Vol.19:ママさん大東京紀行
ママさんが来ました。
「お・い・し・く・な・あ・れ、えいっ……はい、どうぞお召し上がり下さいませ~ご主人様~」
「ありがと~まほちゃ~ん。いただきま~す……もぐもぐ……うはあ美味え、美味しいでござるよまほちゃ~ん」
「ほんとですか? やったあ、嬉しいです! ありがとうございますご主人様♡」
「いや~まほちゃんの魔法の呪文のおかげだな~もぐもぐ」
「……アホらし」
嬉しそうにナポリタンを頬張るシドを冷めた目で見つつミミミは口を尖らせていた。吸い上げられたメロンソーダはハートの軌跡を描いて彼女の口へと流れ込んでいく。
「たかが一言とちょっとした動きで500円もふんだくれりゃそら商売繁盛だわな。馬鹿馬鹿しくてブックハンターなんてやってらんないよ」
「お前はそんなつまんねえ事を言いやがって。ただの言葉じゃないぞ。まほちゃんが僕のために心を込めて言ってくれたんだ。実際美味いしな」
「そりゃ元から美味い料理提供してるからに決まってんだろ」
「その元から美味い料理を更に美味く味わえる気分になるんだよ。サービス業ってのはそういうもんだ」
「ぐっ……シドのくせに一理ある発言しやがって」
少し悔しそうに彼女はまたちゅーと口を尖らせた。
「お待たせしました~」
先ほどシドのナポリタンに魔法の言葉をかけた少女とは別のメイドがオムライスを持ってやってくる。彼女はそれをママミの前に差し出すと、ケチャップで文字を書き始めた。
「マ・マ・さ・ん・へ。お・い・し・く・た・べ・て・ね♡ はいっ、ど~ぞっ」
「ま~、お上手。よく出来ました~。ぱちぱちぱちぱち」
「ママはママで何か母性出してるし」
「何だ嫉妬してんのか、母親を取られた気分にでもなってんのか」
「んな訳あるか」
そう言って彼女はまたストローをちゅー。
彼らは予定通り秋葉原のメイド・カフェに来ていた。初めに入店した際主人の帰宅を出迎えたメイドに対しママミが本気で他人の家と間違えたと思い一旦退店するという一幕があったが、シドの説明によりメイド・カフェの設定を理解してくれた様であった。彼女は上品にオムライスを口に運び、その味につい頬を緩めていた。楽しんでいるのなら何よりである。
一方ミミミは不機嫌な状態が続いている。ただでさえ母親といる事で調子が狂っているというのに、そこに更にメイド・カフェである。彼女はここで働くメイド達の様ないわゆるぶりっ子的な素振りを好まない。
「それにしてもみんな可愛いわ。ミミミちゃんも着てみたら似合いそう」
「きっ、着ないよこんな服」
母親の言葉にミミミが反抗的な態度を見せた。それを聞いたシドはすかさずツッコむ。
「いやこないだ思いっきり着とったがな」
「まあ、そうなの~? ママも見てみたかったわ~」
「……っ! ……ちゅー」
いつもならここで「そりゃあ超絶美少女のボクが何着ても似合わない訳ないし?」とか言ってもおかしくないのであるが、彼女は顔をしかめてまたジュースを口に含む。やはり今日のミミミはどこかおかしい。
「何ならママさんが着ても似合いそうですけど」
「う~ん、お洋服は落ち着かなくって……」
「……実はですね、メイド服と和服をかけ合わせた和メイド服なる物も存在するんですよ……」
「そこ、人の母親に変な事を吹き込むな」
「お前は何か食わなくていいのか?」
「食欲が湧かない。ママ、もうメイドはいいっしょ? 次はどこ行きたいの? 食べ終わったらさっさと出ようよ」
「え~とね、次はね……あれを見たいと思ってるの。何だったかしら……でっかいの」
ずいぶんとまた抽象的な説明である。
「え~っと、と、とう……東京……あら嫌だわ、すぐここまで出かかってるのに思い出せない」
「……あのママさん、もしかしてとは思いますけど東京タワーですか?」
「! ええそうそうそれだわ。すご~いシド君物知りだわ。ねえミミミちゃん知ってた? 東京サワー」
「そんな酒は知らないよ!」
シドが先に食べ終え、ママミの食事が終わるまで待ってから(えらくのんびりと食べていた)一行はメイド・カフェを後にした。帰り際にクーポン券を渡されてしまったためまた必ず来ようとシドは思った。
