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Vol.32:コロンシリーズ再び(13)

風見がダイ○ックスほうを撃ちました。嘘です。

 あれだけ自分達を踏み潰そうと躍起になっていた巨大な熊のぬいぐるみが今は微動だにしていない。まもなくしてこれは風見の異能力による物だという事にシドは気が付いた。彼が手をかざした途端にチャッキーは動きを止めた。何か能力を発動しているのは間違い無い。彼の異能力についてシドは全く把握していなかった。

「さあてチャッキー、気力比べといこうか……! 俺の気力とお前の気力、どっちが強いか勝負しようや」

 しばらくの間じっとしていたチャッキーだったが、徐々に、徐々に右後ろ足が動き始めた。踏み出したというよりは引っ張られている様に見える。地面を削りながらゆっくりとふたりの方へ滑ってくる。何だ……何が起こっているんだ……?


「……何かまずい予感がするっスね……!」

 遠目から見てチャッキーの異変に気付いたエルシィはアプリコットとの戦いを中断し、急いで東側へと移動を開始した。

「おい! どこへ行く!」

「悪いっスね! ちょっと今はあんたの相手をしてる場合じゃないっス!」

「何!?」

 少しの間ジェイクは二対一になってしまうが大丈夫だろう。彼は強い。この場は一旦任せてミアマリーの援護に向かう。チャッキーの様子がおかしい。先ほどまで起こっていた地鳴りが今はぴたりと止まってしまっている。走りながらどんどん近付いてくる巨体を見上げるが、やはり動きが封じられている様に思える。あの眼鏡の少年は異能力者ではないという情報なのでおそらくもうひとり、バンダナの男の持つ力……それによりチャッキーが動けなくなっている。一体何だ、奴の異能力は……彼の情報だけが入っていない。ダンの手引きをしたあの北条と名乗った男も把握出来ていないのだろう。

「マリー! 大丈夫っスか!」

 すぐ近くまで来てわかった。チャッキーは全く動いていない訳ではないという事を。足が、少しずつ掌をかざした男の方へと引き寄せられている。チャッキーはそうはさせまいと踏ん張っている様に見える。

「引力……! 対象の心を引き寄せる力……!?」

 大きさ、重さでは圧倒的にチャッキーに分があるにも関わらず、心象世界(イデア)を通じた形無き攻防では確実にチャッキーの方が押されている……このままでは確実に負ける……! そうなる前にあの男の集中を乱さなければ……!

 しかし彼女の思惑通りにはいかなかった。そう考えた矢先にチャッキーが大きくバランスを崩し、背中から地面に倒れ始めたからだ。

「! まずい! マリーーーーーーーッ!」

 チャッキーの肩に座っていたミアマリーが空中へと放り出される。このままでは地面に落下してしまい、最悪の場合幼い彼女はそのまま死んでしまう。それだけは何としても避けなければ。

「……っ! サウザンズ・ニードル裏技! スプリング(ビフォー・ザ・サマー)!」

 エルシィはハリセンを地面に投げ付け、それをジャンプ台にして高く飛び跳ねた。ハリセンの心を操作し強力なバネにしたのである。落下していくミアマリーに手を伸ばして彼女の小さな体を何とか抱きかかえる事が出来た。彼女の下では今、無残にも体を沈めていくチャッキーの姿があった。

「チャ……チャッキー!」

「あ、暴れちゃ駄目っスマリー! 落ちちゃうから! ……巨大化したチャッキーを抑え込むなんて……! あの男……! マリーごめんっス! ちょっとチャッキーを踏んじゃうっスね!」

 倒れてしまったチャッキーの体に一旦着地し、綿の反動を利用して再び跳ね上がったエルシィは元の地点に戻ってきた。

「エル……チャッキーを……チャッキーをたすけて……」

「……! マリー……チャッキーは……い、今は諦めるっス……!」

「! ど、どうして! やだよ! いやだ!」

 ミアマリーの大切なチャッキーは今や身動きが取れないまま体を抉られていた。中身の白い綿がふわふわと舞っていく。ふたりにはそれを止める事は出来なかった。

「だ、だめえっ! チャッキーをいじめないでえっ! おねがい! やめてえっ! チャッキー! チャッキーーーーーー! ……っ!」

 泣き喚いていたミアマリーだったが、突如ぷつりと糸が切れた様に意識が無くなった。チャッキーが傷付けられていくのを見たショックから気を失ったのだった。

 彼女には自分が異能力を使っているという認識が全く無い。チャッキーはマリーの深層意識……言い換えれば無意識が動かしている。チャッキーの行動は全て彼女が心の奥底で望んでいる事。彼女の意識が途絶えればチャッキーも動かないただのぬいぐるみに戻る。彼女はチャッキーが本当に生きているぬいぐるみだと思い込ん(・・・・)でいる。

「マリー……!」

 気絶してしまった彼女の手に一冊の本が握られている事にエルシィは気が付いた。あの眼鏡の少年が持っていた、コロンシリーズの上巻だ。

「……よくやったっスよマリー……! ……安心するっス。チャッキーはウチが取り返してくるっスからね……!」


「チャ……チャッキーがどんどん小さくなっていく……」

 無我夢中で中の綿を取り出し続けていたシドは少しずつ目の前のぬいぐるみが空気が抜けたボールの様に小さくなっていくのがわかった。やがてチャッキーはあのマリーという少女が抱えていた元の大きさへと戻り、ぴくりとも動かなくなった。

「おそらく能力を使ってこいつを動かしてたあの嬢ちゃんが意識を失っちまったんだろう。ったく、あんな小さい体でよくやったもんだ」

「……あの娘は仲間が助けていきましたよね」

 その様子を彼は先ほど確認していた。そのまま地面に落ちなくてよかった、とほっとする。いくら敵とはいえ死んで欲しいなどとは一切思っていない。

「とにかく、これでひとり……いや、ミミミの嬢ちゃんのバットで気絶させられた奴を入れるとふたりは倒した事になるな」

「……このチャッキー、返してやらないとなあ……酷い事しちまったけど」

 シドがぼろぼろになったチャッキーを拾い上げようとしたちょうどその時、先ほどマリーを連れて逃げていった金髪の少女が再びハリセンを振りかざして現れた。

「チャッキーを返してもらうっスよ!」

「うわ!」

 思わず身の危険を感じたが、彼女はチャッキーを掴むとすぐにまた来た方向へと戻っていくのだった。

「向こうではまだふたりが戦ってるはずだ。俺達も行くぞ」

「え、やっぱ行くんすか……?」

「当たり前だろ!」

「ですよねー」


 チャッキーを回収したエルシィはミアマリーを抱えてジェイクの元へと急ぐ。

「マリーのおかげでコロンシリーズは二冊ともこっちの手に入ったっス! あとは奴らを撒いて逃げ切れれば、この勝負、ウチらの勝ちっスよ……!」

ヒバニーが可愛い。ただそれだけです。

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