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Vol.20:コロンシリーズ再び(1)

ミミミは何だかんだでママさんの事が好きなのかもしれません。

 店内に客はひとりもいない。平日という事もあるし、こういう時間帯はしばしばある。ちょうど今本を読み終えた所だ。

「……」

 シドは静かにカウンターに設置されているパソコンのディスプレイに向き合った。マウスを操作しウェブ・ブラウザーを起動すると最近リリースされた麻雀ゲームのブックマークをクリックしてトップページを開いた。店番をしている時はよくこうして暇潰しにゲームをする。この麻雀ゲームは少女のキャラクターと対戦し、勝てばその相手が衣服を脱いでいく……といういわゆる脱衣麻雀である。人の目は無いし、やるなら今しか無い。

「今日こそは最後まで……」

 ごくりと唾を飲み込んでいざ対局開始。

 ……という所で店のドアが来客を告げるベルを鳴らした。ちっ、何だよせっかくこれからやろうとしてた時に狙ったかの様なタイミングで。慌てて彼はブラウザーを閉じた。

 しかしその苛立ちは来店客の姿を見た途端に一瞬で消え去る。現れたのは黒髪を綺麗に整えた同年代の少女だった。その髪と同じく真っ黒なワンピース姿がどこかミステリアスな雰囲気を醸し出しており、魅力的に見える。ビューリホー。ミミミとは大違いだ。

「……らっしゃいませー」

 見惚れながらあいさつをしたら彼女と目が合った。すると少女は一直線にシドの元へ向かってくる。彼はその魅力に取り憑かれたかの様に目を離す事が出来なかった。

「こんにちは。素敵なお店ですね」

「え? ああはい。ありがとうございます」

「あなたが店主さんですか? もう少しお年を召した方だと伺っていましたが」

「ああ、じいちゃんは今ちょっと出かけてて……」

「あら、そうなのですか……いつ頃お戻りになるかおわかりですか?」

 話しながら言葉遣いがしっかりしているな、とシドは感じた。誰かさんにも見習って欲しいものである。

「それはちょっと……大体いつも夕方に帰ってきますけど。じいちゃんに何か用ですか?」

「……ええ、まあ、はい……正確には違うのですが」

「? どういう事です? 僕でよければ代わりに伝えときますけど」

「……ここに来れば腕利きのブックハンターに会えると聞いて来たのです。店主さんがお知り合いだと伺っているので」

 ……何だ、またあいつ絡みか……。

 心の中で小さく溜め息をつき、彼は答えた。

「あー、はい、そーっすね。大丈夫っすよ、今から連絡取るんで」

「まあ、本当ですか? よろしくお願い致します」

 可愛い女の子の依頼ならしょうがない。彼は携帯を取り出してミミミに連絡を取ろうとした。

「失礼します」

 と、ちょうどその時ドアのベルが再び鳴る。スーツ姿の愛想のいい男が小太りの男を引き連れて入店してきた。

「あ、らっしゃいませー」

「ここですか、噂のブックハンターの少女とやらが現れる古書店は」

「今から連絡を取って頂く所です」

 スーツの男の問いかけにシドの目の前の少女が答える。なるほど、このふたりはこの娘の連れか。発信ボタンをタップしようとした所でまた扉が開く。何だよさっきから動作の途中で入ってきやがって!

「ほう、さすが神保町に構えているだけあっていい店じゃないか」

 今度の客には見覚えがある。

「! あ、あんたは……」

「よう、先日振りだな眼鏡君」

「……お、おっさん! ドライバーのおっさん!」

「シンだよ。名前覚えようか。2文字なんだからさあ……」


「はいは~い、あなたの心のブックハンター、超絶美少女ミミミちゃんだよ~ん……お?」

 シドに呼ばれてミミミが古詠堂書館を訪れた時にはすでにいつもの様に机と椅子がセッティングされていた。可愛い女の子を立って待たせる訳にもいかないとシドが率先して準備したのである。机は四つの本棚の間、ちょうど十字の通路に置かれており、店内奥のカウンター側の椅子に少女がすでに座っている。その背後にスーツの男、そして机の左右にそれぞれシンともうひとりの小太りの男が本棚を背もたれにして立っている。シドも店内入口側に同じく立っていた。椅子はふたつしか無いためしょうがないのである。

「何だよもうとっくに準備出来てんじゃん。エロい男は違うね~」

「褒めるかけなすかはっきりしてくんない」

「そいじゃ失礼」

 どっこいしょ、と彼女は空いていたもうひとつの椅子に座り黒髪の少女と対面する。ヘアゴムは先日母親から買ってもらった物に新調されており、花飾りの部分に元々使っていた物の蝶の飾りの部分が接着剤でくっついている。蝶が花の蜜を吸うのを模しているのである。工作はシドも手伝った。

