Vol.31:コロンシリーズ再び(12)
チャッキーがダイ○ックスしました。
「てやああいっ!」
ミミミはジェイクの首にバットを力一杯打ち込んだ。軽快な音が響くが、彼はびくともしない。
「だからそんな軽い打撃なんか効かねえって言ってんだろ!」
振り下ろされる彼の重たい拳をミミミはひらりとかわした。先ほどからこの攻防が何度か繰り返されている。「飾皮」は見た目相応の一枚岩だ。
「……ちっ、ちょこまかと動き回りやがって……すばしっこさだけはあるみたいだなあ、ガール……! まあそれも時間の問題だろう」
「はあ……はあ……はあ……!」
ミミミの息は上がっていた。十数分ずっと休む事無く動き回っているのだ。おまけに何度かジェイクの攻撃を体に掠めたせいで体のあちこちに痛みを感じる。痣になっているに違いなかった。
「諦めろ。女子供を痛めつけるのは俺でも流石に気が引けるんだよ。お前達が俺達の持ってる本を奪うのを諦めればこれ以上痛い思いはしなくて済むぞ」
「……はあ……はあ……や~だね……!」
あっかんべえ。ジェイクのカヴァーは確かに硬い。だがある程度の時間が経てば徐々に強度が落ちてくるのではないか、というのがミミミの考えだった。彼女自身自らの異能力で分厚い本を「読め」ばその分疲れも溜まる。集中力も反比例して落ちていく。それはつまりイデアへの干渉に支障が出てくるという事。したがって非力な彼女に出来る事は時間を稼ぐ事なのだ。先ほどジェイクが言った「時間の問題」は彼自身にも当てはまるはずだ。たとえ今は全く効果が無くとも、何度も立ち向かっていく内に状況が変わってくるかもしれない。それに彼女のそういった行動自体が彼の集中力を落とす一因になり得る。あっかんべえも立派な戦術なのである。先日の定食屋でのやり取りの際に感じたのだが、この男は血の気が多い人間に違いなかった。
「おっさんこそさっきからボクのパンツちらちら見てるんじゃないの? あ~あや~らし」
「何だと? 俺はガキになんぞ興味は……」
「マジっスか!? ジェイクさん不潔っス! ウチもこれから気をつけるっス!」
「違うわ! ……生意気なガールだ……! 本は俺が持ってるぜ! 奪い取ってみろよ!」
アプリコットはミミミ達のすぐそばでエルシィと戦っていた。自分の事で手一杯なのだがちらちらと視界に入るミミミの事が気になってしかたがない。今の所大きな怪我は無さそうであるが心配ではある。自分の傘ならあの硬い装甲を突き破る事が出来るかもしれない。可能ならば代わってやりたいのだが……。
「あれー!? またよそ見しちゃってるっスねえ! 駄目って言ったじゃないっスかあ!」
「お前こそ今さっき野次を飛ばしてたくせに!」
目の前のハリセン娘がウザい! 心に干渉して強度を増してはいるが、横から激しくばんばんと叩かれては細い傘一本では防ぐのが難しい。心を乱すな……とにかく集中だ。
「……っ!」
その時彼女の全身に痛みが走った。まただ。エルシィの攻撃は当たっていないのに、力いっぱい叩かれた感覚。やけに体の芯に響く様な、脳が直接揺らされる振動。何だ、こいつの攻撃には何かある……!
