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Vol.21:コロンシリーズ再び(2)

ミミミを訪ねてぞろぞろと古詠堂書館に来客が。

 コロンシリーズ。その名前をシドはかつて聞いた事があった。というか昨年ミミミと共にハントした。結局見付ける事は出来なかったが……。

「……ロリコンシリーズ? 何それ」

 しかしミミミは聞いた事が無いと首を傾げる。

「いや知ってんだろコロンシリーズ! 去年探したぞ! ほら結局見付からずに他の黒歴史が見付かった件だよ!」

「俺が依頼人として初めてお前にコンタクトを取った件だぞ」

「え? 見付からなかった? ハントに失敗したって事? 記憶に無いなあ」

 シドとシンが続けて話をするが、やはり彼女は知らないと顎に手を当てる。あ、そうか、こいつ失敗したハントは無かった事にするんだ。

「……覚えてらっしゃらないのでしたらまず、コロンシリーズとは何なのか、という所から説明しなければいけませんね」

 ユウコは丁寧に説明を始める。いい娘やこの娘……。

「コロンシリーズは日本語では暦史書と呼ばれていて、簡単に言うとある出来事についての記録です。その出来事に関する主要な人物の名前と西暦を(コロン)で挟む事が表題に共通するルールとしてある事からそう呼ばれています」

「シリーズって事は何冊かあるの?」

「無限に」

「無限にって……どういう事?」

「今申し上げた『ある出来事』というのが文字通りの意味だからです。かつて世界を揺るがせた大災害について書かれた物もあれば、今夜の晩ご飯の買い物について書かれた物もあります。『コロンシリーズはどこにでもある』。そう仰った方も以前いらっしゃいました」

「釈然としないなあ……」

 ミミミはもう一度ユウコの名刺に目を通す。

「暦史書管理機構日本支部……ユッコちゃん達は世界中に無数に散らばってるそのコロンシリーズとやらを収集して管理してる団体って事?」

「仰る通りです。元々コロンシリーズは重要な出来事を中立的な立場から記録した物でした。そこには宗教的な歴史認識の違いから、大きな争いに発展する可能性がある記述も存在しています」

「たとえばボク達が当たり前だと思ってる世界共通の認識もひっくり返る様な?」

「そういった事柄もあります」

「……」

「私達はそういった世界の混乱を防ぐためにコロンシリーズの保護、保管を行っている団体だと思って頂ければと思います」

「ふ~ん……」

 くるくるとミミミは指で髪をいじり始める。

「で、そのコロンシリーズのひとつを探して来て欲しい、ってのが今回の依頼な訳ね……ちなみに何で自分達で探さないの? いやこっちとしては仕事が入ってきて嬉しいんだけどさ」

「……そうですね、では今回のターゲットとなるコロンシリーズに触れつつ、その経緯をご説明致します。埼玉班―――地方の支部です―――にとある人物から書簡が届いたそうです。そこにはコロンシリーズが隠されている場所の手がかりとなるメモが添えられていました。その報告を私が受けたのが3日前です。早速人員を集めて調査、収集に向かいたかったのですが、他の業務やスケジュールの都合でなかなか確保出来ないでいました。そんな中イギリス支部からもうひとつ別の知らせが届きまして……どうやらイギリスで活動していたブックハンター達がそのコロンシリーズの情報を聞きつけて、日本に向かったらしいという物でした」

「もたもたしてたら横取りされそうになっちゃったって事ね」

「お恥ずかしながら……そこでこちらもブックハンターに依頼しようという話になったのです。目には目を……というのは少し違いますが、プロのブックハンターにはこちらもプロのブックハンターを立てようと。探書能力においてはあなた方の方がやはり優れている部分はありますので」

