表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/57

Vol.41

-コロンシリーズ再び(22)-

「ご気分はどうですか?」

 ユウコは新宿にあるとある医療施設を訪れていた。一般人にも利用されている病院だが、暦史書管理機構関係者が運営に携わっており、任務によって負傷した異能処理班員などの治療を行う場所として指定されている場所のひとつだ。

「悪くはないです。よくもないですが……」

 彼女の目の前のベッドには男がひとり、上半身を起こしている。

「……しようがありませんよ。まだ起きて間も無いのですから」

「……いえ、きっとそうじゃありません。自分が情けないんです」

「そうご自身を責められないで下さい。こうなったのは私達上層部の落ち度なのですから……こちらこそ、申し訳ございませんでした」

「あ、ああいえそんな……頭を上げて下さい」

「……とにかく、今はゆっくりお休みになって下さい」

 その時ユウコの従者の女性が持っていた携帯電話が着信を告げた。彼女は通話を始めた少し後、ユウコへとそれを渡してくる。

「ユウコ様、風見さんからお電話です」

「? 風見さんから? いい報告でしょうか……」

 通話を代わり、ユウコは風見から現在の状況を知らされる。

「……わかりました。では……そうですね……こちらの人間は既に大手町付近で待機していますので……新宿との間を取って……四谷……四谷はいかがでしょう……ええ、引き渡し場所の情報はこれからメールでお送り致します……皆さんにですか? …………わかりました。それから何とか人員を確保し応援に向かわせます」

 通話を終えると彼女は浅く息を吐き、緩んでいた口元をきゅっと締めた。ここが正念場だ、そう感じていた。

「……やはり敵は一筋縄ではいきませんか」

「はい。風見さん達はもうこの辺りまで来ているとの事です。ですが敵のハンターに追われ、本を持って逃げているとの事でした……すみません、それでは私は行かなくてはいけません。すぐに人を募らなければなりませんので……」

「ひとりはここにいますよ」

 男は体を動かしベッドから下りようとする。それを見てユウコは制止した。

「! それはいけません。まだ目を覚ましたばかりではないですか。精密検査も行っていませんし……」

「お願いです。ひとりだけここで寝ている訳にはいきません」

「しかし……」

「行かせて下さいユウコ様。これは処理班員としてのプライドの問題なんです」

 決意のこもった彼の目を見て、ユウコは頷く以外に出来なかった。

「……わかりました、そこまで仰るのなら……皆さんの携帯にはあなた方と同様、位置情報を発信するアプリを予め入れてあります。今から皆さんの端末の情報をそちらの携帯に送りますので確認なさって下さい」

「わかりました」

「……くれぐれも、無理をなさらないで下さいね」

「そいつは出来ない相談です。今無理しないで、いつ無理をしろって言うんですか」

「……はあ……では、訂正します。十二使徒がひとつ、日本のアーカイヴを守る有栖川の人間として命じます。無理をしてでも必ずコロンシリーズを持ち帰って下さい。それが暦史書管理機構異能処理班員であるあなたの使命です……ヤンさん」

「了解した」

 ヤンはジャケットを肩にかけ病室を後にした。


 彼はその後、すぐに仲間の現在位置を確認した。優先すべきは本を持っている人間だ。ユウコから送られてきた情報によるとあの生意気なサイドテールの娘とその友人の眼鏡の少年がそれぞれ持っているとの事だったが、動きを見る限り少年の方は追跡を逃れたらしい。という事は必然的に娘の方へ向かわなければならない。

「……ここにいるのか……?」

 ミミミという少女はとある廃校の敷地内にある古い木造校舎の中にいた。今にも崩れそうなぼろぼろの校舎だ。彼女はおそらく今この中で敵のハンターと接触をしている。

 待ってろ、今助けに行く……そう思って校舎内に入った時、二階から誰かが階段を軋ませながら降りてくるのがわかった。彼は急いで身を隠し、様子を窺う……ミミミじゃない。敵のひとり、ジェイクという男だ。

「! あれは……!」

 しまった。手にはコロンシリーズを持っている。遅かった。既に奪われた後だったか……!

 奇襲をかけようとも考えたが今はミミミの様子を見に行くのが先決だと思い、ジェイクが去った後に彼は急いで二階へと向かった。するとある教室の中にぼろぼろになった彼女を発見する。

「! おい! 大丈夫か!」

「……」

 返事は無い。しかし呼吸はしている。生きてはいる様だ。

「……酷いありさまだ……オイラがしっかりしていれば、こんな事にはならなかったかもしれないのに……!」

 彼女を抱えようとしたタイミングで突然大きな音を立て天井が崩落し始めた。彼はとっさに腰に下げていたドリンクボトルのキャップを弾き開け、中に入れていた水の心を操作してシャボン玉を作り自分とミミミとを覆った。

「うおおおおおおおおお!」


 校舎は完全に崩壊した。しかしシャボンの結界のお陰で助かったヤンはそれを破裂させ積み重なる木片を弾き飛ばす事に成功し、校外へ脱出をすると待機させていた車までミミミを連れ込んだ。医療施設から移動手段として借りてきた物で、簡単な応急処置なら出来る様になっていた。加えて車内にはドライバー以外にひとり医療職員を連れてきている。

