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Vol.48:バック・イン・ザ・デイ(3)

―MYMIMI:2011―

 商談を終えて座間須が退店し、席にはミミミとシドのふたりだけになった。ミミミが携帯で望月鳴子について調べ始めたのでシドは隣からその画面を覗き込む。フリーのインターネット事典によると望月は座間須が言っていた通り男性の少女漫画家で、活動期間は1990年から1997年との事だ。年齢は不詳で、記事には他に作品リストが書かれているぐらいでその他の情報は無い。しかもその作品も、全ての物に対して記事が作られている訳ではなかった。続いてネットショップを見てみると『サイカ』以外の作品なら少しくらいは売られている様であった。

「なるほど……確かに知名度は低そうだ……で、一体どうやって探し出すんだよ」

「やる事は至ってシンプルだよ。見せてやるよ、超☆美少女ブックハンターミミミちゃんの超一流のブックハントって奴をね」

 彼女は携帯を操作して耳にあてる。数秒後、電話が繋がったらしく相手と話し始めた。

「あ、もしもし? ご無沙汰だね、ボクだよボク……え? 誰って? 超☆美少女ブックハンターJCミミミだよ……は? そんな奴知らない? 何冗談言ってんのさ、こないだ一緒に仕事したじゃん……いやだから! 先月! 情報提供求めたミミミちゃんだよ! 知らない訳無いでしょ! ……あっちょっと待って! き、切らないで! メールを確認してよ! こないだやり取りしたでしょ! また情報を……!」

 ミミミの言葉は途中で止まった。一方的に通話を切られてしまった様だ。彼女は咳払いをして文句を言う。

「……ふん、根暗野郎め。日がな一日パソコンでもいじってろ陰キャ」

「誰に電話したんだ?」

「情報屋。色々と通なマニアってのがいるんだよ。本に関する情報を教えてくれたりさ。けど今の奴は駄目だね、見損なったよ。もう二度と依頼はしないね。さてと、気を取り直して次の奴っと……」

 ミミミは再び携帯をタップする。

「……あ、お忙しい所失礼致します。MIT様のお電話でよろしかったでしょうか。(わたくし)以前情報提供のご依頼をさせて頂きました、ブックハンターのミミミと申しますが……」

 めちゃめちゃ腰低くなってて草。

「……え? 今忙しい? いや~MITさんは扱ってる情報のジャンルが多いですからね~、皆さんよく頼りにするのもわかりますよ~……あのですね、大変恐縮なのですが、(わたくし)からも……あっ、おっ、お待ち下さいMITさん、いやMIT様!! ……構ってる暇は無い? そこを何とか……! ……もっと一流のハンターになってから出直してこい? ボクのどこが三流……あっ!!」

 最後に少しだけ声が上擦った。また切られたのだ。彼女は店内に響き渡るくらいの大きな舌打ちをする。

「……ちっ! クソが」

「……」

 そのまま三人目。

「…………………………あっ、えっと、もしもし? ! ……けっ! ゴミ情報屋が」

 今度は一瞬で切られてしまったらしい。

「……………………」

 四人目に至ってはいつまで経っても繋がらないという有り様だった。「この時間は間違い無く繋がるはずなのに……」とぼそりとミミミが呟いていた。

「凄いな、これが超一流のブックハントって奴か」

 からかう様にシドは言った。一方ミミミは携帯を見つめてわなわなと震えている。

「……ねえ、シド君」

「何だ」

「バットか何か無いかな」

「何に使うんだ?」

「人の頭を叩いてスカッとしたい」

「純度100%の暴力的思考だな」

「……ふっ、ふふふふっ…………!」

 しかし突然彼女は不気味に笑い始める。

「ふふふふはははははは! だが一流ブックハンターのボクに抜かりはない! こういう時のために君を手中に収めていたのだよ!」

「どういう事だよ」

「誰にも相手にされ……ごほんごほんっ! 誰も役に立たないんなら己の力で成し遂げるのみ! ……って事でまずは今から君ん家の店に連れてって」

「……ウチの店で探すってか」

 見てられないから連れて行ってやる事にした。


 ブックハントの大半は情報収集。知り合いの古書店や更にその(つて)を使ってひたすらに本の在り処を探し出す。時には同業者にも情報を求めるほどだ。ミミミがこの仕事を始めたのはおよそ二年半前との事で、まだまだ人脈が少ないというのがぽろっと漏らした彼女の本音だった。シドの家が古書店だと知り人脈に組み込もうと企んだしい。フリーランスは大変だ。

