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Vol.29:コロンシリーズ再び(10)

D2Dがあれば寝坊しても会社に遅刻する心配は無さそうですね。僕も欲しい。どこでその遺伝子売ってるのかな。

 午前零時過ぎ、シドは高台にある多目的広場にいた。ここは三日前にハントに訪れたあの手を空に伸ばす女性の像が立つ展望台に隣接する施設だ。その東側にある、広場と展望台とを繋ぐ遊歩道の入口に彼は立っている。先ほど駐車場の案内板を見たが、広場の西側部分には遊具やアスレチック設備があるらしい。きっと休日は家族で遊びに来た子供達で賑わっているのだろう。また池もあるらしく、魚が飼われている様だ。

 彼の体は緊張でわずかに震えている。これから彼は敵のハンターと対峙するのだ。

 ダンが持っていた携帯には仲間の連絡先が登録されていた。それを利用し、彼のフリをして仲間を呼び出し、奇襲して本を奪い取る。それが風見が考えた作戦だ。

『上巻は敵の手に落ちたが、そっちが持ってる下巻が偽物の可能性が浮上してきた。本物かどうかを確かめる方法があるから今夜本を持ってきて欲しい。俺も上巻を持って向かう。上下巻共を使って照合が出来る』

 そう言って彼らの誘い出しに成功したのである。願わくば敵にはこの誘いに乗って欲しくなかった、というのがシドの本音である。だったら今自分がこんな事をしなくて済むのに……。

「もしこいつが君に化けて嬢ちゃんと一緒に上巻を取りに行く事を仲間に話してたとしたら、君がこいつになりすます事が出来る。なりすましているこいつになりすますんだ」

 それが、風見が彼にこの大事な仕事を与えた理由だった。

 遊歩道の幅は広く、車一台くらいなら通れそうだ。周りには木が茂っており、彼の立つすぐそばの一本の上にミミミ達は潜んでいる。敵が来るのを今か今かと待ち伏せているのだ。

 やがて広場に人影が見えた。ここには駐車場が二ヶ所あり、シド達は東側……展望台側に停めているが、敵ハンター達は西側に停めてきた様だ。

「……!」

 シドの心臓がどくんと強く跳ね上がった。敵ハンター四人が勢揃いである。しくじるなよシド……ここでミスったら計画が台無しだぞ……! 彼は自分に強く言い聞かせた。

「……もしかして、ダン?」

 帽子の青年が尋ねてきた。確かキースとかいったっけか。シドは平静を保ちながら答える。

「ああ」

「どうしたのさその格好。太ったチャイニーズじゃなかったっけ?」

 彼の口振りから察するに、ダンは今朝の事は仲間には話していなかったらしい……だったら僕じゃなくてもよかったじゃねーかちくしょー!

「訳あって別の仲間の姿になってる。だがお陰で上巻を手に入れる事が出来たぜ」

 シドは焦らずにゆっくりと、ポケットから本を出して彼らに見せた。

「グレイト。さすが。こっちも言われた通り本を持ってきたよ」

 キースがひとり前へ歩み出てきた。だが直後にジェイクがそれを制止する。

「ちょっと待て」

「!」

 シドは思わずぴくりと反応した。もしかしたら怪しまれているのかもしれない。

「どうしたんだいジェイク」

「ダン、合い言葉はどうした」

「あ……合い言葉……?」

 やはり、疑われている。な、何だよそれ……そんなん知らねーぞ……! 頭上を気にするが何の気配も無い。自力で乗り越えろと言うのか。んな無茶な……。

 だ、だから僕には無理だって言ったんだ! 大体僕はブックハンターじゃねーんだぞ!!

「そ、そんなん知らねーぞ!!」

「……」

「……!」

 どうしようもなかった彼は適当に吐き捨てた。終わった。作戦は失敗だ。

「……くっ、はははは。悪かったよ」

 ところがジェイクは急に笑い出した。

「やれやれ。ごめんねダン、そんなの知らないよね。僕も知らないよ」

「……?」

 ど、どういう事だ……? 合い言葉なんて元から無かったって事か……? 何か適当に答えてたらその時点で失敗だったって事なのか……? い、今のが正解だったって事でいいのか……? ……何とか乗り切った……?