「……う……」

 ベッドに寝かせたミミミは苦しそうに声を出した。体中が傷と痣だらけになっている。

「喋るな。お前を助けに来た。もう大丈夫だ。あとはオイラに任せろ」

「……が……」

「何だ?」

「……本……が……本が持って行かれた……!」

「心配するな。オイラが取り返してやる」

「……な、何か薬……無いの……? め、めっちゃ効く奴とかさ……」

「今さっき強力な鎮痛剤を打っておいた。しばらくの間痛みは引くだろう。諜報部御用達の特性薬だ。すぐに効果が出てくるぞ」

「……よ、よし、でかした、デブ……!」

 そう言ってミミミは体を起こそうとするが、関節が痛んだのかすぐにまた横になった。

「無茶をするな。休んでいろ。そんな小さい体でよく頑張ったよ」

「よく……頑張った(・・・・)? 何勝手に終わらせてるんだよ……! まだハントは終わってない……!」

「ああそうだ。だからオイラが何とかしてみせる」

「……へっ……始まる前からリタイアした奴にそんな事言われたくないね……!」

「うっ……! そ、それは済まなかった……だからここで名誉を挽回させてくれ」

「上等……! だったら手伝ってよ、あのおっさんぶん殴るの……!」

「だから無茶だ。そんな状態でお前をまた出す訳にはいかない」

「今無茶しないでいつ無茶するってんだよ……!」

「!」

 彼女の言葉を聞いて彼ははっとした。ほんの少し前に彼自身がユウコに放った物と全く同じだったからだ。

「ナメるんじゃないよ……最後のページを捲るまでやってやるさ……! 小説っつーのはこっから最後のどんでん返しに持ってくもんでしょ……?」

「……そうか……」

 ミミミの熱意にヤンは負けた。

「わかった。お前がそこまで言うなら……そうだな、お前もプロ……オイラと一緒だもんな」

「は? ぜんっぜん()げーしどこをどう見たらそう見えるんだよセクハラで訴えるぞデブ」

「すまん」

「……確かに、痛みは和らいできたかも……」

 今度こそ彼女は体を起こした。ある程度は動かせる様である。

「だがあくまでも一時的に感じなくなるだけだ。2時間も経たない内に戻ってくるぞ」

「2時間……? じゃあそれまでに終わらせればいいって事ね……! ……ねえ、欲しい物があるんだけど」

「何だ? ……そうだ、諜報部員が任務の時に身に付けている耐衝撃ジャケットを貸そう。念の為持って来てるんだ。薄さの割にはある程度の衝撃なら緩和してくれる優れ物だ。服の下に着ておくといい」

「マジ? サンキュー……んで、話を戻すけどあの眼鏡(バカ)が自分から漏らしちゃったからおっさんは今頃もう1冊を手に入れるために四谷に向かってるはずだ。でも少しは時間がかかるはず。だからその間にさっさと探しに行きたいんだけど」


 そして時は流れ、四谷。某立体駐車場屋上。

「大丈夫か? ……いやどう見ても大丈夫じゃないな……とにかく意識があってよかった。立てるか?」

 倒れていたシドはヤンによって起こされた。その姿を見て彼は目を疑う。

「……ヤ……ヤンさん……? ほ、本物……!?」

「ああ本物だよ……まあお前の気持ちはわかるが……」

 駐車場の端で一服しながら通話をしているジェイクを黙ったまま見つめるミミミの後ろ姿もあった。ジェイクはまだふたりの到着に気付いていない様である。

「あっ……そうだ、和田さん……! 機構の人がそこであのおっさんに気絶させられて……!」

「ああ、彼女はあそこだ」

 ヤンは一台の車を示す。その側に意識を失った和田がもたれていた。彼があそこまで抱えていったのだろう。

「……んっ……!」

 ミミミが突然振り返って付けていたヘアゴムを差し出してきた。背中まで垂れる彼女の長い黒髪は風になびいている。

「ん」

「……な、何だよ」

「持ってて」

「は? 何で」

「……いいから持ってて」

「……あ、ああ……?」

「さてと……デブ、プリーズ」

「デブって言うな……ほら」

 ふたりはここに来る前に何やら色々と買い物をしてきた様である。ほとんどがペンギンのマスコットキャラで有名なディスカウント・ストアのレジ袋に入っている。ヤンはその中のひとつから何かを引っ張り出してミミミへと投げ渡す。

「サンキュー……あ~、これでボクの超絶美少女度が0.0000000000000000001%下がっちゃうよ」

 わざとらしく嘆きながら彼女が頭に被ったのは……野球用のヘルメットだった。

「……な、何するつもりだよ……」

「にひひ」

 ミミミは続けてバットを握る。いつもの、シドがかつて百円ショップで買ってやった物ではない。それは変わらず彼女の背中にある。それとは別の……新品の金属バットだ。

「鬼に()金棒てね」

「お、お前まさか……!」

「さあて、んじゃ始めますか……鬼退治」


Vol.41:ブリング・イット・オン!

次回、ミミミ対ジェイク、ファイナル・ラウンド。ここから本当にクライマックスです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