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Vol.36:トーキョー・エスケイプ(2)

-コロンシリーズ再び(17)-

「奴等下に飛び降りたよ!」

「ちっ、その手があったか……追うぞ」

 ジェイク達はミミミ達が残していった車まで駆け寄り、彼女らと同じ様にルーフに乗った。

「エル」

「はいはい……はあ~あ、ジェイクさんに抱えられるなんて乙女としてショックっスよ」

「悪かったな」

 そんなやり取りをしながらジェイクはエルシィを抱きかかえるとバネ代わりにしたハリセンを踏み、甲州街道へと飛び降りる。落下途中でカヴァーを展開し、そのまま地面をずしんと穿って着地した所に急ブレーキをかけた車が衝突寸前で停止した。運転席の窓から中年の男が顔を出し怒鳴ってくる。

「バッ! バカヤロー! 何やってんだよ! 危ねーだろうが!! 俺を人殺しにするつもりか!!」

「……その車借りるぞ」

「……はあ?」

「降りてた方がいいっスよ、潰されたくないなら」

「お、おいおいおい……何してんだよこら!」

 車から降りてきた運転手を横目にふたりは今度は彼の車のルーフへとよじ登る。

「何してんだっつってんだよ! ふざけんなこら! 警察呼ぶぞ!」

「……はい、どうぞジェイクさん」

 エルシィが心を操作し、ミミミ達のワンボックスカー上に置いてきたハリセンを自分達の目の前まで下ろすと再びそれを車上に置いた。ジェイクは先程と同じ要領で上空へと高く跳ね首都高速へ戻り、ハリセンを受け取って今度はキースを背負って落ちてきた。男が乗っていた車は着地の衝撃でべこんとプレスにかけられ半分ほどの大きさまで潰れてしまった。

「大切な武器を踏み付けるんで、これあんまりやりたくないんスけどねえ」

 もう一度手元に引き寄せたハリセンの手入れをしながらエルシィがぶつぶつと言った。

「あっ……! あ……あ……!」

 三人がその場を去る中、路上に立ち尽くす運転手の男は金魚の様に口をぱくぱくとしながら変わり果てた自家用車の姿を呆然と眺めているのだった。


「何つー力技で下りてきてんだ……!」

「お、追ってきますよ!」

 ジェイク達の様子を見ていたミミミ達は慌てて逃走を再開する。この甲州街道に沿って行けばいずれは目的地である大手町に辿り着く事が出来る。だが距離にして八キロメートル以上。走り続けるには無理がある長さだ。

「で、電車に乗りましょう! じゃないと無理っす!」

「それは駄目だ! 駅まで行ったら一般人を巻き込む可能性がある! そもそもタイミングよく電車が来るとも限らねえし、結局あいつらも同じ電車に乗ってきたらもっとやべえ! 密室だぞ!」

「じゃ、じゃあタクシー拾いましょう!」

「車も信号待ちがあるよ。結局さっきと同じ状況になるんじゃない?」

「ば、万策尽きたあああああああ!」

「尽きてねえよ! まだ抵抗は出来る! 本を持ってるのは少年とミミミの嬢ちゃんだ。ふたりを上手く逃がせさえすればこっちの勝ちだ! ……いや勝ちの可能性が大きくなる! そのためには奴等をバラけさせる必要がある。いいか? 奴等は俺達4人の中で誰がコロンシリーズを持ってるのかがわからねえんだ。って事は俺達が分かれたら、奴等も分かれざるを得ないはずだ」

「じゃ、じゃあ今ここで本を2冊とも風見さんに渡すんで、そっから全員が別方向に逃げれば……こっちは4人で向こうは3人。運がよければ誰にも追跡される事無く本を持っていけるかも……!」

「アホか。奴等の目の前で本を渡すのを見せたら前提が崩れるじゃん」

「あっ! 確かにそうだ……!」

「まず風見が別れる……おそらくひとりはそっちに付いていくはずだ。その後、残ったふたりを私が食い止める……でミミミと眼鏡は本を持って駅に行け。それしか無いだろう」

「……にしてもやっぱり大手町は遠いな。有栖川嬢に相談してみるか」

 風見はそう言うと携帯を取り出しユウコの番号へ電話をかけ始めた。

「有栖川嬢! すまんが予定を変更させてくれ! こっちは今新宿辺りなんだが、おそらくあんたが言ってた戦線とやらの妨害を受けて敵ハンターに追われてる! 車は捨てた! そこで相談なんだが、大手町は遠過ぎる! 場所をもう少し近付けてくれないか? 敵ハンターを足止めして本を持ったふたりを何とか向かわせるつもりだ……四谷? 四谷だな? ……わかった! じゃあその情報を全員の携帯に送ってくれ! ああ全員だ! 頼む!」

