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Vol.22:コロンシリーズ再び(3)

ミミミ(とシド)は他のブックハンターと共同でコロンシリーズのハントを行う事になりました。

 コトトネ町は埼玉県の最奥の山間部に位置する。東京都心から途中高速道路を経由し三時間弱。町の東にそびえる標高2000mのツルギ山は登山シーズンになると登山家が訪れるスポットとなっている。一方北側に座すアカド山は鉱山であり、かつては石炭などが採掘されていたそうだがやがて鉱物が尽き、60年ほど前に閉山に至った。この町が暦史書管理機構日本支部埼玉班に届けられた書簡に書いてあったコロンシリーズが隠されている場所、つまり今回のハントの舞台となる地である。

「おいミミミ、起きろ。着いたぞ」

「んあ? もう朝?」

 ワンボックスカーの最後列を独占し横になって熟睡していたミミミの体をシドは揺らした。彼女は寝ぼけてお決まりの台詞を吐いた。

「はっはっはっ、愉快な嬢ちゃんだ」

 運転席の風見が朗らかに笑う。この車は暦史書管理機構により支給された物だ。シドはアプリコットと共に二列目の長いシートに座っていたが座り心地はなかなかよかった。世界規模の大きな組織らしいしいい車を手配してくれた様だ。

「のどかな町だな」

 助手席のヤンが窓から景色を眺めながら言った。

「ああ、確かに。空気が美味そうだ。絶好のハント地じゃねーか」

「田舎の良さは私にはわからん」

 アプリコットは携帯をいじっていた。ミミミがその後ろから身を乗り出す。

「珍しく気が合うじゃんゴリ子」

「ゴリ子って言うな」

 ミミミも彼女の意見に同意していた。ミミミは青梅の実家近辺の雰囲気をあまり好んではいない。都会の方が好きなのだ。都心生まれ都心育ちのシドにとっては逆にこういった風景はなかなか見れないので新鮮である。

「んで何見てんの」

「別に。適当にツイーターを覗いてるだけだ……あのシンとかいう男からリプが来てるな……」


『@apricot 今日からいよいよハントだな! 頑張ってくれ。俺は仕事で行けないが陰ながら応援してるぜ|д゜)チラッ』


「……ブルッ」

 アプリコットの体が震えた。

「何か寒気がしてきた」

「……気持ち悪くなってきた。酔ったかな」

「しかもこのおっさん、フォロー数に対してフォロワー数が圧倒的に少ない」

 どうやらシンのプロフィールを見ている様だ。そのままタイムラインを遡っている。


『明日からいよいよ潜入任務だ! 腕の見せ所だぜ!』


「言っちゃ駄目じゃん!」


『昨日から任務で大阪ミナミに潜伏中。今夜は串カツ食べたいな……』


「だから潜伏になってないじゃん!」

「しかもこいつの呟きに対していいねしてるアカウントが尽く出会い系だ」

「……もう少しおっさんに優しくしてあげよう」

「……お前ら、頼むから同僚の情けない姿を見ないでやってくれ」

「情けない姿しか知らないんだけど」

 そうこうしている内に宿泊予定の小さな旅館に着いた。今日から一週間滞在予定で、ここが今回のハントの拠点となる。もちろん費用は管理機構持ちだ。

「チーム暦史書管理機構、作戦基地に到着だ」

「おい、あんまり機構の名前を口に出さないでくれ。秘密結社なんだぞオイラ達は」

「ああそうか、すまねえ」

 風見の先導で一行はチェックインを済ませた。今回の宿泊の名義は「地理地質調査研究会」という適当な団体になっている。部屋は男部屋と女部屋で計二部屋。食事は朝夕の二食付きだ。

「へえ~露天風呂あんじゃん。今日のハン……調査が終わったら行こうぜゴリ子」

 何だかんだで仲のいい姉妹の様にも見えるふたりである。

 各部屋に一旦分かれて持参していた食事を取った後、今日これからの予定を確認するために一行は男部屋に集まった。

「よし、全員集まったな。それじゃあミーティングだ」

 風見が率先してリーダーシップを発揮してくれるお陰で個性的な面々がひとつにまとまる。一緒に行動し始めてまだほんの短い時間しか経っていないが、シドはすでにこの男の性質を見抜いていた。親しみやすく面倒見のいい兄貴分である。

「まず暦史書のありかを示すヒントの確認だ。ヤン」

「ああ」

 ヤンが携帯を取り出し画面を操作する。実際の書簡の画像データを確認していた。万が一の情報漏洩を懸念してこのデータは機構の一員であるヤンのみが所持している。

「えーと……『御姫の御足元 岩戸の深奥』……だ」

「そう、俺達に与えられたのはたったそれだけの文言だ。この少ない手がかりから暦史書がこの町のどこにあるか探し出さなくちゃいけねえ。皆これについて何か考えてきたか。考察があったら話して欲しい」

