私はニコリと笑って見せる


「ごめんなさい。先に向かって下さい。私もすぐ追い付くので」


困惑しながらも、私の腕を掴み憎々しげに睨む少女の瞳が赤いのを見てとった同僚達は、察したように足早に宴会場へ向かった


人気のなくなった回廊に二人


ついに、この時が来たな

厄介ないざこざはもうたくさんだ

暁に言っても効かないなら、この世界の主人公ヒロインの力を借りるしかない


何か言おうとしたはるよりも先に私は言った


「貴女!王太子様のお妃候補にならない?」

「は?」

「貴女の気持ちは分かってるわ。私は早く貴女と王太子が結ばれる事を祈ってるの!その為には西安家は力を惜しまないわ。私じゃなくても、卯ノ花家に取り次いでもいいの。あの家も貴女に協力してくれるはずよ!」


春はポカンとして口を開けている

そんな風にしてるとアホっぽいぞ!ヒ・ロ・イ・ン!


先日の朔の話は穏やかだったが情報提供者(あやめ)の話では、暁に忠誠を誓っている主要キャラで、人柄は穏やかで世話焼きな一面がある

しかし、暁の為なら手段を選ばない非情さもあわせ持つ男らしい


ハッキリと断ったがあれが通用したように思えないのだ

こちらの同意を取る振りをして裏で強行手段を取っていても不思議ではない。菖から聞いた私がお妃候補に上がっているという話がいい証拠だ。外堀を埋めようとしているふうにしか見えない


ならば、お妃候補にはるを加えてしまえば話は早い。候補は候補でしかなく、選ばれなければ幾らかの礼金を与えられ実家に返される

私は返されたとしてももう大丈夫だ

楽士として腕を上げたし、出戻りで肩身の狭い家を出ても何とかやっていけるだろう


自分の提案は決して悪い話ではない

期待を込めて春を見つめたが、ハッとしたように春は険しく私を睨み付けて来た


「何が狙いなのかは分かってるのよ!何処までも性悪な女ね、毒椿が!私の暁に対する思いはあんたの策略なんかに負けないんだから!」


春は突き飛ばすように掴んだ私の腕を振り払う

琵琶と楽譜を抱えた私はそれによろめいた

普段なら問題なく、ドスコイ!っと踏ん張れたが宴会用に裾の長い衣装を着ていたのがいけなかった


それに、怒濤の言い掛かりに唖然としたせいもある

何だよ策略って!?

お気楽なスローライフなら計画してましたけど


足をもつれさせ、倒れると思ったがそんなことはなかった


「何をしている」


抑揚のない冷たいとも思える声

支えるように肩に回った腕の主を見て私は固まった

視界の端で春も硬直していたが


「貴女は宴の楽士だろう。そこの君は職務中ではないのか?」


淡々とした表情の動かない人形めいた端正な顔に鋭い光のある瞳のそばには泣きボクロ

官服の長衣を着た彼はそう……


酉洲とすなばり様……」



私を殺す男がそこにいた



思わず生唾を飲み込んだ

私を見やる瞳にはあやめが熱く語っていたような色恋沙汰は見受けられない


春はばつの悪そうな表情で私となばりを見比べて、失礼致しますと言って立ち去った

私は内心春タンに叫んだ、置いてかないで!!

そして肝心の話も終わってはいない


私の肩から手を放した隠はじっと私を見つめている

……んだコラ!やっ、やんのか!


頭一つほど背の高い男に事務的に先ほどの礼を述べれば、静かに口を開く


「卯ノ花の開く宴に行くのか」

「はい、そうです」

「貴女は妃候補になるのか?」

「……私にはそのつもりはございません」

「何故?家の位も問題はない。王太子とも懇意にしているというのに……この王宮で覇を極めたくはないのか?」


無口と聞いていたのに良く喋る。淡々とした無機質な声ではあるが

それに随分とつまらない事を聞くものだ


「私はただの宮女。その様な大それた事は考えておりません。もしも……」


貴方が小説通り、私を使って暁を陥れようとしているやからの手先なら


「私がお妃候補になろうとも、どこぞの輩に唆され、誰かを傷付ける手助けなど死んでも致しません」


少しだけ、隠の瞳が見開かれる

それに口の端だけ引き上げて笑ってやる


「隠様には、関係のない事はだとは存じますが。では、うたげの演奏がありますので失礼致します」





*************************





何とか危機を脱して宴の席に行くことができた

幾つかの曲を弾き、自分の独奏も終わって、官吏達がお酒で出来上がっているのを眺めていた今は他の子の独奏が流れている

私は暫しの休憩中だ


目立たないように壁際を通って庭に出る回廊を横切ろうとした

息をつくならやはり緑がある方がいい

そう思って回廊に出た瞬間に腕を取られる


今日は二度目だが、予期していなかった突然のことに今度は流石にポカンとしてしまった

腕を取った人物に驚いたせいもあるが



あかつき……様?」



あの夜ぶりに、その磨かれた黒曜石の瞳が私を映していた











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