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Vol.28:コロンシリーズ再び(9)

ターゲットに記されているのは最終兵器の在り処……兵器と言えば、兵器がヒロインのお話も過去に書いてます。

 東京、暦史書管理機構日本支部。データの処理が一段落着いた所で北条は壁にかかった時計に目をやった。時刻は午後七時を過ぎている。

 ふう、と浅く息を吐くと彼は帰り支度を始めた。USBメモリを引き抜きスーツの内ポケットに入れた後そのままパソコンの電源を切る。

 普段なら同僚に挨拶を交わして退勤するが、今は諜報部の事務所には誰もいなかった。皆忙しく、他の部署などに出払っているのだろう。ボードの自分の名前の横にある「出勤」の札を裏返して「退勤」に変え事務所を出ようとした時、突然目の前の扉が開けられた。

「ちょうどお帰りになる所ですか?」

 現れたのはアーカイヴの小さな番人、ユウコだった。

「おや、ユウコさん。こんな時間にいらっしゃるのは珍しいですね」

「ええ、ちょっとした用で……」

「仰る通り今から帰りです。仕事が残っていたもので」

「まあ、相変わらずご勤勉ですね」

 彼女の言う用事が気になった彼は尋ねてみる事にした。

「……もしかして、部長もその用とやらに関わってらっしゃるんですか? 午前中から何やら忙しそうにしていらっしゃいましたが」

「ええ、まあ、そんな所です……ちょうどどなたもいらっしゃいませんし……実は……」

 ユウコは事務所を見回してから話を続けた。

「今ブックハンターの方々に依頼をしているコトトネのコロンシリーズの件なのですが、どうやらイギリスのハンターの方々に情報を流した人間が機構の内部にいる様なのです」

「! ……それはつまり、スパイ……という事ですか……なるほど、それは深刻だ……部長も朝から忙しない訳だ」

「はい。片桐(かたぎり)部長には他の方々と一緒にその人物を洗い出すのに協力して頂いています。この事は今の所部長以外では総務部とごく僅かな諜報部員のみにしかお知らせしておりません。内密に行っています」

「確かに、あまり広まってもいけませんからね」

「……しかし」

 彼女の声の調子が少し変わった。これから更に重大な事を告げようとしている様だ。

「皆さんのお陰でこの短時間の内にもうスパイの目星はついているのです」

「! ほう……さすがですね。では案外すぐに落ち着きそうだ」

「あなたです北条さん」

「……」

 それを聞いた彼は思わず一瞬固まった。が、すぐに笑顔を浮かべ言葉を返した。

「……っくっ、はははっ。何を言い出すんですか突然。ユウコさんがそういう冗談を仰るのは珍しいですね。しかし私は機構に入って3ヶ月と日が浅い……疑われるのも無理は無いですね」

「確かにそれもある」

 ユウコの背後からひとりの男が姿を現す。北条と同じく諜報部員のシンだ。

「俺達はまず真っ先に機構に入って日が浅い人間に目を付けリスト・アップしていった。もちろん同僚を疑いたくはなかったがな。北条さん、あんたの経歴はでたらめだ。以前働いていたという会社はそもそも存在した記録が無いし、出身大学にも過去10年、あんたが在籍した履歴は残ってない。機構には俺含めて出自が胡散臭い人間がちらほらいるが、はっきりと偽装した痕跡が見付かったのはあんたくらいだ」

