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第23話 日本の闇

【前回までのあらすじ】ヤマトマテリアルの正体。それは常温で超伝導を可能にする「電気抵抗ゼロ」の新素材だった。その恩恵により日本は輝かしい発展を遂げ、国際社会での地位を確固たるものとする。

「水道の蛇口」を握った人間が、それを絞りたくなるのは「性(さが)」である。


日本政府は、ヤマトマテリアルの供給量を極めて慎重にコントロールした。多すぎず、少なすぎず。


他国との直接的な紛争を引き起こさないギリギリの均衡を見極めながら、世界へ供給していたのである。


しかし、それだけではこの国の不安は消えなかった。


発見当初、ヤマトマテリアルに関する一切の情報は日本の最高機密とされた。数年に及ぶ極秘研究の末、開発されたのが完全なる電気抵抗ゼロを誇る常温超伝導体のヤマトマテリアル、通称「YM−零式」である。


まず自衛隊の最新鋭レールガンや防衛装備に組み込まれたYM−零式は、従来の軍事の常識を覆す圧倒的な成果をもたらした。


その絶対的な優位性を確信した日本政府は、次なる段階としてこの技術の民間転用と対外輸出、すなわち「ヤマトマテリアルによる世界戦略」へと踏み出す。


それは、世界の産業基盤を「ヤマトマテリアルなしでは成り立たない構造」へとじわじわと組み替えていくものだった。


しかし、そこで立ちはだかったのが、日本に深く刻まれた歴史のトラウマだった。


かつてエネルギーや資源の枯渇によって追いつめられ、悲劇的な戦争へと引きずり込まれた歴史である。


気前よくこの奇跡の鉱物を世界に分け与えてしまえば、いつかまた同じ痛みを味わうのではないか。もう二度と、資源の貧困に怯える日々へ戻りたくはない。


その怨念にも似た防衛本能が芽生えた瞬間、単なる「供給量の制限」だけで足るのかという新たな疑念が日本政府を襲った。


米・大中・露といった大国は、今でこそ日本に頭を下げているが、彼らが日本から買い集めたヤマトマテリアルによって圧倒的な軍備を整えたとき、その牙がいつこちらへ向けられるとも限らない。


さらに、現在把握されている南鳥島沖の埋蔵量をもってしても、無制限に放出すれば、せいぜい100年程度で尽きる。


資源が尽きれば、日本の黄金期もまた終焉を迎えるのだ。未来の日本人のために、今ここで決定的な「楔(くさび)」を打っておかねばならない。


追いつめられた思考の果てに、日本政府とヤマトマテリアルの精錬を担う日本の財閥系企業連合は、ある妙案に到達する。


国内の民間市場、そして諸外国へ対外輸出されるすべてのヤマトマテリアルに対し、精錬時の分子構造制御によって、意図的に「5%のエネルギー損失(電気抵抗)」を残す加工を施した「YM−呉式」の開発である。


そして国内および世界に対しては「ヤマトマテリアルとは、電気抵抗を95%削減する奇跡の新物質である」とだけ発表した。


世界も、そして日本の民間企業すらも、最初から「95%削減の物質」としてこれを受け入れたのである。真の常温超伝導体である「YM-零式」の存在は、日本の最重要機密として闇に閉ざされた。


数字にすれば、わずか「5%」の差に過ぎない。日常生活や軽工業のレベルであれば、5%の熱ロスなど取るに足らない微熱に過ぎず、世界はこれを「奇跡の新物質」と絶賛した。


しかし、規格外のメガワット・ギガワット級の大電流を必要とする軍事領域、レールガン、高出力レーザー、大型アクティブ・レーダーなどの世界においては、ジュールの法則(発熱量は電流の二乗に比例する)という物理の鉄槌が襲いかかる。


他国が輸出用のヤマトマテリアルを横流しし、自国の最新鋭兵器に組み込もうとした瞬間、たった5%の電気抵抗から生じた数千度の熱が回路や機器そのものをドロドロに溶かしてしまう。


結果として諸外国は、兵器を動かすために昔ながらの巨大な冷却ファンや重厚なラジエーターを積み込むしかなく、兵器の小型化も、レールガンやコイルガンの実用化も原理的に不可能となった。


世界が「エネルギー革命」に酔い痴れる裏で、日本が仕掛けたこの「5%の呪い」こそが、自衛隊の兵器を世界で唯一無二の存在たらしめる「見えざる守護者」となっていたのである。

【あとがき】2話にわたってヤマトマテリアルの説明エピソードを入れさせてもらいました。ちなみにヤマトマテリアルを取り巻く世界の様子については、後日、近況ノートで詳しく補足したいと思います。次はいよいよお待ちかね!カラスたちの登場です!ぜひご期待ください!


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★本作品はフィクションです。物語に登場する人物、団体、組織、地名、イベント、ならびに一切の国家・政府機関・外交関係の描写はすべて架空のものであり、実在のいかなる対象とも関係ありません。また、作中で扱われるいかなる思想、主張、政治的立場、歴史的解釈についても、特定の立場を支持・肯定・非難する意図は一切ありません。

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