「はい! 今聞くまですっかり忘れてました!」

 ミミミが手を挙げて即答する。こいつはやる気があるのか無いのか。

「はい。考察も何も無いが、素直に考えた場合お姫様の足元と岩の扉の奥深くに2冊のコロンシリーズがそれぞれ隠されているんだと思う」

「そのまんまだな」

「だから素直に考えた場合って前置きしただろう」

 アプリコットの発言にヤンが答えた。

「じゃあそのお姫様と岩の扉を探せばいいだけじゃん!」

「お姫様って……こんな日本の片田舎にそんな人いねーだろ。何かの例えだろ」

「わかんないよ? どっかの外国の王家の血を引く人がこの町に嫁いできたとか」

「けど今のメモが書かれたのは50年前だぞ」

 ユウコによると、先ほどヤンが読み上げたコロンシリーズのありかを示す文言が書かれた紙は暦史書管理機構宛てに書かれた手紙に同封されていたらしい。書簡を送った人物がコロンシリーズを書いた作者に託されたのだ。

「50年前のそのお姫様が2016年の今生きてるとは限らねえよ。実在の人物じゃないんじゃないか」

「それに足元っていうのは何なんだろうな」

「靴底! 靴底だよ! そうだそれだ! 50年前お姫様が履いていた靴の中に隠されてるんだ! その靴を探そう!」

「コロンシリーズ小さ過ぎか」

 今回探すコロンシリーズはA6判……いわゆる文庫本サイズだという話なのだが、それにしても靴底に隠すのは難しいだろう。

「うーむ……この町のどこかにお姫様の像……ないしは女性の像が立ってるとかいうのはどうだ。そしたらその下に埋まっているのかもしれない。足元っていう表現も納得がいく」

「事前に少しネットでこの町について調べてきたがそういった情報は無かったぞ。そういうのってオブジェみたいな感覚で観光情報とかに載っている気がするんだが」

「しかし、いちいち全部の地蔵が紹介されてる訳でもないだろう? あのテのは」

「まあ、確かに。自分で言っておきながらネットの情報だけで終えるのも馬鹿馬鹿しいしな」

「じゃあ、調査対象のひとつはこの町に立っている女性の像、と……そういう事でいいんだな?」

「異議なーし」

「オーケー、次だ。岩戸の深奥……これは岩の扉っていうよりは天岩戸(あめのいわと)を連想した方がいいんじゃないか? 俺は真っ先にそっちを思い浮かべたが」

「アメノイワト……確か日本の神話に出てくるんだっけか」

「ああ。天照大神(あまてらすおおかみ)が引きこもったっていう洞窟だ。洞窟って聞いて何か気付かないか?」

「洞窟……洞窟と言ったら……暗闇?」

 風見に質問されヤンが首を傾げつつ言う。同意が欲しいのかアプリコットの方を向いていた。

「暗闇と言ったら……お先真っ暗」

「お先真っ暗と言ったらシドの人生!」

「マジカルに僕の人生を真っ暗くすんなよ! ……てかそんなんじゃないんじゃないすか? 洞窟っつったら坑道ですよ」

「そうそれだ」

 風見がぱちんと指を鳴らす。

「坑道。つまり鉱山だ。アカド山は55年には閉山になったらしいじゃねえか。コロンシリーズのありかのヒントのメモ書きが書かれたのはそれから10年後……コロンシリーズが隠された時にはすでに鉱山が閉まっててもおかしくはねえ。隠すには持ってこいの場所じゃねえか? 誰も立ち入らなくなった坑道は」

「なるほど……だったら目的は決まったな」

「女性の像探しと、アカド山の坑道探索……か」

「二手に分かれるか?」

「ああ、全員で坑道に入って迷っちまったら誰も助けに来れないからな。少なくとも誰かひとりは外に残しといた方がいい。外の人間が像探しをしよう」

「私は道標を用意している。坑道に入った方がいいだろう」

 アプリコットが鉱山探索に進んで名乗り出た。

「そうか……他にどっちがいいか希望があるのはいるか?」

「像を探すには足がいる。運転出来る風見が外に残るべきだと思う」

「確かにそうか……俺としては坑道に行きたかったがやむを得ん」

 話し合いの末、アプリコット、ヤンが坑道探索、そしてミミミ、シド、風見が像探しに決定した。

「よーし、そうと決まったら早速ハント開始だ!」

シンおじさんほんと便利。志室さんごめんなさい。

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