「北条さん……いえ、この名前も偽物なのでしょう……スパイはあなたです」

「……へえ」


 先ほどまで柔和な表情を浮かべていた北条の目つきが急に鋭くなった。人格までもが変わってしまったかの様な印象をユウコは受けた。

「やるじゃん、暦史書管理機構。さすがと言ったのは本音だよ」

 話し方まで変わっている。やはり目の前のこの男は自分自身を偽っていた様だ。

「……信じたくはなかったよ、北条さん……あんたは任務が終わった俺達をよく労ってくれてた」

「それも本音だよミスター・シン。諜報活動の苦労は俺もよくわかってるからね。まさしく今の状況がそうだ」

「……あなたは、歴史書解放戦線の人間なのですか」

「ご名答。俺はその諜報員のひとりさ」

 北条はじりじりと後退していく。それを追い詰める様にユウコ達も一歩一歩彼に近付いていった。

「ヤンさんを自宅で発見しました。とても深い眠りについていました。腕には何か薬物を注射した様な跡がありました。あれもあなたが?」

「そうだよ。あ、毒物じゃないから安心するといい。そんな趣味は俺には無いからね。ただの麻酔薬さ。24時間効果が持続するね。おかげで彼……何て名前だったかな。とにかく彼はすんなりと成り代わりに成功したよ。それにしてもめんどくさかったよ、毎日毎日追加で麻酔を打ちに行かなきゃいけなかったんだからさ。まったく、イギリスのハンターも思っていたよりは仕事が遅いもんだ」

 北条の足が止まった。背後には廊下へと出るもうひとつの扉がある。この事務所には出入口が二ヶ所あるのだ。

「無駄です。廊下には異能処理班員が待機しています」

 ユウコのこの言葉と共に彼女らの後方のドアから処理班員が数名入室してくる。北条の包囲網は既に出来上がっていた。

「このためにわざわざ事務所に俺をひとりにしたって訳か。してやられたね」

 そう言っているわりには北条の顔にはどこか余裕がある。彼はそのまま背後のドアノブに手をかけた。

「大人しく投降してくれ北条さん。手荒な真似はしたくない。あんたは仮にも元同僚だ」

「君は優しいねミスター。俺だって手荒な真似はごめんだよ。得意じゃないからね、そういうのは」

 彼はゆっくりと後ろ手で扉を開くと、隠れる様に素早くその中に身を引っ込めた。事務所内にいた異能処理班員達はすかさず閉じられた扉を再び開き、廊下の班員達と共に彼を挟み撃ちにしようとした。だが……。

「!」

 そこには待機していた他の処理班員達の姿のみがあり、北条の姿はどこにも無かった。

「な、何だ!? 北条さんはどこに行ったんだ!? 消えた!?」

 シンが天井まで見回した後に叫ぶ。この場の誰もが状況を理解出来ずにいた。

「北条は廊下には出てきてません。扉が一度内側から開けられましたが、誰も出て来ずにすぐにまた閉まりました」

 廊下にいた班員のひとりが言う。

「嘘だろ!? あの人は確かにこのドアから出ていったぞ!」

「……まさか……異能力……」

 ユウコがぽつりと呟く。

「!? そんな馬鹿な! 入職時の資料だとあの人はi2だろ!? 異能力が使えるなんて情報はどこにも無かったぞ!」

「それすらも偽っていた……という事でしょう」

「い、遺伝子情報から……!? マジかよ……!」

「……扉を操る異能力……モニター・ルームに連絡し、施設内の全てのモニターをすぐにチェックさせて下さい。それから処理班員の皆さんは他に心を操作された痕跡が無いか、至急全ての扉を調べて下さい」


 しかしユウコの対応も空しく、北条はこの時既に管理機構の敷地内から脱出していた。扉の心に干渉し、離れた場所にある扉同士を繋ぐ事が出来る「ドア・トゥー・ドア(D2D)」。それが彼の異能力。

「予定では半年間潜入するはずだったのに、台無しじゃないか……だけど敵ながらお見事だよ暦史書管理機構……入りたてで下っ端の俺なんかじゃ機密史書には全く触れなかった。せいぜいしょうもないCランク程度……ま、これも一応暦史書だ」

 内ポケットのUSBメモリを確認した後、彼は東京の雑踏の中に消えていった。

北条さん、敵キャラながら設定の段階から好きでした。

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