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Vol.23:コロンシリーズ再び(4)

シンおじさんはおちゃめ。

 日はすっかり暮れてしまった。山あいにあるコトトネ町の夜は五月も半ばを過ぎているというのにまだ肌寒い。初日のブックハントを終えたチーム暦史書管理機構は疲れを落とすために露天風呂へと足を運んでいた。

「あ〜疲れた〜」

「全くだ……ブーツであんな所行くものじゃないな。足が痛い」

 湯に浸かっていたアプリコットは脚を曲げ、足の裏をほぐし始める。

「じゃあ像探しにしとけばよかったのに」

「言ったろ。坑道に入るには戻る時の道標が必要だ。私くらいしかそういうのを出来る人間がいないだろう、この面子だと」

 ユウコやシンによると異能力は物の「心」に干渉する事で発動するらしい。ミミミの読書能力も本の心に触れる必要がある。アプリコットの異能力は「傘」だ。彼女は今回のハントに愛用の傘を何本か持ってきている。それを道中地面に刺していき、帰りはその心を感知する事で来た道が分かるという理屈だ。

「……相当疲れてるみたいだねえ、ゴリ子」

「ゴリ子って言うな……ああ……あ? 何だその顔は……おい何をする、よっ、よせっ、あっ、あああああ〜〜」

「いやあお客さあん、足の裏がかなり固くなってますねこれはけきゃきゃけけけきゃきゃ」

「あっ、やめっ、んっ、そこは駄目っ、あっ、あああああっ!!」


 柵の向こうがめちゃめちゃ気になるっっっ!!!!

 一方隣の男湯。シドは何食わぬ顔でお湯に浸かりつつも全力で耳を(そばだ)てていた。一体柵の向こう側では何が行われているというのだ。なぜアプリコットの喘ぎ声が聞こえてくるというのだ……!

「コロンシリーズかあ……一体どんな事が書かれてるんだろうなあ、少年」

 一緒に湯に浸かる風見が話しかけてきた。この場には今シド達しかいないため、堂々とコロンシリーズの名を口にしても問題は無い。

「え? さあ何なんすかね」

 今話しかけてくんじゃねえ風見さん! 僕は今聞き耳を立てるのに忙しいんだよおっ! 彼は適当に返事をした。

「あの嬢ちゃんは中身を知ってるんだよな」

「嬢ちゃん? ミミミの事っすか? そうらしいっすね」

 女湯からはばしゃばしゃと激しい水音が聞こえてくる。ごくりとシドは唾を飲み込んだ。

「オイラも知ってるけどな」

 しかしその音を掻き消す様にヤンまでもが会話に参加してくる……しょうがない、諦めてこのむさ苦しい現実を受け入れよう……シドは弱く息を吐いた。

「極力情報を広めたくないというのがユウコ様のお考えだ。たとえ仕事を依頼されたといってもお前達はあくまでも部外者。与える情報は必要最小限に抑えたいのさ」

「ミミミも中身を知ってるって言ってもおそらくこんな事が書かれてるだろうっていう程度らしいっすよ。ユウコさん達も詳細まではさすがに把握出来てないみたいで。ただ誰について書かれてるのかと、あとタイトルは聞いてるみたいっす」

「信用されてねえんだなあ俺達は」

「そういう訳じゃない。ただ情報はどこから漏れるか分からんからな。念には念を入れてだ」

「……まあいいか。契約した以上は仕事をこなすのがプロってもんだ。ところで少年よ、君はあの嬢ちゃんとはどういう仲なんだ?」

「ただの腐れ縁っすよ。さっさと切りたいんすけどねえ」

「君もオイラみたいに早くいい娘が見付かるといいな」

「ええと……リリィさんでしたっけ?」

 でもそれって一方的に好いているだけなんじゃ……とは言わない事にした。

「ああそうだ。オイラとリリィたんは似た者同士……きっとお似合いだ」

 ……リリィたんも太ってるのかな?

