10
今、私は数人の女性楽士たちと共に黙々と幾つかの曲を練習していた
それはよくあることで、宴会での曲目の練習だ
菖から話を聞いて納得したが、この世界の成り立ちとして、十二家が集まり、地脈を整えるのは年二回
しかし、普通の宴会はその二回を隠すように年に何度も行われている
誰かの誕生祝いは当たり前、昇進や季節の祝い様々な宴会を何度も行う
規模も様々で、数人しか集まらないものもあれば、数十人で大宴会が行われる事もあった
その為、楽士になれば仕事には困らない。宴会には音楽が付き物だからだ
なぜ、こんなに宴会が多いのかなぁ、とは思っていたが平和な国だしなぁくらいにしか考えてなかった
だが、木の葉を隠すなら森の中、宴会を隠すなら宴会の中なのだ
公には地脈を整えていることは知られていない。むしろ知られてはいけないだろう
異端の力というものはどこの世界でも難しい存在だ
例え、その世界の為であっても全ての人がそれを受け入れられる訳ではない
人は自分と違うモノには本能的な恐怖を抱くから
そして、私にも受け入れ難い事が迫っていた
「見事な演奏ですね」
穏やかな声と共に現れたのは卯ノ花朔、十一家の一つ卯ノ花家の跡取りだ
現在、官吏をしていて、王太子の側近であり大変優秀と宮女の間でも話題のお方……
「これは卯ノ花様!今日はどう言ったご用事でしょうか。承っていた楽曲はつつがなく仕上がっております」
直ぐ様、尚功様が出てきて丁寧に礼拝する
朔様はにこりと微笑み尚功様に何かを耳打ちした
「では」
「畏まりました。椿、残って練習を続けて。後の者は今日は解散とします」
尚功様は手際よく指示して、オホホっと部屋に朔様と私を残して出て行ってしまった
他の楽士たちも同様に楽器を片して部屋から出て行く
待って!置いてかないで!!
絶対何かあるって!嫌な予感しかしないよ!?
内心同様しながらもてに持った琵琶を落とさなかったし、喚いたりもしなかった。誰か誉めて……
情報提供者からの話で、人の良い笑みを称えた彼が人払いをしてまで、何の話をしに来たか容易に想像出来てしまって手汗が止まらない
話に聞いていただけだったが噂通り、暁や隼といった美形とは違う優しげな風貌だ。整った顔立ちだが、全体的に柔らかく落ち着いていて、大人の余裕を感じる
包容力のあるお兄さんタイプだな
にこりと優しく微笑まれ、どうぞ続けて下さいと言われた。普通なら恐縮するなり感激するところだが、私は空寒いだけだ
とりあえず、機械的に手を動かす。他の人がいないので自分の独演曲を奏でる
先ほど練習していたのも今弾いているのも、彼が宴会で弾くようにリクエストしたものだ
弾き終わると、私のそばの椅子に腰掛けた朔が微笑んだ
「本当に噂の通り、貴女は見事な腕前ですね」
「いえ、その様なことは……」
(噂って何だよ!?例の呪いなら掛けてないぞ!惑わしてもないし!)
「暁王子が惚れ込むのも無理はごさいませんね」
ブハァ!!
いきなり直球で来やがった!
内心、吐血しながらもアルカイックスマイルで乗り切る
「……見に余る光栄ですわ」
「王子の妃候補を集めていることはもうご存じですか?椿殿」
「ええ、存じ上げておりますわ。今、一番の話題ですから」
「貴女は立候補しないのですか?」
「ゴホッ…………失礼致しました。……立候補など、畏れ多くて私などでは出来ませんわ」
「私は貴女を推薦したいのです」
「は?」
思わず素で答えてしまい、口元を手で押さえた
朔は気にした様子もなく微笑みを崩すさず言う
「御実家の事で遠慮なさっているのですか?」
西安家はそれなりの家格があることは知っているだろうに、わざわざ『遠慮』と言うのにはかなり含みを感じる。嫌味ではない
だとすれば、西安家が水面下で動いている?
お妃候補の件ではなく、不正や横領の事かもしれない
菖によると椿が王太子の婚約者になったら、私の父は娘の寵愛を盾に不正を繰り返すそうだ
婚約者ではないが、王太子と噂になったことがあるので何か小さな不正でも働いたか?
「それに不都合があるなら卯ノ花家が貴女と養子縁組して推薦いたしますよ」
純粋に疑問なのだろう
朔の瞳には何故、暁との婚約を断るのかという疑問が見える
だが、私からすればそんなもの受けると思う方が疑問だ
「私は真実、望まれてもいないのに寵愛を頂こうと思うほど厚かましくはございません」
見つめ返した瞳はもう笑ってはいなかった
「……王子が真実、望まれているとしてもですか?」
「それはあり得ません」
朔は何故か苦く笑った
***********************************
先日の事があるので卯ノ花朔が開く宴会には行きたくなかったが、これも仕事なので内心鬱々と外朝を楽師たちと進んだ
今日の宴は朔が所属している尚書省【兵部、工部等の六部を統括する機関】の官吏を労う為のものだそうだ
粛々と回廊を進んでいると、前方から人が歩いてくるのが見えた
その人物を見て、心の中で微笑む朔の顔に八つ当たりする
あちらも私を見止めて驚きに顔を歪めた
嵐のような初対面からやっと顔を合わせる
東郷春がこちらを凝視していた