服部に連絡を入れてコイン・パーキングに向かっている途中、横断歩道を渡り終えた所でとある人物とばったり鉢合わせをした。
「あ」
「あっ」
先日のハントにおいて妹の写真集を譲り受けた少女、アイズだった。手には黄色いレジ袋が提げられている。すぐ近くにあるディスカウント・ストアの物だ。中身はどうやらコスチュームらしい。
「……あれ?」
それを見たミミミは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「あれあれあれ~? いつぞやボクが情けをかけてあげたアイズちゃんじゃああ~りませんか? こんな所で出会うとはまた奇遇ですね~。YOUは何しに秋葉原へ? お? おお? その袋に入ってるのはまさかコスプレ道具じゃああ~りませんか~? あれれ~おっかしいな~? こないだはもう二度とやらないみたいな事言ってなかったかな~」
「なっ……ち、違うわよ! これはその……ええと……えと……た、頼まれて仕方無く……」
「何だかんだで楽しかったんですね」
シドも面白がってからかい始めた。
「ちっ! 違うわよそんなんじゃなくて! いや、楽しくなくはなかったけど! でもこれはしょうがなく……」
「……のわりには買い込んでるじゃん」
「ギクッ! …………え、ええそうよちょっと面白かったなって思ったわよ! と、とにかく私は急いでるからじゃあね!」
赤面しながら彼女はついに白状し、逃げる様に立ち去っていった。
「……帰ったらチャット飛ばしてやるか」
ミミミ達がパーキングに着いて五分ほど経った後に服部もやってきた。
「申し訳ございません。お待たせしてしまいました」
「いやあんた何やっとんじゃい!」
その姿を見てシドはツッコまずにはいられなかった。服部の服装が変わっている。ここに来るまでは背広だったのに今では「チームT推し」と書かれたTシャツ姿になっている。おまけに首にはタオルが巻かれ手にはケミカル・ライトが握られていた。先述のディスカウント・ストアが入っている建物の中にある劇場で行われているアイドル・グループ「ATM31」のライブに行ってきたに違いなかった。
「時間潰しにと入ってみたら思いの外盛り上がってしまいまして……気付けばCDを保存用、鑑賞用、人に貸す用と3枚買っていました」
「がっつりハマっとるやないか! ……あの、ちなみにみゆゆはいました?」
「握手しました」
ガッツポーズをする服部。
「うああいいなああああ!」
「下らん事話しとらんでさっさと行くぞ童貞。ほら服部も早く」
「はい、申し訳ございません……それでは皆様準備はよろしいでしょうか。シートベルトはきちんとお締め下さい。次の目的地へ向かいます。タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャーーーーーーーーッ!」
「あら、東京タワーっていつから真っ赤になったのかしら」
「東京タワーは最初から真っ赤だよ」
「あらあら? 確かママが行きたかったのは真っ白かった様な……」
東京タワー、十秒で離脱。
そうして次に訪れたのは墨田区にある東京スカイツリーである。ママミは本当はこちらの方に行きたかったらしい。地上350mに位置する展望デッキから東京の街並みを眺めながら彼女は嬉しそうに笑った。
「まあ凄い眺め。うふふふ、人がゴミの様だわ」
「ママさん、それ使い方間違ってます」
「この高さはまずいな……」
今度はミミミが深刻そうに呟く。
「あれ? お前高いとこ駄目だったっけ? ……でもまあ確かに、ちょっとヒヤッとするな」
「やっぱり? ……吊り橋効果ってあるじゃん。このままだとそれでシドがボクの事を意識してしまう。はー困った困った」
「杞憂ってんだよそれ」
三人はそのまま順路に沿って進み、やがて下層部分のショッピング・フロアーへと戻った。ここには土産物屋がたくさんあるため、せっかくなのでママミは家族に何か買っていく事にした。
「ん~、ミミミちゃん、ムムちゃんとメメちゃんは最近どういう物が好きなのかしら」
「え? そんなのボクに聞かれても知らないよ。ボクだって毎日会ってる訳じゃないし」