「ユッコちゃん何て?」

「引き渡し場所を四谷に変更してくれるそうだ! 場所の情報は今から一応全員の携帯に送ってもらう! あとなるはやで機構の人間も手配してくれるってよ!」

「四谷……! それでも遠いのでは……!」

「新宿と大手町の間を取って四谷だと! この辺りじゃ逆に近過ぎる」

「みんな傘を返してくれないか。一応使うかもしれないからな」

「え? 邪魔だったからそこら辺に捨ててきたよ」

「人の商売道具を捨ててくんじゃねーよ!」

「すいませんゴリ子さん」

「揃いも揃ってお前らは!」

 逃げるのに邪魔だったので……不法投棄はやめましょう。風見は持っていた傘をアプリコットに返した。

「それじゃあふたりとも、本を任せたぜ! ある程度経ったら俺もそっちに向かうつもりだからよ! またな!」

 西参道口交差点で風見だけ反対方向に曲がりミミミ達三人と別れていった。


「! 奴等二手に分かれたっスよ!」

「……なるほどな……これじゃ俺達も分かれねえといけねえ訳だ」

「あの男は僕が追おう。ふたりには因縁の相手がいるんだろう?」

「任せたっスキースさん!」

 ミミミ達の動きを見ていたジェイク達も二手に分かれる事にした。


「向こうも分かれてくれたみたいだね」

 ミミミが振り返っていた。こちらを追ってきているのはジェイクとエルシィだ。

「……そんじゃーどうしよっかな。ゴリ子、何か考えてる?」

「もう少しで中央公園だ。そこで奴等を足止めする。公園なら多少は暴れても問題は無いだろうからな。あとゴリ子って言うな」

「ふむふむ……オッケー。んじゃあシドをよろしく。ボクはこんまままっすぐ行くよ」

「!? どういうつもりだ」

「お前あのおっさんとハリセンボンを同時に相手出来るの?」

「……しかしやらなければいけないだろう」

「1対2だと明らかに分が悪いっしょ。結局片方がすり抜けてきたら最悪本は2冊とも取られちゃうじゃん。それよりかはリスクを分散した方がこの際はいいんじゃない」

「だが……」

 アプリコットはミミミの身を案じているのだろう。だが彼女はそんな心配など全く気にかけない様子だ。

「だーいじょぶだいじょぶ。上手くやるって。また四谷で会おうぜ」

 ミミミはひとり加速し、十二社通りを北上していく。

「あいつ、勝手に行きやがった……!」

「まあ、もう信じるしかないな。私達はこっちだ」

 シドとアプリコットは新宿中央公園へと入っていった。ふたりの後を追ってくるのはハリセンを持った少女、エルシィだ。ジェイクはミミミを追ったらしい。彼らは公園内を駆け抜け、ふれあい通りを跨ぐ歩道橋に差し掛かった所でアプリコットが足を止めた。

「次は私の番だな。ここであいつを食い止める。その間にお前はさっさと新宿駅に行け」

「……! わ、わかりました……! 気を付けて!」

「お前に心配されていては世話無いな。お前こそ、ちゃんと本を届けろよ」

「は、はい!」

 彼女とも別れ、ひとりになったシドは新宿駅を目指して再び走り出すのであった。


「……まったく、情けないな。まさか最後に本を託すのがブックハンターじゃないただの一般人とは」

 シドを見送ったアプリコットはくるりと後ろを振り返る。エルシィがそこまで迫ってきていた。

「ここは通さないよ。ちょうどいい。お前とはコトトネで有耶無耶で終わったからな」

「あの眼鏡君がコロンシリーズを持ってるって事っスか! いいっスよ! どうせそう簡単にはすり抜けられそうにないっスし、今ここで決着付けてやるっス! あんたの傘とウチのハリセン! どっちが強いのかをっ!!」

 ふたつの得物は再び交わった。

最近「SHIROBAKO」というアニメを見たんですが、めちゃくちゃ面白かったです。だからです、はい。

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