「へ~、いい感じじゃん」

 古詠堂書館に足を踏み入れた彼女の第一声である。自分の家の店を誉められてシドは悪い気はしなかった。

「漫画とかはそんなに置いてないけどな」

「まあまあ、見てみない分には。自分の足で行って自分の目で確かめる、これブックハントの基本ね。はい、今のとこテストに出るから」

「何のテストだよ」

「お、お帰り……何じゃ、友達か?」

 カウンターの後ろにはシドの祖父ライゾウが座っていた。彼にミミミを紹介し、ここに連れてきた理由を説明した後漫画が置かれている棚に案内した。ミミミは食い入る様に背表紙を見ていくが、やがて姿勢を戻す。

「……ま、そんなにすぐに見付かるもんじゃないわね」

「倉庫も見てやるよ……じいちゃん」

 シドはライゾウに呼びかけ、探している漫画が倉庫に置かれていないかパソコンで検索してもらう事にした。

「ふうむ……すまんが無いのう」

「……だそうだ、悪いな、力になってやれなくて」

「まだ1軒目だし。神保町(ここ)にはまだまだ古書店があるからね。コネ作りがてら見て回るよ」

「まあその通りだな。この町で見付かると早いんだけどな」

 座間須がとっくにチェックしているのかもしれないが、タイミングという物も十分にある。ま、頑張ってくれ、とひらひらと彼は別れのあいさつとして手を振った。しかしその手をミミミはぐいっと強引に引っ張った。

「じゃあ次行こうか」

「…………何を言っているのかさっぱりわからないな」

「お詫びに手伝うって言ったよね」

「もう手伝ったじゃねーか。ウチには無い。以上。終わり」

「いやいや全然ハント終わってねーから。同じ商店会員の血縁の君がいた方が他の店主に話を通しやすい。この超☆美少女ブックハンターのボクの名を広めるのに一役買ってくれ。ありがとう」

「まだ何も答えてないけど!」

 結局ブックハントにまだ付き合わされる事になってしまった。しようがないので彼女に神保町を案内しながら漫画を中心に扱っている店にひとまず足を運んだ。林田(はやしだ)漫画堂だ。あるとしたらこの店が一番可能性が高い……のだが。

「こっちは無かったぞ」

「こっちもあいにく」

 店内を隈無く見て回ったがターゲットは売られていなかった。その後店を出る前にミミミにせがまれたため、ほぼ強制的に店主の林田に彼女を紹介する事になった。

「ほう、ブックハンター」

「そそ、これから頼るかもだからよろしくね林田のじいちゃん」

「はは、可愛らしいせどり屋だの」

「うん、知ってる♡」

「……少女漫画か……そういう事なら、ウチにちょくちょく来てくれるお得意さんがいるんじゃが、ちょっと知らんか聞いてみるかの」

「えっ、ほんと?」

「ちょっと待っとくれ」

 思わぬ展開だ。林田は得意客に電話をかけてくれ、ミミミの事、『サイカ』の事を話し始めた。

「あー、そうですか。すいませんねえ、お手数おかけします……はい、よろしくお願いします」

「……その人は何て?」

「残念ながら向こうさんもその何ちゃらとかいう作品は知らんとの事じゃよ」

「そっかあ」

 と残念そうな声を出すミミミだが、元より期待はしていなかった様に見えた。

「けど、知り合いに大量の少女漫画を抱えとる人がいるらしくての、ちょうど処分するだの話をしとったらしいから、その知り合いとやらに連絡を取ってもらう事にしといたよ」

「! マジで? 助かるよ」

 人脈が人脈を作っていく。こうして少しずつでも確かな情報を見付け、地道に目的の本へと繋げていくのがブックハントという事なのか。

 それから神保町中の古書店を練り歩いたが、残念ながらこの町では収穫は無いのであった。

この頃のミミミはまだバットを持ってないです。

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