「あらあら困ったわねえ。おじいちゃんはお酒でいいとして……」
他の家族や使用人に買う物の検討はついている様だが、どうやら幼い兄妹に何を買っていこうかがなかなか決まらないらしい。
「ちょっとトイレ行ってきます」
そう言ってシドはさりげなくその場を離れた。あれこれ思案している彼女らの様子を見て一旦ふたりきりにしようと思ったからである。ミミミに気を遣うのは柄ではない気がするが、傍から見ると仲のいい親子だ。水入らずにしてもいいだろうと考えた。ほんの少しだけだが、親を亡くした彼にとってふたりの姿が羨ましく見えたのは内緒だ。
適当にぶらぶらした後ふたりの所にもどってみたが未だに決まっていなかったので、結局三人で一緒に考える事になった。
「他に見ておきたいとこはどこがあるんです?」
「え〜と……あそこに行ってみたいの。凄く美味しそうなお名前の……ああ今度はすぐに思い出したわ。はんじゅくよ、はんじゅく」
「あ、はんじゅくかー。はんじゅくですねー……って」
どっちだ。
「あのママさん、思い当たるのが2ヶ所あるんですけど……」
「人がね、たっくさん歩いてるとこ」
どっちだ。
「駅のお名前にもなってるのよ。シド君知ってた?」
だからどっちだ。
土産を買い終えた一行はタワーの麓まで下りながら次なる目的地を決めていた。さて、果たしてママミが行きたがっているのはどちらなのだろうか。新宿か、はたまた原宿か……。
外に出た所で一旦服部の姿を探す。今回はもうすでに路肩に人力車を着けているそうだが……。
「あ、いた」
「……何か捕まってないか?」
残念な事に、観光客に彼ら向けのサービスだと勘違いされていた。
服部を観光客から引き離した後訪れたのは、人でごった返す原宿、竹下通りだった。ママミが行きたがっていたのがもしここではなかったとしたら今度は新宿に向かえばいい。どうせ大した距離も無いのだし。
「凄い人だわ。テレビで見たのとおんなじね」
どうやら当たりらしい。KAWAii文化の発信地としてフランスのテレビで取り上げられているのをたまたま現地で見たそうだ。そんな大事な事は先に言って欲しかった。通りには奇抜な格好の人物が多く行き交うが、それでもやはり着物は人々の目を引くらしく、時折ママミを珍しそうに見てくる人がちらほらいる。
「原宿う? ママが一番縁遠い場所じゃん」
「うんそうね。目がちかちかするわ。ミミミちゃんは来慣れてそうね」
「全然来ないよこんなとこ。で、ここで何するのさ。まさかKAWAiiファッションしたいとか言い出さないよね、いい年こいて」
「う~ん、賑やかだから行ってみたいな~って思ってただけよ」
「でもここ例のKAWAii文化やらと融合したカラフルでポップな着物とか売ってそうな気もするけどな。案外そういうのもママさん似合うかも。見た目若いし」
「も~シド君ったらあんまりおばさんをからかっちゃ駄目よ。めっ」
「マジでやめて。人の母親にそんな服着させないで」
「何かママさんにプレゼントでも買ったらどうだ? せっかく来たんだし」
「ええ? 何でボクがそんな事」
「まあほんと? だったらママが先にミミミちゃんにプレゼントしようかしら。あげっこしましょ」
「は!? いらないよ!」
「お〜、なるほど、いいですね」
「いいってば」
「だ〜め。もう来ちゃいましたものね」
「く……」
まったくもって微笑ましい光景だ。ミミミには何が不満だというのか。
「ミミミちゃん何か欲しい物あるの?」
「無いよ。現金くらいしか」
直球過ぎる。
「新しいバットとかは? もうぼろぼろでしょうそれ」
「まだ使えるからいいよ」
何に使うつもりなんですかね……ちなみにその昔シドが買ってやった物である。
「あら素敵なお店があったわ」
適当に店を探しながら歩いているとママミが突然立ち止まった。和雑貨屋だ。
「あ……でもこういうのは古臭いのかしら……」
「……もう別にいいよ、ママの好きなので」
気を遣う素振りを見せる母親に対し、娘は目を合わせずに小さく言った。
時が経つ事三十分。あれこれとママミが物色した結果、ミミミへのプレゼントは花飾りが付いたヘアゴムに決まった。会計を済ませると彼女は機嫌よく再び竹下通りへと踏み出すのだった。