 今一度敵ハンター達の顔を見回すが、全員が彼の事をダンだと信じ切っている様だ……ぬいぐるみを抱えた幼い少女は眠そうに目をこすっている。

「……った、ったく、何かと思ったぜ急に」

「ごめんごめん……で、この本が偽物かもしれないってどういう事さ」

 キースが黒い文庫本を見せる。紛れも無くコロンシリーズだ。あの時取り逃した「RENJIRO」の下巻。

 来た。今がチャンスだ。

「ああ、実は俺達よりももっと前に既に本を持っていった連中がいるかもしれないって事がわかったんだ」

「……ほんと? だとしたら厄介だな……」

 もちろんそんな話は嘘である。

「で、一体どうやってそれを確かめる事が出来るんだい?」

 キースは適当にぱらぱらと本のページを捲り始めた。

「とあるページの隅に本物を示す目印があるらしい。ちょっと貸してくれないか」

 シドはキースから下巻をもらおうと手を伸ばす。しかし彼は本を手放さずに依然としてページをぱらぱらと調べている。

「目印? どんな?」

「……口では説明しづらい物なんだ。貸してくれよ」

「そんなに複雑なのかい? だったらすぐに見付かる気もするけど……そっちは何ページにあったんだい」

 ちっ、しぶといな……さっさと本をこっちに渡せよ……! シドの胸中に若干の焦りが生じてきた。だが態度には出さない。出す訳にはいかない。

「えっ……っと、何ページだったか……真ん中ぐらいだった気がしたけど……」

「真ん中? ……ちょっと貸してくれないか。どんな物か確かめたいんだけど」

「! ……い、いや、お前が見てもぱっとはわかんねえよ……それより下巻をこっちにくれよ。その方が早い」

「僕が見てわからないのに君が見てすぐにわかる訳無いだろ。こっちにくれた方が早いって」

 ……こ、ダン(こいつ)、仲間からどういう扱い受けてんだよ……! 雲行きが怪しくなってきた。このままではまずい。

「どうしたのダン?」

「……あ、あーっと……」

 上手い返しが思い浮かばない。どうすれば下巻を受け取る事が出来るのだろうか……あたふたとしている内にキースの口から疑問が飛び出してきた。

「……何か変だね…………君、本当にダンなのかい?」

「!」

「キース! 本をこっちに寄越せ!」

 その時何かに気付いたジェイクが突然叫んだ。それを聞いたキースは指示通りに素早く本を彼へと投げる。

 と同時に、木の上で事の成り行きを見守っていた風見とアプリコットがシドとキースの間に飛び下りてきた。

「す、すいません! 失敗しました!」

「気にするな。君はよくやった」

「ダンの野郎……しくじりやがったな!」

「ダン? あいつならすやすやと眠ってるぜ」

「これはこれは日本のハンター達……お前達が僕らの前に現れたという事はつまり、もう一冊を手に入れてこっちの本を奪いに来たって事だよね?」

「キース! 不用意に近付くな!」

「大丈夫だよ。こいつら全員僕の華麗なる異能力でえんッッ!!」

 話している途中で頭部に激しい衝撃を受けてキースはその場に倒れ込んだ。少し遅れてミミミも下りてきたのである。急所に当たったのか、彼はそのまま気絶してしまった。

「やーりー! 駄目元でバット振り下ろしたら頭にドストライクじゃーん!」

「馬鹿が……! ひとり足りないのがわからなかったのか……!」

「どーもー、超絶美少女ブックハンターミミミちゃんとその仲間達がコロンシリーズを奪い取りに来ましたー」

「ふ、不意打ちとは卑怯っスよ! 日本の微妙な可愛さのブックハンター!」

 金髪の少女がミミミを非難する。

「黙らっしゃい! ご丁寧に偽物まで準備しといた分際でよく言うわ! おおっとっ! 微妙な可愛さのブックハンターに対してだったね……誰の事やら」

 ミミミは本を受け取ったジェイクの姿を確認すると一目散に彼目がけて突進していく。

「本をこっちに寄越せええええ! 口臭スーツ男!」

「怪人みたいなあだ名で呼ぶんじゃねえ!」

「あのジェイクさん、あんまり口を大きく開かないで欲しいっス!」

「お前は俺の味方だろうが!」

「それと臭いとは話が別っス!」

「……っちいっ!」

 ジェイクは息清涼剤を口に放り投げつつ金髪の少女と共に広場の方へと逃げていく。ミミミはそれを追いかけ、彼女を心配したアプリコットが後に続いた。

「待て待て待て待てえええっ!」

「おいひとりで突っ込むな!」

 こうしてこの場にはシドと風見(と気絶したキース)、そしてぬいぐるみを抱いた少女が取り残された。

「……どうやら俺達の相手は可愛らしい嬢ちゃんの様だぜ」

ジェイクさん、口臭キャラになっちゃいましたね……そんな予定じゃなかったのに……。

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