「ところで坑道はどんな感じだったんだ」

「思ってた以上に広かった。入口から30分くらいで採掘場に着いたがまだ先があったな。ある程度そこで地面を掘ったりしてみたがそれらしい物は見付からなかった。で先に進む途中で日暮れが近付いたから引き返してきた。明日は今日の先まで行ってみる予定だ。分かれ道もあったしまだまだ進めそうだよ」

 アカド山に車でふたりを送りに行ったが、坑道入口近くは人の気配は全く無かった。周辺は当然閉鎖がされていたがただの鉄柵だったため侵入する事は容易だった。坑道入口の扉はアプリコットが異能力で壊したそうだ。もう長らくほったらかしにされ、役場の目さえも届いていないのだろう。ちなみに発掘用のシャベルは道中立ち寄ったホームセンターで購入した(もちろん後から経費として申請するつもりである)。

「そっちはどうだったんだ」

 シド達像探し班は今日はサーチングだけで終わった。町内を車で回り女性の像を三体発見した。一体は役場の前、一体は公園の中、そして残る一体は小高い丘の上にある展望台だ。いずれも各々の施設の完成を記念して立てられた様な物だろう。全てコロンシリーズのヒントのメモが書かれた五十年前には既に存在していた様だった。

「俺達の方は明日像の周りを詳しく見てみる。もしそっちに人が必要になったら言ってくれ」

「わかった」


 ブックハント二日目。この日より朝から行動を開始する。まずは昨日と同じ様にふたりを坑道入口まで送った後、シド達像探し組は像の一体が立つ高台にある展望台へと向かった。ここが一番人気が少なくハントをしやすいと思ったからだ。

「さあて、それじゃ宝探しといこうじゃねえか」

 ここの像は空に向かって手を差し伸べている女性の像で、およそ二メートルほどの高さの台座の上に乗っている。三人は各々シャベルを手に持ち台座の周りの地面を分担して掘っていった。土はかなり固まっており、シドが力を入れてもシャベルは少ししか穿ってはくれなかった。

「これは結構時間がかかるぞ……」

 一時間ほどが経過した。それぞれ差はあるが大体一メートルほどは掘り進んでいた。だが誰もコロンシリーズらしき物は発見出来ていなかった。

「こっ、これっ……どれくらいまで掘るんすか? はあ、はあ……」

「そうだなあ……人が埋めるんならせいぜいこれくらいの深さだよな……はあ……よし、一旦休憩だ。少し休んだら場所をずらしてまた掘ってこう」

「うー、腕が痛い……」

「はっは、嬢ちゃんにはこういう力作業は少しきついな」

「これじゃバットでシドを叩けない」

「よしどんどん掘れ! その腕が使い物にならなくなるまでな!」

 掘っては休み、掘っては休みを繰り返す事五時間。台座の周りを一通り掘り起こしたが結局コロンシリーズを見付ける事は出来なかった。

「は、外れか……」

「ま、まあまだ1/3が外れただけだ。残りのふたつのどっちかの下に埋まってるかもしれねえ」

 風見はバンダナを外して髪を掻き上げた。ずっと陽光の下で作業をしていたため三人とも汗だくである。おまけにまだ昼食を取っていない。予定ではこの場所の発掘は午前中で終わらせるはずだったのだ。

「は、腹減りましたね」

「おおそうだな。飯を食いに行こう。来る途中に定食屋があったはずだ」

「肉食いたい! 豚カツ! 唐揚げ! ひゃっはー!」

 ミミミが車の方に走り出す。

「おい何だよまだ全然元気じゃねーか……食費も経費で落ちるんだ。好きなもん食おうぜ」

 彼らは素早くシャベルを車に積み込み、一目散に定食屋を目指した。腹が減っては何たらである。


「今頃あっちのふたりはどうなってるだろうな」

 白飯を口いっぱいに頬張りながら風見が言った。

「もぐもぐ……上手い事いけばいいんだが」

「次の目的地は公園っすね」

 彼の向かい側に座るシドは唐揚げを箸で摘まむ。

「だな。役場の方は明るい内は無理だ。あそこは人目につきすぎる。公共施設の公園や展望台だと堂々とやってても案外怪しまれないもんだが、さすがに役場の前はな」

「その前に、あっちの方はどうやって掘り起こせばいいのかまだ決まってないしね……んあーむ……んぐんぐ」

 ミミミはソースたっぷりの豚カツに噛み付いている。

 そうなのだ。役場前の像には少し問題がある。他の二ヶ所の像は台座ごと土の上に立っているのだが、役場の前にある聖母像のみコンクリートの地面に直接設置されているのだ。コンクリートなどシャベルで掘れるはずが無い。

