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第6話 日本へ緊急帰国

【前回までのあらすじ】マレーヤでラザクからデータを受け取った紅梅は大中の諜報機関GISAの追手を逃れ、隠れ家へ身を潜めた。しかしラザクからの解除コードは送られてこない。紅梅は国家情報局へ迎えを要請し、マレーヤ支局へと向かった

紅梅を乗せたSUVが到着したのは、カルヤにある在マレーヤ共和国日本大使館だった。


普段、外務省の職員たちが利用する正面口ではなく、堅牢なセキュリティに守られた別区画の裏ゲートを通過する。


厚い防護シャッターを抜けた先には、同型の特務仕様SUVが十数台、さらに武装した装甲車が4台配備されていた。


「外交特権」という巨大な盾の裏に隠された、国家情報局の極秘施設。それがこの大使館の実態だ。


SUVを降り、生体認証自動ドアを抜けた先に、地下へと直行するエレベーターがある。


地下2階。扉が開いた先には、国家情報局マレーヤ支局の中枢たるオペレーションルームが広がっていた。


壁一面を埋め尽くす超高精細モニターと、世界中の支局と直結した通信端末が青白い光を放つサイバネティックな空間。


紅梅はその一角にある来客用の待合室に腰を下ろした。おもむろに支給品の秘匿スマートフォンを取り出し、外交通信専用の暗号化アプリを起動する。


しかし、映し出されたのはセーフハウスの時と同じ空白の画面だった。


「……やはり解除コードは、届かずか……」


呟きと同時に重々しい足音が近づいてくる。待合室のドアを開けたのはマレーヤ支局長、岩下陽介(いわした ようすけ)だった。


年齢は43歳。あまたの諜報活動に従事した生粋のキャリア組だ。


「支局長の岩下だ」


「紅梅です。はじめまして」


マレーヤ支局の前支局長とは面識があったが、新たに赴任してきた岩下とはこれが初対面だった。


紅梅は速やかに立ち上がり、会釈を交わすと、昨日のマレーヤ入国からの全容を報告し始めた。


マレーヤの諜報員ラザクとの接触、ナイトクラブでのデータキューブ受領、大中のGISA工作員による強襲、市街地での逃走劇、そして今朝もたらされたラザクの死。


感情を排し、淡々と語られる克明な報告。すべてを聞き終えた岩下は、苦々しい表情で深く腕を組んだ。


「……彼はコードを吐かずに逝ったのか。大中が手段を選ばず追いかけ、彼が命を賭して守り抜いたデータ。それだけの価値があるということだな」


「ええ。ですが、肝心の解除コードが届かない以上、このデータキューブはただの鉄くずです」


岩下は少しの沈黙の後、紅梅の肩を強く握った。その手には、重い責任が乗っている。


「すぐにそれを持って東京の本部へ飛べ。私から話は通しておく。国家情報局が持つ暗号解読技術の総力を挙げ、このキューブの中身を解読するんだ」


「了解しました」


紅梅は岩下へ一礼すると、すぐに待合室を後にしエレベーターで地上階へと向かった。


支局長の岩下への報告から15分後、大使館の通常ゲートが警備員の手によって完全に閉鎖された。


同時に、国家情報局が占有する裏ゲートの赤色灯が勢いよく回転を始め、ただならぬ緊迫感を周囲に撒き散らす。


地下駐車場から3台の特務仕様SUVが猛烈な勢いで飛び出してきた。 紅梅はその2台目に乗り込み、前後を警護車両が固める。


車列はサイレンをけたたましく鳴り響かせ、大使館のゲートを飛び出す。


他国の主権下でこれほど傲慢にサイレンを鳴らすことが許される。それが現在の国際社会において日本が持つ絶対的な存在感だった。


市中を物々しい空気が引き裂いていく。行き交う人々が何事かと視線を向けるが、パトカーでもない漆黒の車両たちが群れをなして疾走する異様な光景に誰もが言葉を失う。


カルヤ国際空港までは約12キロメートル。昨日のGISAのデータ奪取に賭ける執念から考えれば、空港までの道のりは油断できない。突然の襲撃を受ける可能性もある。


現地警察の協力を仰げば済む話ではあるが、そんな手続きを踏んでいる時間はない。


けたたましくサイレンを響かせ、威圧的な態度で道を切り開き、一刻も早く空港へたどり着くことが最善の方法だった。


交通量が多い市街地を強行突破すると、車列は郊外を貫く幹線道路へ出た。エンジンの咆哮とともにスピードを加速させて空港を目指す。


空港が視界に入ると同時に滑走路へと続く特別ゲートの信号は一斉に青(通行可)へ書き換えられ、遮断機が上がる。


先頭の装甲車がゲートをくぐり抜け、その勢いのまま車列は軍用滑走路へと進入する。


陽炎の立つアスファルトの上で待機していたのは、国家情報局の専用ジェット機だ。 SUVのドアが開くと同時に、紅梅はジェット機のタラップを駆け上がる。


機内へ乗り込むと即座に重厚なハッチが密閉され、強固なロック音が響いた。


ツイン・ターボファンエンジンが爆音を上げ、機体は滑走路を力強く離陸し南シナ海の上空へと舞い上がる。


窓から覗く視界の下には吸い込まれそうなほど青い海が見えた。ラザクが命と引き換えに託したデータキューブ。


そこには一体…どんな情報が眠っているというのか。そして、解除コードなしで、本部の技術陣はこれを解き明かすことができるのか。


紅梅は胸に渦巻く不安を抱えたまま、日本へと向かう機内の中で、ここまでに起きた全ての出来事を脳内で整理し始めていた。

【あとがき】ラザクのデータキューブを日本へ持ち帰る紅梅。果たして解除コードなしで中の情報を得ることができるのか!?次回は本作の主人公の一人、紅梅元の過去が明らかに!ご期待ください。


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★本作品はフィクションです。物語に登場する人物、団体、組織、地名、イベント、ならびに一切の国家・政府機関・外交関係の描写はすべて架空のものであり、実在のいかなる対象とも関係ありません。また、作中で扱われるいかなる思想、主張、政治的立場、歴史的解釈についても、特定の立場を支持・肯定・非難する意図は一切ありません。

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