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Vol.24:コロンシリーズ再び(5)

口臭って自分じゃわかんないですよね……。

 定食屋を出た三人は予定を変更して役場に車を走らせた。予想以上に腕が疲れていたためである。アプリコットやヤンなら持ち前の異能力を応用して少しは楽に地面を掘れるのだろうが、三人にはそんな芸当は出来ないのである。そこで今日の発掘はもうやめる事にし、役場にとある事を確認しに行く事にしたのだ。

 コトトネ町役場には町に関する資料を閲覧出来るコーナーがあった。町の成り立ちや行事、風土などがパネル展示で紹介されている。持ち帰りが出来るパンフレットもある様だ。

「どうだ? あったか?」

「んーと……お、ここら辺かな」

 冊子のひとつを手に取りぱらぱらとページを捲っていたミミミが手を止めた。そこには今彼らがいるこの場所、コトトネ町役場の庁舎の落成式当時の写真が載っていた。

「……これは残念な結果だね」

「……げ、マジか……」

 写真には当時完成したばかりの庁舎と共に、同じく立てられたばかりの聖母像も写っていた。ポイントはその像が立っている地面である。この時点ですでにコンクリートが敷かれているのだ。

「この像の下に本を埋めるのは無理だ」

「って事は自動的に候補から外れる訳か……」

 残された像は公園にある一体のみである。


 ブックハント三日目。シド達は公園の像の周囲の発掘に当たった。アプリコットとヤンも昨日と同様坑道に向かった。昨日の時点で坑道の最深部まで到達したらしいが、あちらも成果は出なかったらしい。今日はもう一度調べてみるとの事だった……しかしあまり期待は出来なそうであった。

「ちくしょう、鉱山っていう俺の読みは外れちまったか……?」

「ま、まあまあ風見さん、他に誰も見当が付かなかったんすから……」

「せめてこっちは当たってくれると嬉しいんだが……」

 しかし、三人の願い虚しく三体目の像の足元も空振りに終わってしまった。


 この日の昼食は前日の定食屋で五人全員で取る事にした。坑道班のふたりはコロンシリーズはアカド山には無いと判断し、午前中で切り上げてきた。

「一旦リセットしよう。0からまた考え直すしかない」

「相手の動きが気になるな。早ければ今日にでも本を見付けてもおかしくはない。何とか奴らの様子を調べたい所だ」

「だがそう簡単にはいかせてくれないだろうな……奴らは全員異能力者だ。不用意に近付くと何をされるかわからないぞ」

「ふ~む……」

 ミミミは爪楊枝を咥えて昨日役場から持ち帰ったコトトネ町の地図を広げていた。どこか怪しそうな場所は無いか探しているのだろう。

「手がかりをわざわざ残して、しかもそれを見付けろと送り付けてくる……だったら絶対にわからない場所には隠さないはず……」

 今回の対象となるコロンシリーズの著者はすでに亡くなっているとの事だ。自分の死から一定の時間が経ったら本の隠し場所の手がかりを然るべき団体……つまり暦史書管理機構へ伝える様親密な友人へ頼んでいたらしい。

「岩戸は洞窟の例えだとすると……まだ候補は残ってるかも」

 いつの間にか資料を地図から冊子に持ち替えていたミミミがぽつりと言った。

「本当か?」

「これ」

 それは戦後の町の様子を紹介したページ。そこに載っているのは「防空壕跡」という言葉だった。

「ツルギ山には大戦当時防空壕が掘られてる」

「なるほど……行く価値はあるな」

「全員で行く?」

「いや、廃坑ほど大きくもないはずだ。せいぜい3人いれば十分だろう。念の為また私が行くが……あとのふたりは適当に決めてくれ。風見以外でな」

「俺はまた足か……まあしょうがねえ。こっちはこっちの仕事をやるだけだ」

「ほいじゃじゃーんけーん……」


 じゃんけんの結果、防空壕跡にはミミミ、アプリコット、ヤンの三人が行く事になった。シドと風見はツルギ山の麓で彼らを降ろした後一旦別れた。ふたりは再び町内の探索に向かう。一昨日は車で見て回ったが見落とした場所は当然無いとは言えない。そこで今度は車を停め、歩いて他にそれらしき像が無いかを探してみる事にした。

 集合時刻を決めてふたりは単独行動に出た。誰か町の人間が歩いていたら呼び止めて聞き込みを行ってみるのもいいかもしれない。もしかしたら像が立っている意外な場所がわかるかも。個人宅の庭にひっそりと置かれていたりとか。とにかく何でもいいから手がかりを見付けなければ。

