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Vol.26:コロンシリーズ再び(7)

珍しくシリアスになっちゃってんじゃん。

「どうして俺がこのガキじゃないって事がわかった?」

 男はミミミにこう尋ねてきた。今彼女の目の前にいる男。シドそっくりの男。というか見た目は完全にシドだ。背丈も同じ、声も同じ。誰がどう見てもあの変態眼鏡野郎にしか見えない。

 だが、こいつはシドじゃない、という確信が彼女にはあった。

「お前はさっきボクの事を『相棒』って言った。毎回毎回無理矢理ハントに付き合わされてるあいつがボクにそんな気持ち悪い言葉使うはず無いじゃん。ただでさえキモいのに……」

「……たった、たったそれだけで……か?」

「たったそれだけだよ。他に何かいる?」

「……ふふっ、ふはははははっ! どうやら俺はお前達を見くびってたらしいな。さすが腐れ縁といった所か」

「そんな褒め言葉いらないよ……で、シドはどこにいんの?」

「心配しなくても命までは奪わんさ。じきに誰かが見付けるだろう。俺達の狙いはあくまでも本だ。人殺しは趣味じゃない」

「ふ~ん……で、あんた結局誰な訳? 敵さん? シドそっくりの姿なのは異能力?」

「ご名答。異能力への抵抗が小さい人間は化けるのが楽だ。簡単に心に干渉出来る」

「……ヤンのおっちゃんもあんたが?」

「ヤン?」

 その名を聞いてシドの姿をした男は再び笑い出した。

「ははは! はーっはっはっはは!」

「何がおかしいの」

「ヤンとかいうあの中国人は初めっからここには来ちゃいねえよ!」

「!?」

 ミミミは彼の言葉を即座には理解出来なかった。どういう事だ。では昨日まで一緒に行動していたヤンは一体……。

「……もしかして……!」

「ああそうさ!」

 男は意地悪な笑みを浮かべている。

「俺だよ! ヤンは俺だ(・・・・・)!」

「……っ!」

 ミミミは全てを悟った。初めからヤンはこのコトトネには来ていなかった。今まで一緒にハントを行っていたヤンは……いや、誰もがヤンだと思い込んでいた人間は、目の前のこの男だったのだ。この男が自らの異能力でヤンの姿に化けていたのだ。という事は、この男こそが彼女が疑っていた内通者―――その正体。

「相手の心に干渉し、身長、体格、体重、声の情報までもを完全に複製し自分の心の表面に覆い被せる変身能力! それが俺の『化けの皮(レザー・フェイス)』! お前達は最初からずっと俺と一緒に行動してたんだよ! 笑えるぜ! 敵と一緒に仲良くハントしてんだからなあ!」

「……このペテン師野郎め……!」

 ミミミはぎりりと歯ぎしりをした。ずっと騙されていた事に情けなさを覚える。

「さて、もう1冊のありかを教えてくれたお前にもう用は無い。 賭けでこいつ(・・・)に化けて付いてきた甲斐があったぜ。このままお前に取られてたら奪うのが難しくなってただろうからなあ」

 男の話から察するに、昨夜のシドとのやり取りをこっそりと聞かれていた様だ。という事は入れ替わったのはおそらく夜中だろう。

「渡さない」

「やるのか? 俺と? いいのか? 今の俺はお前の大切な大切なボーイ・フレンドなんだぜ? そんな俺の顔を殴れるのかよ? ええおい?」

「……ひとつ大事な事を教えてやるよ」

 ミミミはバットを握る手に今一度力を込め、怒りと共に力強く一歩を踏み出した。

「その顔のお陰で何の躊躇いもなくボッコボコに出来るわああああああああ!」

「ぶえええええええええええええええええええっ!?」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオオラオラオララオラ!」

 男に対して容赦無い連打。彼は彼女の想定外の行動に全く身動きが取れずにいた。本来の彼自身の体ならまた話が違ったのかもしれないが、今の彼はシドの体格になっているのである。身体能力もシドのそれなのだ。