「ボクを訪ねて来たみたいで。ボクが噂の超絶美少女ブックハンターミミミです。以後お見知りおきを」

「……ふふ」

 ミミミのあいさつに対して少女は何も言わずにただ彼女の顔を見つめて微笑むだけだった。

「……何? ボクの顔に何か付いてる?」

「いえ、すみません。ママさんそっくりなもので」

「! 何? ママの知り合い?」

「はい。ママさんには何度も助けて頂いてます。有栖川(ありすがわ)ユウコと申します。よろしくお願い致します」

 ユウコは名乗った後に名刺を差し出してきた。

「あら、ご丁寧にどうも……ユッコちゃんいくつ? 最近の若い子は会社経営とかしてるってマジだったんだ。こわ。現代っ子こわ」

 お前も現代っ子だろうが。僕もだけど。というツッコミをシドは口には出さない事にした。

「いえ、会社ではありません……ですがまあ、似た様な物かもしれません」

「……暦史書(れきししょ)管理機構……?」

 名刺に書かれた組織名をミミミは読み上げた。ユウコはその中の管理部に所属しているらしい。

「聞いた事無いな」

「聞いた事があってはおかしいですからね」

 ユウコはまた小さく笑った。人形の様に笑う少女である。

「私は諜報部の北条(ほうじょう)です」

 今度はユウコの後ろに立っていたスーツの男が同じく名刺を渡してくる。柔和な表情で印象がいい。人望がありそうだ。

「一応俺のも渡しておこう」

 さらに机の側にいたシンも同じ行動を取る。

「あれ、おっさんじゃん。何やってんのこんなとこで」

「俺も依頼人の側なんだよ! てか気付けよ! さっきからずっと腕組んでここにいたぞ!」

 後から聞く事になるが、シンも暦史書管理機構なる組織に諜報員として所属しているらしかった。

「いやおっさんのはいらんわ」

「何でだよ! もらえよ!」

「いやいらんわ」

「もらえ!」

「いらん!」

「もらえ!」

「絶対にいらん!」

「ま、まあまあシンさん、ミミミさんはこう仰ってますし、無理に差し上げるのも……」

 名刺を巡るふたりのやり取りの間にユウコが割って入る。

「ムキー! 相変わらず腹立つガキだな! お前にこの依頼が回ってきたのは俺の推薦もあったんだぞ!」

「え、マジ? サンキュで~す。おっさんマジ感謝」

「じゃあ名刺をもらえよ!」

「絶対にいらん!」

「何でだよおおおおっ!」

「あの……そろそろ先に進めませんか?」

 北条が痺れを切らして口を開いた。ミミミの後ろで見ていたシドも同じ気持ちだった。

「そうですね。ではシドさん……」

「ちょっと待って。こっちのデブは何なん? ひとりだけ紹介が無いけど」

 話を進めようとしたユウコをミミミが制した。デブと言われた小太りの男は反応する。

「デブって言うな!」

「そのデブはほっとけ。後で説明する」

 とシン。

「デブって言うな!」

「まあまあ、落ち着いて下さいデブさん」

「だからデブって言うなあ!」

 終いにはユウコにまでも言われる始末である。小太りの男はショックを受けその場にうずくまりすすり泣き始めた。

「何だよ何だよ、皆してオイラを馬鹿にしやがって。ああリリィたん……オイラを元気づけておくれ」

「リリィ? 恋人?」

「いや、一方的に好意を持ってるだけだ。まるで相手にされてないが」

 ミミミの言葉にシンが代わりに答える。

「キモッ!」

「ええと、シドさん……改めて確認したいのですが、本当に店内に他のお客さんはいらっしゃらないんですよね。私達だけという事で」

「ええそーっすよ。地下も見てきましたけど誰もいないっす」

 シドは頷く。元より客はユウコ達以外いなかった。彼女らが来て以降は勝手に臨時休業にしている。念のために店内を確認もしたし、間違いは無い。

「ほほう、慎重だねユッコちゃん。何か極秘の文書でも探して欲しいの?」

 ミミミがそわそわしながら尋ねた。ていうかこいつ馴れ馴れしいな。

「……その通りです。今回我々がミミミさんにハントを依頼したい本というのは、コロンシリーズなのです」

いよいよ暦史書編の始まりです。それはさておきシドはクズみたいな大学生になりそうですね。麻雀をやってる大学生の中にろくな人間なんていやしませんよ(偏見)。

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