 歩き回ってしばらく経った頃、たまたま通りかかった老婦人にシドは話を聞いてみた。

「う~ん、私はもうずっとここに住んでるけど、昔っからある女の人の像なんて知らないねえ……あ、役場のは見た?」

「あー、それは、はい」

「じゃあもう分かんないなあ……コトトネの古いもんを探してるのかい?」

「え~っと、まあ、はい。ちょっと調べ物というか何というか」

「へえ~そう。わざわざ東京から来て……学生さんは偉いねえ。この町は……」

 老婦人は突然コトトネの歴史について語り始めた。自分の住む町に見知らぬ学生が興味を持ってくれる事が嬉しいのだろうか、よく喋る。聞いていてもあまりコロンシリーズの隠し場所とは関係が無さそうに思えるが、シドはとりあえず適当に相槌を打っていた。あんまり長話に巻き込まれたくはないんだけどなあ……今はツルギ山の防空壕の話をしている。それは今調査中です。

「ああそうそう、昔からある物といえば井戸があるよ」

 最早話のほとんどを聞き流していたシドだったが、次々と流れてくる言葉の中からこの言葉だけにぴくりと反応し拾い上げた。反射的に聞き返す。

「井戸?」

「うん。私が小さい頃からあってね。ずいぶん昔に水が出なくなっちゃったみたいで。もう長い間ずっとフタをされてるよ。ここの人もあんまり知らないんじゃないかな」

「……それってどこにあるんですか?」

 老婦人に枯れ井戸の場所を教えてもらい、早速向かう事にした。「井戸」という字面が気になったのだ。教えられた通りに道を進んでいくと、人気の少なくなった林の入口にぽつんとフタをされた丸井戸があった。直径は一メートルほどだろうか。

「……『岩戸の深奥』……」

 目の前の井戸は石で出来ている。

「……まさか、な……」

 しかしもしも防空壕跡にコロンシリーズを見付ける事が出来なかったらみんなに話してみるのもいかもしれない。そう思って彼は踵を返した。


「ほんとにこの町にあるのか?」

 アプリコットが車中でぼやく。防空壕の中にもそれらしき物は無かったらしい。

「住民に聞いたんだが、敵ハンター(あいつら)は昨日も今日も西の方で見たってよ。そっちには森とか、あと川とかがあるそうだ。そこら辺を探してるみたいだな。向こうはヒントについて俺達とは違う解釈をしたんだろうか」

「……」

 ミミミは先ほどから黙って何か考え事をしている。シドは思い切って先ほどの枯れ井戸を話題に挙げてみた。

「石で出来た枯れ井戸か……つまり少年は、岩戸っていうのはそれを指してるって言いたいんだな?」

「推測ですけど。字面的に何となく」

「なるほど。尽く宛てが外れた今、少しでも気になった事はどんどん言ってくれ。よし、今からちょっとUターンするか?」

「しかしもう暗くなるぞ。敵も全然違う所にいるみたいだし明日にしないか。逸る気持ちはわかるが」

「……わかった。みんな疲れてるしな。それに焦ったら成せる事も成せないからな。今日はもう休んで明日に回すか」


 ブックハント四日目。昨日シドが発見した枯れ井戸に全員で向かった。重たい鉄のフタがその口を塞いでいるが、全員で協力して何とか動かす事が出来た(ミミミはひとりだけ力を入れているふりをしてサボっていた。そういう女である)。

「分厚いフタのおかげで水は全然溜まってないみたいだ」

「なら予定通り中に入れるな」

「よーし! 誰が行く?」

 ミミミがメンバーを見回した。全員の視線が彼女に注がれている。

「ん? 何? そんなに見つめられちゃ照れるよ」

「ここは一番ちっこいお前以外無いだろ」

「は!? ボク!? やだよこんなきったねーとこ! 髪も汚れるし! ここは眼鏡をかけてるシドだろ!」

「眼鏡は関係ねーだろ!」

「その眼鏡で井戸の底の見えない真実が見える様になるんだろ!」

「何のゲームだよ!」

「わかったわかった、俺が行くよ」

 風見が車の中から道具を取り出して準備を始めた。ロープを腰に巻き、もう一方を地面に刺したアプリコットの傘にしっかりと結び付ける。異能力で強化された傘は揺らぐ事無くしっかりと地面に打ち付けられている。