「オラアッ!」

 三分ほど手を休める事無くバットで打ち続けた後、ミミミはとどめの一撃を男の腹部に打ち込んだ。ストライク・ゾーンど真ん中である。

「ボク達を見くびってんじゃないよ」

「……ど、どおゆうかんけーなんだ……おまえらは……がくっ」

 男は吹っ飛ばされた後にそのまま気絶した。


 その後彼女は風見に連絡を取り今しがた起こった事を伝え、彼とアプリコットに旅館でシドを捜してもらう様に頼んだ。するとしばらくして掃除道具入れの中に熟睡した状態で発見したとの報告があったので、そのまま三人を自分の元へ呼び寄せた。

「おーい嬢ちゃん!」

 到着したメンバーの中にシドの姿はしっかりとあった。ぽりぽりと呑気に頭を掻いている。彼女の前まで来て一言。

「何か大変だったみたいだな」

「何か腹立つから殴っていい?」

「めちゃめちゃ寝覚めがいいんだわこれが」

 シドによると昨夜は普通に眠りにつき、朝掃除用具入れの中で風見に起こされるまで一切目を覚まさなかったそうだ。そのため起きた時は何がどうなっているのかさっぱりわからなかったらしい。

「それで? その、ヤンに化けてたっていう奴は……」

「ん」

 風見に問われ彼女は近くの木を指差した。男はその根元にもたれてがっくりと項垂れていた。ミミミが気付いた時には既に体格が変わっており、身に付けているシドの衣服が少し張っていた。どうやらバットで殴り続けている途中で変身が解けて元の体に戻った様である。その顔を覗き込んで風見は絶句した。

「……ぼこぼこにされ過ぎて元の顔が分からんな……」

「ぼ……僕の服が……」

 シドはとりあえず奪わていた眼鏡を男の顔から取って自分の耳にかけた後、まじまじと男を見ながら言った。

「徹底して顔を重点的にやられているこの有り様を改めて見て、とても複雑な気持ちになります」

「ボクが無事だった事に安心しろよ」

「それにしても、嬢ちゃんの推測が当たってたのか……」

「でもまさか初めっからなり代わってたのは予想外だったよ。内通者どころじゃなかったね」

「この事は有栖川嬢には話したのか?」

「うんにゃ、まだ。とりあえず先にもう1冊をゲトッちゃおうよ」

「ああ……この竈の中にあるっていうのか」

「中を調べたけどどうやら二重底っぽい。ゴリ子の傘でちゃちゃっとぶっ壊しちゃってよ」

「ゴリ子って言うな……構わないが、そんな大っぴらな事をしていいのか?」

「どうせ廃墟だし……それに、本を手にして欲しいんだったら壊される前提でしょ」

「確かに」

 アプリコットは差していた傘を畳み、竈の中に突っ込んだ。

「危ないからお前達は下がってろ」

 やがて彼女が持つ傘が中棒ごとぐるぐると回転し始めた。傘はさながらドリルの如く竈の底を穿っていく。やがて底が抜け、その下に本当の底が顔を見せた。

「……ゴ、ゴリ子さんの傘怖いっすね」

「殺人傘かな」

「かなり集中しないと出来ないから基本的に動き回る相手に対しては使えない……っと」

 アプリコットは少しふらついた。イデアへの干渉が大きければ大きいほどその反動が意識の低下となって干渉者の体を襲ってくる。

「あとは任せた」

「オッケー……ふっふっふ」

 ミミミは竈の中に井戸の底から出てきた鉄の箱を見付け、持ち上げた。

「勝った! 今度こそ手に入れたぞ! …………うん、本物だ」

 本の心を読んだが、やはり彼女の読みは当たった。ユウコから聞いていた情報と大体一致する。心も嘘をついていない。紛れもなく今回のターゲットとなっているコロンシリーズである。こちらは上巻の様だ。