「そこで俺がお前の名前を挙げたって訳だ」

 シンが得意気に言った。

「なるほど……」

 ミミミも腕組みをする。

「しっかし、敵は何人いんのよ。こっちはふたりしかいないからさ、単純に数の差で不利になるかもしんないんだけど」

「ひとりです! ブックハンターはひとりだけです!」

 シドが声を上げた。

「情報では4人と聞いています」

「しかも面倒な事に、全員が異能力者ときたもんだ」

 ユウコの後にシンが補足を加える。聞き慣れない言葉が出てきた。

「イノーリョクシャ? 何それ美味しいの?」

「異能力……科学では解明出来ない不可思議な力を使う奴らの事だ」

「えっ、作風が迷子になってない? ネタが切れたかこの作者」

「何の話をしているのかさっぱりわからんが……お前も持ってるだろう」

「へっ? ボク?」

「お前のその『読書』能力とやらも立派な異能力だよ」

 ミミミは本の心を読む事で実際に目を通さなくてもその内容を知る事が出来る。たとえそれが彼女の知らない言語で書かれているとしてもだ。それがあの母親から受け継いだ遺伝子の為せる技。そういった超能力じみた現象の事を彼ら暦史書管理機構の人間は異能力と呼称しているらしい。

「おっさんに話したっけ?」

「悪いが調べさせてもらった」

「イヤーッ! 変態! 痴漢! おっさん!」

「おっさんは別に悪くねーだろ! それに俺はまだ29だ!」

「ご安心下さい。実は今回の依頼はミミミさんだけではなく、他のハンターの方々と共同で行って頂く事になってます。全員が異能力者です……北条さん」

「はい」

 ずっと黙ってふたりのやり取りを見ていた北条が口を開いた。

「我々暦史書管理機構には異能処理班という異能力者の集団が存在しています。今回の依頼ではその中からひとりサポート・メンバーとして人員を送り出します。それがこちらのヤンさんです。普段から私やシンさんの諜報活動をサポートしてくれている心強い人です」

 ヤンは未だにうずくまって想い人であるリリィという女性の名をぶつぶつと呟いていた。

「えっ!? このデブが助っ人!?」

「まあまあ、あんまり馬鹿にも出来んぞ、こいつの能力は」

 またも立ち直れないでいるヤンの代わりにシンが答えた。

「聞いて驚け。ヤンはよく泡立つ」

「へえーすごいのうりょくだねえー」

「おいその紹介のしかたは悪意があるぞ!」

 聞き流せなかったのかヤンがやっと会話に加わった。

「水を操作してシャボン玉を作る。それがオイラの異能力だ」

「へえーすごいのうりょくだねえー」

「絶対思ってねーだろお前!」

「冗談が過ぎたが、実際空気が超圧縮されたシャボン玉を体に受けたら場合によっちゃあ破裂の勢いで肉片が弾け飛ぶぞ。それぐらい攻撃に向いてる異能力者なのは間違い無い」

「異議あり! だったらどうしてそれを使って自分の脂肪を削り取らないんですか! はあい論破あっ!」

「いちいちうるさいなお前! ……とにかく、今回の依頼は最悪相手ハンターとの戦闘も視野に入れてる。いざという時にはオイラがサポートする」

「おいおいおいおい何か物騒な話になってきてねーか……?」

 シドが思わず言葉を漏らした。北条が話を続ける。

「我々がミミミさんに依頼をお願いしているのはミミミさんの持っている読書能力を頼ってという点もあるのです。我々が今回のコロンシリーズにすでに目を付けているのを敵側は把握しています。従って彼らは予め暦史書のダミーを用意している可能性もあるのです。たとえば向こうがそれらしい適当な場所に先にそのダミーを仕掛けておいて、こちらがそれを偽物だと気付かずに持ち帰ってしまうと、競合相手がいなくなった状態でのんびりとハントを出来ますからね」

「それを極力防ぐために、ミミミさんには暦史書と思しき本を発見した際に簡易的な真贋鑑定を行って欲しいのです。今回探して頂くコロンシリーズについての基本的な情報……書かれた時期や、おそらくどういった事が書かれているのかといった事は予めお伝えしておきます。その推定内容と照合して本物か偽物か、どちらの可能性が高いのかを判断して欲しいのです」