「公園の方にあってくれたらいいんだが……まあもし公園に無かったら考えよう。おそらくアプリコット嬢やヤンの異能力を借りる事になるだろうな」

「あんちゃんの異能力は使えないの? ……もぐもぐ」

「俺か? 俺の力だと地面を掘るんじゃなくて、像の方を引っこ抜く事に……!」

 話している途中で風見が言葉を切った。入口の方を注視している。

「どったの? 舌噛んだ?」

「……おいでなすったんじゃないか?」

「?」

 ミミミとシドも振り返って入口の方を見た。扉の近くには複数の外国人の姿があった。人数は四人。確か今回コロンシリーズを狙ってイギリスからやって来るというブックハンターの人数も四人だったはずだ。

「! ……あ、あれってまさか……」

「……あらら、まだ片方も見付かってない内からライバルの登場か」

 まじまじと見ていると四人の外人の中のひとり、スーツ姿の茶髪の男がシド達の視線に気付きゆっくりと近付いてきた。彼の仲間もぞろぞろとその後に続く。

「あ、いやあすまない。外人を見るのが珍しくてな、ついじろじろと見つめちまった。不快にさせたなら謝ろう」

「いやあいいんだ。別に怒ってる訳じゃない。同業者にあいさつでもと思ってな」

「同業者? 何を言ってるんだ?」

「おいおい、隠すこたあ無いぜジャパニーズ・ガイ。お前達は俺達と同じ、明らかによそもんだ。それに目を見りゃあわかる。お前の目は獲物を狙う目だ。俺はそういう目の奴を今まで仕事で何遍も見てきた。それに俺自身も同じ目をしてるしなあ」

 男の金の瞳が三人をぎろりと睨んだ。この男、目つきが鋭い。目が合うと身震いしそうだ。

「ボクはあんたみたいに目つき悪くないけど」

「お、おいミミミ何言ってんだよ急に!」

「ほう、威勢のいいガールだ」

 男は背筋を曲げ、自分の顔をぐいっとミミミの顔の前まで寄せる。

「だがなガキ、コロンシリーズを手に入れるのは俺達だ」

 今確かにコロンシリーズと言った。こんな大衆の前で堂々と。やはり間違い無い。この連中が敵ブックハンターだ。

「……おっさん息臭いよ。歯磨いた?」

「……ふんっ、生意気だな、ジャパニーズ・ガールは」

「……しょうがないなあ、僕の華麗なる異能力で……」

 男の後ろから帽子をかぶった金髪の青年が前に出てきた。

「やめておけキース。こんな所で揉め事を起こしてどうする。全く、好戦的過ぎるんだよお前は。俺達の狙いはあくまでもコロンシリーズだ。無駄な争いは避けろ」

「……ジェイクがそう言うなら」

「……おなかすいた」

 誰かがジェイクと呼ばれた男のスーツの裾をくいくいと引っ張った。七、八才ほどの青い髪の女の子だ。熊のぬいぐるみを抱えている。

「チャッキーもおなかすいたって」

「そうっスよ! 腹減ったっス! さっさとご飯食べましょう皆さん!」

 金髪の少女も手を挙げていた。ミミミやシドと同じくらいの年に見える。

「ああそうだな。ま、お互い頑張ろうぜ、暦史書管理機構さんよ」

 ジェイクがそう言い残し外国人ブックハンター四人はシド達から離れた奥のテーブルに向かった。

「…………い、一触即発って感じだったんすけど……」

「そりゃあ俺達は敵同士だからな。あのスーツがリーダー格か」

「な、何か今にも暴力沙汰にでもなりそうな雰囲気だったんすけど……誰かさんが挑発しかけやがるしよ……」

「ナメられる訳にゃいかないっしょー」

「と、とにかく僕を危険な目に遭わせないでくれ」

「さっさと食って次の目的地に行くか」

 三人は食事を再開した。


「……あいつら出ていったね」

 しばらくした後、食事を終えた三人が出ていくのを離れた席で眺めていたキースが言った。

「ああ……ところでよキース」

「何?」

「……俺の息ってそんなに臭い?」

「……ああ、えーと、そ、そうでもな、ないよ」

「あれ!? マジ!? マジなパターンだったのさっきのガール!」

ついに登場しました敵ハンター四人。次出てくる頃には多分他のふたりの名前も決まっているんでしょう……。

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