「ふわあ……眠くなってきた」

「よし! でかした嬢ちゃん!」

「にしても、火の元に水源か……なるほど、あえて本が傷付くイメージがある場所にどっちも隠した訳か。燃えるし濡れるし、普通なら隠さねえな」

「これでイーブンか」

「だったらあとは奴らからもう1冊を奪うだけだな」

「でもその前に一旦旅館に帰っていい? ユッコちゃんに報告しなきゃ。それにご飯も食べてないし」

「そういや僕も食べてないな」

「お前は爆睡してただろうが!」

 ミミミは今度こそシドの頭をバットで叩いた。


 朝食の時間は終わっていたため、コンビニでパンを買って食べ、旅館に戻り全員で男部屋に集合した。ヤン……もとい、ボコボコにされた男の荷物を漁ってみると何やら怪しげな薬が出てきた。もしかしたら睡眠薬で、シドはこれを飲まされたせいで深い眠りに落ちてしまったのかもしれない。彼に昨晩ヤン(になりすました男)に何か飲み物をもらわなかったか尋ねたが、全然覚えていないらしい。まったくもって使えねえなこいつ。

 ちなみに、所持していた携帯から男の名前が(ダン)だという事はわかった。今は部屋の隅で手足を縛られ口を塞がれた状態でまだ気絶している。もし目が覚めたら先ほどの薬を試しに飲ませてみるのもいいかもしれない。

 スピーカー・モードに切り替えたミミミの携帯を机の上に置き、メンバーはその周りを取り囲んでいた。ユウコから聞かされていた連絡先に電話をかける。コール音が数回鳴った後、女性の声が聞こえてきた。彼女の従者の様だ。ユウコに繋ぐ様に指示をするとすぐに彼女に代わった。

〈有栖川です〉

「ユッコちゃん? とりあえず途中経過を報告しとこうと思って」

〈まあ、お待ちしておりました。嬉しい報告だといいのですが〉

「いいニュースがひとつと、悪いニュースがひとつ。まずいいニュースからいこうか。1冊……上巻は手に入れたよ。んで悪いニュース。下巻はパクられた」

〈……それで、あちらのハンターは今どこに……?〉

「まだこの町にいるはず。上巻をボクらが取ったって事を多分まだ知らないはずだから。心配しなくても奪い取るさ。そういう契約だもんね」

〈……わかりました。くれぐれもお気を付けて下さい〉

「……あと、もっと悪いニュースがひとつ……ヤンのおっちゃんは初めっから敵ハンターのひとりが異能力で化けた偽者だった。本人は多分今も都内にいるよ」

〈! ……ま……まさかそんな……!〉

 電話を通してユウコの動揺が伝わってくる。信じられないのも無理は無いだろう。

「まったく、やってくれたねえ……サポート・メンバーどころか敵を同行させちゃってんだからさ」

〈……返す言葉がありません……それで、その方は……?〉

「ボッコボコにしといた。今も寝てるよ……でさあ、これってつまり……」

〈機構の中に、そのハンターと繋がりのある人間……スパイがいる……という事ですね〉

「さっすが。話が早いじゃん」

〈考えたくはありませんが、その可能性は高いです……でなければ、異能処理班員のヤンさんと接触し、あっさりなり代わる事は困難のはずです……機構内の何者かが手引きしたのは間違い無いでしょう……わかりました。すぐにヤンさんの行方を捜索すると共に、その人物を洗い出します。この度の失態は本当に申し訳ありませんでした〉

「以上。みんな他に言っときたい事とかある?」

「……有栖川嬢」

 風見が口を開いた。

〈その声は……風見さんでしょうか。何でしょう〉

「俺だけに限らないが、この場の全員が今回のターゲットとなってるコロンシリーズの内容について気になってる。一体どういう事が書かれてるのか、何の情報も無いからな。敵側はスパイを送り込んででも手に入れたい情報なのか? 出来れば教えてくれるとありがたいんだが……まあもちろん依頼人のあんたには黙秘する権利もあるから無理強いはしないが」

「ボクも結局何がヤバいのかはわかんないけど……でもざっと『読ん』だ感じ、あんまり明るくはなさそうだね」

〈……〉

 ユウコはしばらくの間黙り込んだ。そして。

〈……わかりました。そこまで仰るのなら、今回の失態のお詫びも兼ねてお話し致します。古詠堂書館でミミミさんが仰った通り、今回のターゲットには極めて重要な物の手がかりが記されています〉

 少女の口から暦史が語られる―――。

ゴリ子の傘ドリル、僕が中学生の時に考えた設定です。十年以上の時を経て形になりました。

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