「責任重大じゃん。で、結局こっちは何人でハントに向かう訳」

「ミミミさんの他におふたりのハンターにすでに声をかけています。お二方とも契約は成立しましたので、ヤンさんを加えて4人……ちょうど向こうと同じ数になりますね」

「そっか、じゃあこっちの方がひとり多い訳か」

「だから僕を数に入れるんじゃあないよ!」

「話がだいぶ長くなってしまいましたが、以上がミミミさん含めブックハンターに依頼を行った経緯になります……他にお聞きになりたい事はございますか」

「そのコロンシリーズは何について書かれてるの?」

「この場ではお答えする事は出来ません」

「……よっぽど重要な事が書かれてるって事か」

「この場ではお答えする事は出来ません……伝え損ねていましたが、今回のコロンシリーズは2冊になります。上下巻構成になっています。私達は両冊分の手がかりを入手しています。今回の依頼はもちろん両冊のハントになります」

「……ふ~ん……報酬は?」

「ひとりあたり200万になります」

「弾むねえ」

「依頼を受けて頂けるのなら明日にでも発って頂く事になります。急で申し訳ございませんが相手側に先を越される訳にもいきませんので」

「おい、今回は下りろ」

 シドはミミミの後ろから口出しする。

「相手はただのハンターじゃねえんだろ? 何かよくわからん超能力を使う連中だっつーじゃねーか。何が起こるかわかんねえぞ」

「……」

「それにそもそもこの連中は怪しい。コロンシリーズの事も含めてどこまで信じていいのかわかんねえぞ。その内宗教とか壺の購入とか勧められるかもしんねえし」

「私達が話した事は全て事実です。証明は出来かねますが」

「……確かに胡散臭さはある」

「おい! せっかく俺が持ってきたチャンスを!」

「いやそもそもおっさんもどこの馬の骨かわからんし」

「確かに!」

 シンはセルフツッコミをした。

「ん~、けどまあ……」

 ミミミは頬杖を突き改めてユウコと目を合わせた。そしてにやりと口角を上げる。

「ママが信じてるんなら大丈夫っしょ。あんな性格でも人を見る目はあるからね。乗った。コロンシリーズ2冊の協力ハント、引き受けるよ」

「! なっ! マ、マジか!!」

「すみませんシドさん、ミミミさんのご心配をして下さっているのに……」

「いや僕自身の危機回避をするための言い回しでしたからね! こいつの事なんてくっそどうでもいいんすよ!」

「ボクお前のそういうとこぶん殴りたいほど好きだよ」

 容赦無い一打。

「ふふっ。それでは早速チームの顔合わせといきましょうか」

「え? ここに来てんの?」

「ミミミさんなら絶対引き受けて下さると信じていましたから。何たってママさんの娘さんですからね」

 シンが書館の扉を開けると外で待機していたふたりの人物が店内へと足を踏み入れた。見知らぬ男がひとりと、見知った女がひとり。

「ゴ、ゴリ子!?」

「よう……ていうかゴリ子って言うな」

 ひとりはアプリコットだった。こうしてチームを組むのは二度目になる。そしてもうひとりのバンダナを巻いた男は意気揚々と名乗った。

「お初にお目にかかるな嬢ちゃん。風見鳥丸(かざみとりまる)だ。よろしくな」

「では改めまして……今回のハントはブックハンターの風見鳥丸さん、アプリコット・ブレイスフォードさん、妃ノ宮美海実さん……そして暦史書管理機構異能処理班よりサポート・メンバーとしてヤン・タオロンさんを加えた4名で行ってもらいます。よろしくお願いします」

 こうして役者は揃った。今回のターゲットとなるは「この世に存在してはいけない物語」とまで言われる禁断の書物、コロンシリーズ。果たしてそこにはどの様な暦史が記されているのだろうか。そして結局今回も巻き込まれる事になるシド少年は、これからのハントの果てに自らも関わりかねないちょっとした秘密をも知る事になるのである。

今回推敲の時点で下書きを見ながら説明を出来るだけわかりやすくするために台詞に手を加えたり順番をあれこれ変えたりしました。おかげでほぼ書き直し作業でした。お腹が空きました。

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