「はい、ミミミちゃん。あげる」
「……よりにもよって何でこんな女っぽい物を……」
「ママさんの好きなのでいいって言ったのはお前だろ」
ていうか、蝶はよくてどうして花はアウトなんだよ。基準がわからんわ。
「……まあいいよ、どうせ付けないし」
「まあ酷いわ……でも、そう言って捨てずにとっておいてくれるだけでもいいの。さて、次はママの番ね。ミミミちゃんはどんな物をプレゼントしてくれるのかしら」
「えー、ほんとにやるの? めんどくさい」
「たまには親孝行しろよ」
「シドがやってよ」
「僕がやったら意味ねーだろ……いや無くはないけどちょっと違うだろ」
「えー……じゃあ何だろ。クレープとかでいいかな」
「プレゼントなんだから何か物をあげるべきじゃねーの」
「えー……ボクが生まれてきた事が何よりのプレゼントじゃん」
「そんな話は今はしとらん」
「あーじゃあもうここでいいよ」
彼女はめんどくさそうにとある小さなビルの細い入口にある急勾配の階段を上っていった。
「お前そんな適当に……」
と言いかけた所でシドは外壁から突き出ている小さな店の表示プレートに目をやった。そこには傘の絵が描かれている。
「……傘か」
なるほどああ言いながらも少しは真面目に考えているらしい。
「僕達も行きましょうか。急だから気を付けて下さいね」
「うふふ。は~い」
顔を上げると紺地に白い星がプリントされたミミミのパンツががっつり見えた。ここに入店する際にはミニスカートは要注意だな、と彼は思った。
「いらっしゃいませー」
二階にある店の中に入ると店員が気怠げに挨拶をする。女性らしいが奥の方にいて姿は見えなかった。室内は暖色の照明で薄暗くなっており、ピアノの音がうっすらとスピーカーから流れている。落ち着いた空間だ。
「へー、めっちゃいっぱいあるな。オーダー・メイドも受け付けてるんだってよ。生地から素材から、色とかまで好きなのを選べるらしいぞ。結構本格的な店だな」
「まあ、和傘もあるわ」
「何か好きなの選んでいいよママ」
「え~、ミミミちゃんが選んでくれないと駄目よ」
「いい加減諦めて真剣に選べよ」
「いいの? ボクのセンスで選んだらとんでもなくドギツいのになるかもよ」
「いーの。ミミミちゃんが選んでくれた物なら何でも」
「……はあ……」
やはりミミミは母親にペースを持っていかれている。観念したのか無言になって品定めを始めた。その様子をしばらく窺っていた店員がやがて近付いてきて彼女に話しかけた。
「お客様、お母様への贈り物ですか」
「えーまあはい………………」
ミミミが急に固まった。どうしたのかとシドが彼女のそばまで行ってみるとその理由を一瞬で理解するのだった。
「へ~そうなんですね~。親子仲がとってもいいんですね~」
にやにやとしながらそんな事を言ってくる店員は紛れもなくアプリコットだった。そう言えば以前原宿で傘屋をやっているとか言っていた気がする。
「あれ? どうしたんですかお客様? どうしてそんなに恥ずかしそうに顔を背けるんですか? お客様? お客様? ママと一緒に仲良くお買い物に来ているお客様~?」
「……くそっ、不覚だった……まさかゴリ子がやってる店だったとは……」
「ゴリ子っつーなっつってんだろ刺し殺すぞ」
「まあ、またミミミちゃんのお友達?」
「えーと、ゴリ子さんって言ってママさんとかミミミの同業者です」
「あらあらあらあら。お仕事仲間なのね」
ママミは深々と頭を下げた。
「いつも娘がお世話になってます、ゴリラさん」
「ゴリラじゃねえよ! お前ら親子揃って人の事何だと思ってんだ!」
「あらあら? 本当、ゴリラさんじゃないわ。もう、ミミミちゃん駄目でしょそんな事言っちゃ」
「ママしか言ってないよ! いいかゴリ子、ここは冷やかしお断りだからな!」
「それ客が店員に言う台詞か。ま、悪ふざけはこれくらいにしてやるからゆっくり見ていけよ。ママへのプレゼントなんだろう」
「知り合いのよしみで割り引きになるっていうんなら買ってやるか」
「誰も言ってねーよ」
アプリコットのアドバイスも聞きつつミミミは母親へのプレゼント選びを再開した。