「……! 空気の振動……! お前のそのハリセン……!」
「あっははっ! 気付いたっスかあ!? そうっス! ウチのハリセンは空気を叩く! 振動はイデアを通じてあんたの心に到達するっス! どうっスかあ!? なかなか痺れるっスよねえ! 心を直接ぶっ叩いてるんスから! 名付けてハリセン!」
「センスの欠片も無いネーミングだ! お前本当は日本人じゃないのか!」
「扇子だけにっスかあ!?」
「誰が上手い事を言えと……っ!」
「!」
突然エルシィが動きを止めた。ミミミやジェイクも同じ様にシド達がいる方向を見ている。アプリコットも振り返った。
「! ……何だあれは……!」
「あららあ……怒らせちゃったんスねえ、チャッキー……いや、マリーを」
「な……な……! 何じゃこりゃ……!」
眼前にそびえ立つ巨大な熊のぬいぐるみを見上げ、シドは開いた口が塞がらないでいた。さっきまで自分とさほど変わらない程度の大きさだったのに、今や彼が通う校舎並みにまでチャッキーは巨大化している。大きな右後ろ足がゆっくりと持ち上げられ、徐々に頭上に迫ってくる。呆気に取られた彼はそれを他人事の様に呆然と眺めているのだった。
「何やってんだ少年!」
「!」
風見に引っ張られ我に返ったシドは全速力で退避する。
「う、うわああああああっ!」
ずしん、と地面が揺れ、その衝撃で思い切りこけてしまった。先ほどまで彼が突っ立っていた場所には今もこもことした大きな足が乗っていた。あ、あぶな……! 潰される所だった……。
しかし、チャッキーは止まる事無くシド達の方へともう一歩踏み出してくる。
「ど! どうすればいいんすかこんなん!」
「どうするって……倒すしかないだろ!」
「倒す!? この巨体を!? どうやって!」
「文字通りの意味だ!」
「!?」
「車から発掘道具を持ってきてくれ! シャベルでもツルハシでもいい! こいつの中身を抉り出す!」
車の中にはハントで使用した道具が乗せられている。その他に全員の荷物もまとめて入っている。七日間の滞在予定だった旅館は先刻チェックアウトした。今この機会一度きりでケリを着けるのだ。
「こいつはかなりの年季もんだ! 縫い直した部分をほつれさせれば中身の綿を取り出せるだろ!?」
「! そうか、綿さえ抜けばただの抜け殻になる……!」
「そういう事だ! 早く持ってきてくれ!」
「わかりました!」
シドは急いで駐車場へと向かった。
その場に残った風見は自分の十倍以上ある巨大な相手に果敢に立ち向かっていく。これから倒すための下準備を行わなければならない。彼は精神を研ぎ澄ませ集中を始めた。これだけ大きければ懐に飛び込むのは容易い。上手くチャッキーの真下に駆け込み死角へと入った。彼を見失ったチャッキーは程無くして自分の足元に入られている事に気付き、潰してしまおうと地均しの様に足踏みを始める。巨大な足の動きを避け、振動で倒れない様にしながら風見はそのままチャッキーの後ろに回り込んだ。
「! あそこだ!」
右前足の付け根、人間で言う肩の部分に縫い直した跡がはっきりとある。しかも体が肥大化しているお陰で今の時点で既に糸が緩くなっており中の綿が少し見えている。狙うにはもってこいの部位だ。
チャッキーは振り返り距離を詰めた所で右後ろ足を前に突き出してきた。風見はタイミングを計ってジャンプで避けた後、呼吸を整えながら素早くチャッキーに再接近した。
「……せいっ!」
大きく息を吐きながらチャッキーの足に掌底を当てる。チャッキーは全く動じずに風見が触れたままの足を左右に大きく振り、彼は吹っ飛ばされてしまった。
「うあっ!」
「風見さあんっ!」
シドがツルハシを持って広場へと戻ってきた。鉱山でアプリコットとヤン……もといダンが使っていた物だ。上手く受け身を取った風見はすぐに立ち上がると彼の元へと駆け寄った。
「少年! 右腕……じゃない右前足か? ……そこの付け根だ! 縫い直した跡がある! 今にも千切れそうだぜ! そこにツルハシ突っ込んで糸をちぎれ! ぱんぱんだぜ奴の体は!」
「わ! わかりましたけどそれをどうやって!? あそこまで登れと!?」
「だから言っただろう!? 『倒す』ってな!」
「へ!?」
風見はまたしてもこちらに迫ってくるチャッキーに向かって掌をかざした。彼の瞳はやがて焦点が合わなくなり、虚空を睨み始めた。これは……イデアに干渉し始めた合図だ。
次の瞬間、巨大な熊のぬいぐるみはぴたりと動きを止めた。
マリーといいエルといい、敵キャラにも愛着が湧いてきました。あ、野郎はどうでもいいです。




