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神様の宴  作者: 大山椒魚
11/13

9  ‐追憶‐

評価、ブックマーク等、本当にありがとうございます。

この話では、暴力的、不愉快な表現が含まれているかもしれません。苦手な方は次話にお進みください。どうぞよろしくお願いいたします。





どこかで聞いた

人は生まれ変わっても、もう一度同じ人生を歩みたいと思えたら


幸せな人生だった、ってことなんだって



バカみたい

私は、絶対に同じ人生は嫌だ



髪を解いて、楽な夜着に身を包んで完全なリラックス体制に入る。寝る前なのでお茶でなく白湯を飲んで体を温めた。おもむろに机の小箱に入れて置いた紙でできた小さな包みを弄んだ

それは、巳波医師みなみせんせいから定期的に貰っている薬だ


これを飲み始めたのは、後宮に入って一年ほど経った頃だろうか?

急に倒れてしばらく寝込んだ。疲れが出ただけだろうと、いいと言ったのに暁が医者を呼んでくれた

診断は神経の乱れだといわれた

元々体質的に弱いのだそうだ

巳波医師みなみせんせいは安心させるように笑った


「成長期に現れる症状だね。身体が大人になりきれば心配はない。それまで日常生活に支障が出ないように薬を出そう……そんな顔をすることはないよ。気楽に過ごしなさい」


でも、記憶の奥底から甦る感覚

前世で味わった感覚とよく似たこの違和感を無視することは出来なかった

日本と全く違うこの世界に転生して何かが変わると思った


熱で倒れるまで


また、繰り返してしまうのか?


私は前世の望洋とした記憶をなぞった





生まれたのは日本

極普通の家庭で、普通に大きくなったつもりだった


異変は体調の変化

小さな体の不調が目立つようになり、中学に上がる頃にはよく休みがちになった

耳鳴りがする、眠れない、眠れたとしても眠りが浅い

頭痛がする、目眩がする、体が軋む


私は日常を保つため、普通に生きる自分を保つためにアル事を記憶から、意識から排除していた


それに目を背けながら、希望の大学まではなんとか進んだ

家も直ぐに出た

しかし、その学業もままならないほどに体が悲鳴をあげていた

過去の恐怖と苦痛はいつまでも私を(さいな)んだ


目をそらしていた事実からもう、逃げなくてすむように

私は母に打ち明けた


実の父から虐待を受けていた事を


いつもは優しい父親

しかし、人の目のない所では容赦ない暴力があった

必ず、目に付くところに跡は残さない

大事にならない程度に、苦痛だけを刻み込む


母の前では優しい父親を演じていた

母は知らない


でも、私の精神と肉体が限界だった

理解されたかったのか解放されたかったのか、私は涙ながらに母に訴えた

今まで怖くて言えなかった事、しかし、もう限界だということを


母は瞳に涙を溜めて微笑んだ


「ごめんなさい。今まで本当に辛かったでしょう。気づいてあげられなくてごめんなさい。もう、一人で悩まなくていいのよ。何かあったら私に話してちょうだい」



理解してもらえた

そう、思っていた


用事で実家に戻らなくては行けないとき、たまにしか帰ってこない私を連れてよく食事に行っていた

しかし、もう行かなくてもいいのだ

同じ空間にいることも辛い、そう母に話してあったから


足早に帰ろうとする私を引き留めて母は微笑んだ


「せっかくだからご飯くらい食べに行きましょう?」


微笑む母の後ろには父がいた

いつものように、優しい父親の顔で


その後は、どうやって帰っただろう

青くなる私に、母はキョトンとした顔で首を傾げていたのは覚えている


食事は拒否して家に帰り

泣きながら電話をしたかもしれない


何故、あんなことをしたか、母を責めた

しかし、逆に何故駄目だったか問われた

責めるうちに、母は言った


「そんなこと今さら責めないで。よくわからなかったんだからしょうがないでしょう?いつまでも終わったことをぐちゃぐちゃ言わないで」


母が何を言っているか、よくわからなかった

今思うのは、母は全てを無かったことにしたのだ

何の変わりもない極普通の毎日を送るために、父と私の間にあった事を無かったことに、見なかった事にしたのだ


実家と連絡を取らなくなってしばらくは体調が悪化し続けた

病名は自律神経失調症


神経が長年の(いちじる)しいストレスでボロボロになったのだ

なんとかバイトをして治療をしていた時だった


車のライトが眩しかった


それを最後に記憶がない


そして、椿として転生した

五歳で目覚めて、これが今の現実なのだと言い聞かせ、前世の記憶はセピア色の過去になった


しかし、暴力という力は相変わらず怖かった本能的な恐怖だ


でも、ある程度名家の生まれな私はそんな野蛮な事とは程遠い

今の家族は私に興味が無いのか、最低限の関わりしかない。後宮で王太子に気に入られているという噂が届いたのか、最初こそしつこく官位がどうの王太子に取り次げだのと煩かったが、徹底して突っぱねていたせいか最近では特に何も言ってこない

平穏な生活は気に入っている


しかし、椿としての身体は元々か弱かったようだ


前世と似た症状


でも、薬を飲めばそれも意識しない程度に和らぐし、身体が成長したこともあり最近は調子もいい

だらしなく寝台に寝そべり、心地よく微睡む


そんな時は初めて熱を出した時のことを思い出す




熱に微睡む意識がボヤける

喉が渇いて目を覚ましたようだ


水を探して手をさ迷わせた

するとその手を暖かいものが包み込む


「椿、大丈夫か?」


視線を上げれば、そこには心配そうに眉根を寄せた暁の顔があった

ボーッとしなから、ムカつくくらい整いすぎている顔をじっと見詰めて呟く


「……みず」

「水がほしいのか?」


小さくうなずいて見せれば、寝台のそばにあった水差しの吸い口を口元に持って来てくれる

頭をたどたどしい手付きで支えられて、冷たい水を喉に流し込んでくれた


吸い口から口を放して頭を元の位置に戻される

ああ、私、今一国の王太子を顎で使ってしまったのか?

ヤバイかな?


まぁ、いっか

今は儚くてか弱い病人だ


他の人の気配はない

ゆっくり息をついていると額に手のひらがのせられた


「……だいぶ、熱は下がってきたな」


暁の手のひらの温度が少し冷たくて気持ち良かった

だから、意識もうとうとしてくる


霞む意識の中で、黒曜石のような瞳を見上げてありがとうと言ったつもりだったが、届いたのかは定かではない







転生して、何かが変わるかと思った

でも、違う


変わりたいなら、今、ここから

私自身が変わらなくては


もう繰り返さない

もう過去には戻らない

私はここで幸せをつかめばいい










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