「じゃあ行ってくる」

 ライト付きのヘルメットを装着し彼は両手両足をべったりと丸井戸の内側に付けながらゆっくりと下りていった。

「体力あるんだなあ、風見さん……」

 しばらくして底に着地した様だ。声が聞こえてきた。

「今底に着いたぞ!」

「どんな感じー!?」

 ミミミが返事をした。

「少しだけ水が溜まってる! ……駄目だ! 何も無い!」

「……ここも違うのか……」

 一行は落胆した……が。

「いやちょっと待て! 側面にへこみがある!」

「お!?」

 その声に反応し、全員が中を覗き込んだ。

「……これはビンゴかもしれねえ! 何かがへこみの部分に隠されてるぞ! …………箱だ! 鉄の箱があった! ちょっと待て! ロープを箱に結ぶ! …………よしいいぞ! ロープを引き上げてくれ! ゆっくりな!」

「いよっしゃあー!」

 喜ぶ一同。ミミミはガッツポーズをしていた。

 シドはヤンと一緒にゆっくりとロープを引っ張った。やがて丸井戸の中から小さな鉄の箱が姿を現す。

「おお! 何かそれっぽい!」

 ロープを解いている間に風見も戻ってきた。

「どうだ? どんな感じだ?」

「鍵は……無いっぽいな……フタが硬い……よっ」

 ヤンが箱をこじ開けると、中には黒い表紙の古びた文庫本が一冊入っていた。

「! こっ、これって……!」

 シドはごくりと唾を飲み込んだ。これが、この本がコロンシリーズ……!

「いや待て」

 アプリコットが期待に釘を刺す。

「ミミミ、さっさと鑑定しなよ」

「ほいほい、言われなくとも……っと。ふむ、手触りはそれ相応の年季もんだな。紙が結構傷んでる。よーし、異能力!」

 ミミミがかっと目を見開いた。

「突然何言ってんのお前」

「いや何か宣言した方が異能力物っぽいじゃん」

「いいから早く仕事しろよ」

「へいへい」

 本を見つめていた彼女の目が虚ろになった。異能力を発動する時、つまりイデアに干渉をしている時はこの様な状態に陥るのだ。彼女は今目の前の本の心を読んでいる。ページを捲らずして内容を読める彼女の「読書」能力。実際に目で読むよりも速く正確に内容を理解する事が出来る―――。

 しかし、五秒ほどで彼女は大きく舌打ちをした。

「こいつは偽物だ」

「!? は!? マジかよ!」

「嘘だろ……」

「も、もっとよく読んでみたらどうだ」

 あまりにも早過ぎる結論に動揺を隠しきれない一同。今度こそ見付けたと思ったのだ。

「よく読むも何も、読まなくてもわかるっつの」

「どういう事だ?」

「今回のコロンシリーズは上下巻構成で2冊に分かれてるってユッコちゃんが言ってたじゃん? って事は心もふたつが合わさって完璧なひとつの心になる訳。でもこの心はこれだけで欠損が無い心として出来上がっちゃってる。これだけで完全なの。多分中身は適当にそれらしい事が書かれてるんだろうけど……心までは偽れないね。こいつは偽物だよ」

「なっ……よくわからんがお前がそこまで言うって事はそういう事なのか……くそっ、やっと見付けられたと思ったのに」

「先を越されたか……」

「で、でも敵に取られたとは限んなくねえか? もしかしたらどっかの誰かがずっと前に何らかの理由で見付けてたとか」

「いや、わざわざ中身をよく出来た偽物にすり替えてたんだ。そんな事をする理由はボク達を騙すため以外に無いっしょ」

「た、確かに……」

「……ったく、ボクもナメられたもんだよ。こんなもんで騙せるとでも思ったのかね……にしても気になるな」

「何がだよ」

「敵さんはずっとこっから離れた全然違う所で探し回ってたんでしょ? あとシドが言ってた婆さんによると、この井戸は住民すらもあんまり知らないらしいじゃん。んでタイミング的に向こうが本を取ってったのは昨日の夜から今朝の間。何かもやもやするんだよね」

「……確かに、僕らがほんとに一足遅かったんだよな」

「……」

 ミミミは少しの間黙った。

「逆じゃない? 向こうが一足早く取りに来たんじゃない? ボクらに取られる前にさ。どうもタイミングが良すぎる気がする。勘だけど」

「一足早くって……それじゃ向こうが僕らの動きを知ってるみたいな言い方……おいちょっと待て、お前が言いたい事って……」

「この中の誰かが向こうと繋がってんじゃないのかな」

時のオカリナは色々と怖かったです。

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