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ホワイト-white-  作者: サクラダファミリア
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ホワイト11


 二音が丁寧に答える。バスケ部で身につけた「先輩への接し方」を存分に生かした。

 しばらくしてからあんは、深くため息を吐いてから話し始めた。

「あの事故のことは、思い出したくないの。だから帰って。お願いだから帰って。」

 そう言われたら帰るしかないか。と思ってたら莉亜が口を開いた。

「あの事故から1年がたった今も、また新しく殺人が起きようとしてるのよ。こっちにはもう、殺人予告まで来てるんだよ。なんか手がかりが出ればそれだけで1人の命が救えるかもしれないんだよ。お願い・・・教えて・・・」

「その殺人予告みたいなものに関しては後で話すとしても少しだけでもいいんです。お願いします。」

 莉亜が頭を下げていたので二音もとりあえず下げた。それを見て泉と晴も頭を下げる。しかしのんは下げない。ことの張本人が下げることではないだろう。

 するとそれを見ていたあんが顔を上げた。

 上げたというのは下から正面に戻ったのではなく、正面から青く美しいまるでブルースカイのような空へと顔を上げた。

 その姿は確かに泣いているようでもあった。あんの横顔をきれいな曲線を描きながら涙が滴れていく。

 しばらくしてから顔を正面に戻した。

「こんなところでは話せない。私の家についてきて。」

 まつげは涙で濡れたためきらきら輝いていた。その姿が、その瞳が神秘的だった。

 二音が頷いた。タイミングが泉とかぶった。

 それを見て少しあんが微笑む。

 

 あんの家は小さく一階建てであった。屋根は瓦でかなり古い家だ。玄関にはたくさんの花が植えられていてきれいな玄関に仕上がっていた。

 その花の中に青く綺麗な花が4本ほど咲いていた。

 間違いない。ブルースカイだ。その隣には白く美しいユークリッドという花も咲いていた。

 みんなでお邪魔します、と言って中に入った。

 お爺さんとお婆さんがお出迎えてくれた。

「あら、お友達かい。」

 お婆ちゃんがゆっくりと落ちついた声で尋ねた。

「いや、ちょっとね。」

 あんが曖昧に誤魔化して中へと入る。それに続いて僕達も入る。5人も入たから玄関の靴も賑わっていた。

「奥の左の方の私の部屋へどうぞ。ちょっと散らかっているけど気にしないで。」

 扉を開けた。

 驚いた。

 気にするところは部屋が散らかっているとかそういう問題ではなかった。というか別に散らかってもいなかった。

 驚いたのは部屋の色だ。辺り1面が情熱色だ。よくここまでもしたものだ。壁の色も机の色も掛け布団の色も全てだ。

 綺麗といえば綺麗だが気味が悪いといわれれば気味が悪い。

「何でこの色だ好きなの? さっきから全部この色なんだけどさ。」 

 泉もよほど気になったのかつい聞いてしまったみたいだ。

「この色嫌い? ならば事情話すけど、そうじゃないならいいでしょ。」

 すみませんと泉は引き下がる。こんなに強い口調で言われたらさすがに断るしかないだろう。

 そのトガトガした言い方で鋭く尋ねてくる。

「あなた達用があるならさっさと言って帰ってくれない?さっきから言っているように私は受験生なの。もっと言うとあなた達、邪魔なんですけど。」

 すごいことを言ってくる。いつからこんな感じなのだろうか。中3の頃もこんな感じだったのだろうか。

 いや、違うだろう。泉も莉亜も明らかにこれまでに見たことないくらいに驚いている。きっとあんの異常な変わりようにビックリしてるのだろう。晴なんか、ここに着てから1言もしゃべってない。

「じゃあ、本題に入りましょう。と、その前にまずは僕の能力から話します。」

 ここから二音はざっと『予告』について話した。

 最初はあんは信じていなかった。でも、ネットの情報や晴もそれによって助けられたなど話したら意外とあっさり信じた。

「私が行ったときには少し遅かったけどね。」

「そういうことだったのね。なんで香苗が殺される日に莉亜がわざわざうちに来るんだろうって考えたら分からなくて。なるほど。」

 二音の知らないうちにこんなことがあったんだなと改めて感心する。

「本当のことを言うとね、多分香苗ちゃんが殺される予告もね、誰かに流れたはずなんだよ。でもその人も知らない人だからいいと思ったのかもしれないね。」

 そういうと悲しそうにあんは下を向いた。

 なんか悪いことをしたような気分だ。

 多分悪いことはしてないのに。

「じゃあ、私も本当のことを言うね。実はこの事件の犯人は私の母親ってことになっているみたいなんだ。何でかは分からないけれど絶対に違うと願っている。そのせいで私の父は自殺しちゃったし・・・」