その後、竹下通りで買い物を済ませた一行は時間も少し残っていたため明治神宮に参拝をする事にした。ママミは先ほどミミミに買ってもらった傘を差して嬉しそうにくるくると回している。和傘なのだが、水玉模様が描かれていてほどよくモダン・テイストに仕立て上げられている物だ。着物姿とはあまりバランスが取れていない様にも見えるのだが、先ほど言っていた様に娘からの贈り物以上に貰って嬉しい物は無いのだろう。こういうたまに出る無邪気さ、子供っぽさはやはり親子で似ているとシドは感じた。
参拝を終えた頃には五時を回っていた。ママミと過ごす時間ももうお終いである。彼女はこれから青梅にある自宅へと帰っていく。そこで三日ほど過ごしたらまた海外へとハントに旅立ってしまうとの事だ。本当に忙しい人である。
「今日は本当に楽しかったわ。ふたりともありがとうね」
「僕が水を差した気もするんですけど……久し振りに会えて嬉しかったですよ」
「まあまあ、水を差しただなんてとんでもないわ。これからも末永くミミミちゃんをよろしくね」
「末永くは嫌です」
「ミミミちゃんもたくさんお友達がいるみたいでママ安心したわ」
「まあ、ボクって好感度100%だし」
「うふふ、自慢の娘を持ててママは幸せよ」
「お気を付けて。服部さんも」
「はい、ありがとうございます」
服部は未だにTシャツ姿である。
「では奥様、行きましょう」
「ええ……」
ママミは人力車にゆっくりと乗り込む。どこかまだ後ろ髪を引かれている様にも見えながら。たった二日間。母娘が共にした時間は決して長くはなかった。次に会えるのはいつになるのだろうか。シド自身の事はどうでもいい。ミミミが母親に会えるのが、だ。
「お前ちょっと貸せ」
「な、何すんだよいきなり」
思い立った彼はミミミが手に持っていた母からのプレゼントを奪い取り、強引に彼女の髪を解いてその花飾りが付いたヘアゴムで結び直した。
「きゃーっ! 何すんだよ変態! いやー!」
「何か一言言ってこいよ」
どん、と彼女の背中を押して母親の前に改めて立たせた。ママミは娘の姿を見て嬉しそうに笑みを浮かべる。
「うっふふ。やっぱり似合ってるわ。ママの見込みに間違いは無かったわね」
「……そりゃあ、ママの娘だし」
「……くすくす」
ママミは扇子で口元を隠した。
「あ、そうだわミミミちゃん。もしかしたらだけど、ミミミちゃんの元に近々大きなお仕事がやってくるかもしれないわ」
「……大きな仕事?」
「う~ん、何となく……ただの予感だけど」
「何それ……気になるじゃん」
「ちょっと夢の中である本を見付けちゃって……もしかするとミミミちゃんが関わっちゃうかもな~って」
実はママミは不思議な力を持っている。一言で言うならば、彼女は本の所在を正確に察知する事が出来るのである。そしてその力の片鱗は娘であるミミミにも表れている。
「まあ、それはその時が来たらわかるわ。それじゃあミミミちゃん、いってきます」
「えっ……ちょっ、気になるじゃん」
最後に意味深長な発言を残してママミは人力車に揺られ去っていった。残されたミミミとシドは彼らが見えなくなるまでずっと遠くを見ていた。
と、ふとしたタイミングでミミミが突如シドの頭をバットで連打し始める。
「いたっ痛い痛い痛いって」
「腹減った! 飯! お前のおごりでな!」
パカン! パカン! パカン!
「いてえ! 何で僕がおごるんだよ!」
「うるせえ! とっととファミレス行くぞ! おらっ!」
パカン! パカン!
その夜、東京深層にいる有栖川ユウコの耳にひとつの知らせが入った。とある本が日本のとある場所に眠っている可能性があるという物だった。
それは都市伝説として語られている本。
「この世に存在してはいけない物語」とまで称される幻の本。
―――もしかしたら、あなたも一度くらいならその名前を聞いた事があるかもしれない本。
ママミの予感は当たっていた。ブックハンターミミミとシドは再び、この本に関わる事になるのである。
さて、いよいよ次回より本作品の柱となるエピソードに突入します。シリーズが始まってかれこれ三年……ようやくミミミ達が本格的に繋がります。