 不意に頭の中を横切った。昨日、新聞で読んだこと、秦の殺人事件の犯人としてはのんの父が怪しまれ、そのショックでのんの母は自殺した。

 これとほとんど同じだ。

 そうなると犯人の怪しい狙いがますます分からなくなる。

 のんも何かを感じたみたいだ。下を見つめていた目が閉じる。髪が垂れかかって目に覆いかぶさる。

「どうしたのそんなに黙っちゃって。」

 こういう時に空気の読めない泉が言う。二音はなんでもないよと濁す。

 しばらく無言が続く。泉が何か言おうとしたときにちょうどのんがゆっくりと聞き取りにくい声で何か呟いた。

「僕の両親もそんな感じで死んだんだ。父が理由もなく捕まって母は自殺した。残された僕は認知症で狂った祖母と一緒だ。これまでに何度も殴られた・・・・」

 これはさすがのあんも驚く。

 その後まだ続けて何かいってたようだが何といったかは分からない。きっと、あの祖母は何て言っているんだろう的なことだ。

「その分だと私の方がまだ軽いのかな。」

 ため息と同時に独り言のような声で言う。こんなに軽いという言葉に重みを感じたのは初めてだろう。なんだかのんも悪いことをしたというような風に目をぱちぱちさせている。

「じゃあ事故のことに関してはほとんど何も知らないということですか。」

 丁寧に二音が聞く。こういうところで大事な質問をしちゃうというというのも立派な「空気が読めない」に入るのかな。

 ただその事は重々分かっているのだけど、どうしても今聞いておきたかった。

 前に心理的な本を読んだときに「重要なことは相手が1番動揺しているときに聞く」と書いてあった。なんとなくこの言葉も、あのくじの言葉を保管している脳の部分に一緒に保管しておいた。

 ―案外その言葉も正しかったかもしれない。

「いや、知ってます。2回警察が妹の部屋を捜したあとだったんですけど、あのあと、妹の机の中から1つのノートが出てきました。あっ、このことは警察とかには言わないでくださいね。そのノートにそうやって書かれていたので。」

 泉が近くにあったやはり情熱色のテーブルの上に手を置いた。気持ち良さそうにテーブルと泉の手が擦れた音が響いた。でも二音やのんはその音に気づかなかっただろう。

 別に泉が何かしたとかそういうわけではない。ただ確実に泉の指紋がテーブルに付着した。

 どうせこんな感じだったんだろう。

 こんな感じだったんだ。

 

       *****

ぴゅうぅぅーードーン!

 今年もまた花火が上がった。

 赤とオレンジが混ざったような色―情熱色だ。

 情熱色。

 不思議な色だ。不思議な名前だ。

 分かりやすく例えるのも難しいだろう。しいて言うならオレンジ色として売られているマーカーのような色だ。

 夕暮れ時に見られるあの綺麗な色をした太陽のような色だ。

 昨年に続き今年も微妙な色だなと思った。いや、この色もある意味美しいかもしれない。好きな花火の色では上位にランクインするかもしれない。

 それでもやはり1位は譲れない。1位はやはり、白だろう。暗い夜空に打ち上げられたまるで白黒テレビでも見ているかのような景色だった。

 あの花火が上がってから1年も経ったのか。

 泉はそんなことを考えながら花火を見上げていた。

 でも今年は何か昨年までとは違う感覚で花火を眺めている。なんか心がどきどきする。

 どくどくとは緊張してとかそういう意味じゃなくて確かに今この瞬間何かが起きたような感覚だった。

 なんか苦しい。

 無性に苦しい

 もう駄目だ。限界だ。

 泉は当てもなく暗い闇の中へ駆け出していった。何かから逃げるみたいに。街灯も自分のことなど照らしてもくれない。辺りが全く見えない。

 いっそつまずいて倒れてほしかった。なのにこういうときに限ってなぜか転ばない。

 2発目が上がった。

 何色だったんだろう。見ていなかった。

 いや、花火じゃないものに注目しちゃっていた。

 見慣れない家から出てくる男の人に。

 自分は照らされない街灯に照らされている、どこかで見たことがあるような人だった。

 このとき泉は何も考えてなかったのかもしれない。

 だって未だに思い出せないんだもん。

 泉はその家の中に吸い込まれるように入っていった。

 じゃりじゃりと音を鳴らしながらその家の奥へ奥へと入っていってしまった。

 何かに操られているみたいに。

ぴゅうぅぅーードーン!

 3発目が上がった。

 その花火の明かりで辺りが1瞬見えた。ほんの1瞬。

 そしてほんの1瞬やっと街灯にまでも照らされることのなかった自分が照らされた。

 その光景を1言で言うと綺麗だった。

 神秘的だった。

 泉はそこから逃げた。なんかそこにいてはいけない気がしたのだ。実際そこにいてはいけなかった。


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